21話『小物を作る』『いや、誤解なんだ……』
本日2話目です。ご注意ください
家に帰ってきた私たちは、夕飯の準備をすることにした。
私はパンを焼けるように下ごしらえをしたあと、ほかの料理はリルがしてくれるということなので、手が空いてしまった。
――カーウィンさんに木材とってきてもらったし、まだ明るいうちに板にしちゃって、椅子とかベッドになるように加工しちゃおうかな? あ! ベッドと言えば、布は持ってきてもらったけど、綿とかないじゃん! ……仕方ない……草やはっぱを程よく乾燥させてそれを詰めるか……今度は綿とかも頼まないとなぁ。
そう思いつつ、二人に「ちょっと作業してくるからあとはお願い」とだけ告げて、裏の屋外作業場に向かう。
カーウィンさんが落とした枝をまとめて置いてあるところに風魔法をつかい、枝から葉だけを散らし、近くの20センチくらいの草を、根っこは残して刈り取っていく。
それらと一緒に薪にする枝や、板にする木もまとめて一か所に集め、魔法で水分を程よく抜いて乾燥させていく。
――まずは、今夜使えるようにベッドが優先だよねぇ。
カーウィンさんが取ってきてくれた木を板状に切り分け、組み立てられるように溝や突起を削って作っていく。
マットを敷く部分は特に加工も必要なく、サイズを合わせるだけなのですぐそろい、足となる部分もシンプルに作ったため、2台分のベッドの材料はそれほど時間もかからず出来上がった。
それを浮遊魔法で浮かせて裏口から入り、増築した部屋へと運び込もうとする。
「何か物音がしてると思っていたけれど、それはなにかしら?」
「……ベッド。新しい部屋にまだないし、泊まるでしょ」
「ありがとうございます。運びましょうか?」
「……大丈夫。ご飯作ってて」
リルの手伝いをしているカーウィンさんが何か言いたそうにしていたが、結局私が台所を出るまで何も言ってこなかったので、気のせいだったのだろう。
大部屋から廊下に出て、左に並んである部屋の手前から順にベッドの材料を置いていく。
奥の部屋ではそのまま組み立てて、きちんとはまって出来上がったことに満足感を覚えた。
手前の部屋も同じようにささっと組み立てて、大部屋に戻り今日持ってきてもらった布を、敷きマット用に加工していく。
といっても二つ折りにして、綿代わりの草や葉を入れる部分をあけ、ほかを縫うだけの簡単作業のため、こちらもそこまで時間をかけずに完成した。
次に枕や掛布団を作ろうと布に手を付けようとしたときに、徐々に気持ち悪くなってくるのを感じ、耐性ポーションの効果が切れ始めたことを知らせてきたため、布を持っていた手をおろして上を見る。
――あぁ、もうそんな時間かぁ……ご飯食べるまでは持つかなぁとか思ってたんだけどなぁ……いや、ご飯の途中で切れなくてよかったのかな……お話しできなくなっちゃうもん……おぇ……ぽ、ポーション取ってこなきゃ……
徐々に上がってきている吐き気を我慢してフラフラと立ち上がり、製薬室に置いてある耐性ポーションを取りに向かう。
人と会っていることを考えなければなんてことないのだが、ドアを挟んだ先の台所で2人の声や気配を感じる以上、それはミリーには無理なことだった。
製薬室に向けて歩き始めた時、急に台所からカーウィンさんが顔を出してきた。
「ミリー、さぎょ……っ!?」
私をみたカーウィンさんはものすごく驚いた表情をしたあと、何かに耐えるような険しい表情に変わる。
これ以上薬の効果が切れると本気で吐いてしまいそうなので、身体強化まで使って急いで製薬室へと入った。
――あああ、具合悪いとか思われちゃったかな……驚いてたもんなぁ……実際に具合は悪かったけど、別に持病とか重い病気はもってないよぉ……いや会話を想像するだけで吐いちゃうのは重いといえば重いし持病なのかな? でも平気だから、ポーション飲めばまた話せるから!
若干涙目になりながら吐き気をこらえつつ、作り置きしておいた耐性ポーションを4本手に取り、2種類1セットは明日の朝用にとローブのポケットにしまい、残りの2種類を一気に飲み干す。
徐々に落ち着いてきたところで、ドアがノックされた。
「ミリー、ご飯できたわよ」
「……わかった」
――あぁ……こういうやり取りもいいなぁ……友達というか一気に飛び越して家族っぽいけど。いつかポーションなしでも今くらいは言葉が出るようになるといいなぁ……
リルに呼ばれたことで、さっき考えていたことはどこかに飛んでいき、大部屋に戻ると料理が机に並べられていた。
リル姉に「手伝いなさい」といわれ、調理の手伝いをすることになった。これでも1人暮らしだしそれなりに調理はできはするが、おとなしくリル姉の手伝いをした方が、絶対に美味しくできる確信はある。
パンの下ごしらえをしていたミリーが「作業してくる」と出ていったため、リル姉と2人になった。
――ようやくあの圧から解放された……リル姉はよく平気だな……
「あとはお願いって言われたが、これいつ焼けばいいんだ……」
「スープをもうちょっと煮込んでから焼き始めたらちょうどいいかしらね?」
「そんときに言ってくれ。そういや、なんでゴーレム作ってるの黙ってたんだ? あんな子供みたいな言い訳までして……」
「せ、せっかくだもの、内緒で作って驚かせたいじゃない?」
あの光景をみたからか、その理由すら子供っぽく感じてしまうが、言わないでおいたほうがいいだろうと思い、それ以上その話題には触れなかった。
「それにしても【リフレクト】付きのネックレスなぁ……」
「さすがよね……こんな緻密な刻印、私には到底無理だわ……」
ミリーからもらったネックレスを手に取り、淡く光る魔石部分を眺める。
リル姉も同じように眺めつつ鍋をかき混ぜている。
「魔道具って、この魔石部分の損傷でもダメになるんだっけか?」
「えぇ、基本的にはそうね。でもこれには強力な保護魔法がかかってるわね……もはや極小の結界と言っていいレベルの……あなたが全力で壊すつもりで切りつけでもしない限りは、壊れることはないんじゃないかしら?」
「もうそれ日常生活じゃ壊れないってことじゃないか……」
「戦闘でいざというときに使えるようにってことみたいだし、それくらいの耐久がないと意味をなさないのだろうけれどね。ネックレスだし、戦闘中にこれが破損するようなことになったら……頭と体が離れ離れになっちゃってるでしょうね?」
手で自分の首を斬るしぐさをしつつ、からかうように笑いかけられる。
「こっわ……」
そう話していると圧が徐々に近づくのを感じた。
――うん、ミリーだよな。もうわかってるから変に構えないぞ……しかしなんでこんな不機嫌なんだ? もしかして調理したかったのか? いや、その割には自分から出ていったし……わからん……
「何か物音がしてると思いましたが、それはなにかしら?」
――たしかになんかザザザザーとか風の音がすごかったな……
「……ベッド。新しい部屋にまだないし、泊まるでしょ」
――あれ、泊まり確定? まじか……またあの恐怖の一夜を体験すんのか……いや前回と同じなら、尋常じゃない圧が消えた後は朝までは平穏だ。朝一のあの恐怖の目覚ましに耐えればいいだけだ……
「ありがとうございます。運びましょうか?」
――リル姉は知らないから仕方ないけど、ミリーと仲良さげになってるし、アレが原因で不仲にならないといいなぁ……今も時々圧に負けかけてるのか敬語になってるし……いやこれは魔法技術面で尊敬しているのか?
「……大丈夫。ご飯作ってて」
そういうとフワフワ浮いているベッドの材料の板を引き連れて、大部屋へと入っていった。
あの後はリル姉と話しながら調理を続け、ミリーの作業のキリがいいところでご飯にしようということになったため、大部屋にいるらしい気配の主の様子を窺うことにした。
「ミリー、さぎょ……っ!?」
――まてまてまて、なんだその威圧感は!? あの朝受けた威圧と同レベルじゃねーか! 作業中に何があったんだよ!
怯んだりおかしな行動をとらないように全力で耐えていると、ミリーはものすごい早さで製薬室へと入っていった。
――な、なんなんだよ……徐々にひどくなってるとは思ったが急に……
冷や汗をぬぐい一息ついた瞬間、別の威圧感が後ろからのしかかってきた。
「カーウィン? 今のミリーの威圧はなにかしら? あなたなにをしたの?」
「いやいやいや、みてただろうが! ただ声をかけただけだって!」
――いや、本当になにが原因かわからねぇから困ってるんだが……そのあたりはむしろリル姉のほうが事情を知ってるんじゃないのか?
「あなたよりは知ってるでしょうけど、今のはさすがに……」
「いや、前回泊めてもらったときもあんな感じだったぞ……」
「やっぱりあなた何かしたんじゃないの?」
「誓って! 誓ってなにも! していない!」
「まぁいいわ、食後にまたミリーと2人で話したいことができたわね」
――いやマジで勘弁してくれ……
今の誤解が解けるように願いながら、ご飯の用意ができたと告げに行くリル姉の背中を見送った。




