20話『ネックレスを作った』『これ使えないって本当?』
小さい種類の魔石を保管している箱から1センチほどの魔石を2つ取り出す。それを作業台に取り付けると、手をかざして【リフレクト】の魔法を刻印していく。
この魔法は本来であれば、発動中に受けた衝撃を数倍にして跳ね返す魔法で、跳ね返したほうにも相応の反動がくるのだが、ミリーはそれを改良して極力反動が来ないようにしていた。
――ネックレスだしあんまり大きい魔石だとかえって邪魔かなぁ、ってこれくらいのサイズにしようと思ったんだけど……これだと1回分しか魔力の充填できないかなぁ……まぁ許可証のおまけだし、目立たなくていいか。
と、刻印を終えた魔石を台座から取り外しながら思う。
次に銀塊を手に取って造形魔法を使う。銀塊だったものは、チェーン部分と魔石を取り付ける台座部分の形に変わっていく。
先ほど作った魔石を台座部分に取り付ける際に、認証用の刻印を先に施す。
――こっちは受動反応するから魔石も本来は必要ないんだけど、せっかく身に着けるものだし【リフレクト】ならいざというときに使えるしね。
丸い魔石を2つの輪が十字になるように固定する形に変形させて取り付け、保護魔法と一緒に、魔力が無駄に漏れないようにコーティングする術式を、台座とつながるように周りに刻印していく。
刻印の光が収まった後、軽く手をかざすと再び淡い光が灯った。
「発動分の魔力が残ってるかどうかの確認もちゃんとできてるし、これで完成かな。もう1つもちゃちゃっとつくっちゃおっか」
そうつぶやくと2つ目の魔石を手に取り、先ほど同様の作業を開始した。
2つ目が完成するころには、日が山脈に隠れようとしていた。
「お昼から結界の魔石を取りに行ったり、ネックレス作ったりしてたら結構時間たっちゃってたかぁ……はっ! 夕飯! パンの用意もしなきゃ! って、リルの方はどうなったんだろ? 様子を見るついでに結界の設置もしちゃおうか」
予想以上に時間がたっていたことに気が付き、ネックレスをローブのポケットにしまい、結界用の魔石を両手でもって家の外に出る。
裏手ではカーウィンさんが取ってきてくれた木から枝を落とし、その後片付けをしているところだった。
「お、おう。作業は終わったのか?」
「……おわった。そっちもお疲れ様。渡したいものがあるけど、説明もあるからリルのところに行く」
わかったとだけ言い、カーウィンさんは私の後に続いてリルの家に向かう。
家に入ったところの一番広い部屋で、床にばらまいた土に造形魔法を使っているリルがいた。
「え? あ、あぁちょっとしばらく魔法の練習をしてなかったから、ここなら気にせずできるかなぁと……」
と、何かを作ろうとしていたであろう土に視線を落とす。
「……魔道具制作はどうなったの」
「え? あ、いえ……まだ途中で……行き詰ったというか……なんというか……」
「……そう……結界の魔石を設置しに行きたいんだけど」
「あ、はい! いきます!」
元気よく立ち上がるリルもつれて、再度結界の魔道具を設置してる部屋へと向かう。
ここの結界の仕組みは植物を操る魔法をつかい、壁にある木製の柱から根を村の四方に伸ばし、その先から広範囲に結界が広がるというエルフ族独特のものだった。
――確かにこっちの方が少ない出力で広範囲に効果を及ぼせるもんね。同じ範囲に中心から広げるよりは魔力効率もいいし展開も早い。デメリットを上げるなら、コアからの発生じゃないから、幻覚系の魔法だとすでに根の内側にいる場合は効果がないとかかな? 強力な障壁結界だと押されていって、つぶされるか上にはじき出されるだろうけど、強度が足りないと除外指定のものに結界が壊されちゃうとかもそうか。
結界の部屋にたどり着くと、もともと設置してあった場所に魔石をもどし、ネックレスの時同様保護魔法と魔力漏れ防止の刻印を施していく。根の先から発生するようにする刻印は柱のほうにされていて、こちらは補修しなくても問題なさそうなので今回は魔石の取り付けだけで済んだ。
――ついでに隠蔽魔法の方も充填しておこうかな。……うん、この刻印……私、手を加えてるね……いつ加えたんだろう……保護魔法もかかってるから経過の予測すらつかないや……まぁ壊れてないならそれでいっかぁ。
そう思いつつ、2つの魔石に魔力をフル充填しておいた。
「……2人に渡すものはこれ」
ローブのポケットから二つのネックレスを取り出し、チェーン部分をもって差し出す。
「これが許可証なのね?」
「許可証?」
「人払いの結界魔法を展開するから、これを持ってないとその魔法に惑わされて、ここにたどり着けないらしいわ」
「どんなセキュリティだよ……城とかでもここまでじゃないだろ……いや城が見えないとか逆に問題か……」
2人がそれぞれ手に取ろうとすると、魔石がぼんやりと淡く光る。カーウィンさんは慌てて手を引くが、リルはそのまま手に取って眺めている。
「これは……?」
「……1度だけ使える【リフレクト】の魔法を付与してある。今みたいに手をかざして光ってるうちは魔力があるから使える。光らなくなったら充填して」
「は……?」
「残量までわかるなんて……」
「いやいやいや、【リフレクト】!? このサイズで!?」
「……カーウィンさんのお守りは発動できないみたいだったし、あって困るものじゃないでしょ」
「え? 使えないってどう――」
「さすがです! このサイズでこの刻印量なんて……」
リルはまじまじとネックレスを観察し、刻印を調べているようだった。
――カーウィンさん何か言いかけてた? 言い直さないし、いいのかな? リルの方は、今回のは刻印隠蔽もしてないから、何か参考になるといいなぁ。そして私と教えたり教えられたりのお話もしてほしい。
その後は、日が完全に陰ってくる前に夕飯の準備をしようということになり、3人で私の家へと向かった。
ミリーに頼まれた木材用に枝を落とし終え、それを片付けていたら圧を伴う気配が近づいてくるのがわかった。
気配の方向へ向き、少しすると案の定ミリーが家から出てきた。
「お、おう。作業は終わったのか?」
「……おわった。そっちもお疲れ様。渡したいものがあるけど、説明もあるからリルのところに行く」
――魔石取りに行ったときはここまで圧なかっただろうに、なんで壁越しで伝わるレベルになってるんだよ……リル姉となんかあったのか? とりあえずついていくしかないな……
リル姉の家に入ると、大部屋で床にばらまいた土に、何かの魔法をかけているところだった。
――さっき言ってたミリーにあげる用のゴーレムでも作ってるんだろうが、家の中にそれだけ土が散乱してると何やってんだってなるな……
「え? あ、あぁちょっとしばらく魔法の練習をしてなかったから、ここなら気にせずできるかなぁと……」
――そんな言い訳してる子供みたいな……こんなリル姉初めて見るわ……別にごまかさず、ゴーレムを作ってますって言ってもいいだろうに……
「……魔道具制作はどうなったの」
「え? あ、いえ……まだ途中で……行き詰ったというか……なんというか……」
「……そう……結界の魔石を設置しに行きたいんだけど」
「あ、はい! いきます!」
――え、この人リル姉だよな? 仕事が残ってるのに、のんびり休憩してるのがばれた新人みたいになってるんだけど? 普段見てきたリル姉はもっとキリッとしてる感じの、お姉さんってイメージなんだが……今は、その20代に見える外見年齢相応ってところだな……外見だけでみても、ミリーと逆だったらまだしっくりくるんだが……
奥の結界の部屋につき、ミリーが手早く魔石を取り付けて刻印を施していく。
――刻印する作業なんてミリーの以外見たことないが、リル姉が絶賛してたってことは、これもすごいことなんだろうな……俺には全くわからんが……
「……2人に渡すものはこれ」
結界用の魔石を取り付け終わったミリーは、小さな魔石のついた同じデザインのネックレスを二つ差し出してきた。どうやらこの人払いの結界を通過できるようにする、許可証的なものらしい。
――そういう魔道具もあるのか……城とかに使えば要人護るのに苦労しなさそうだなぁ。いや城自体は見えてないとそれはそれで問題だから、隠し部屋とかに使ってたりすんのかね? って、これリル姉とお揃いになるのか……まぁ俺の場合服に隠れるし別にいいか……
受け取ろうと魔石部分に手を近づけると、魔石が淡く光り始めた。何が起きるか分からなかったため慌てて手を引いたが、リル姉は気にせず手に取り観察しているので別に危ないものではないらしい。
「……1度だけ使える【リフレクト】の魔法を付与してある。今みたいに手をかざすと光ってるうちは魔力があるから使える。光らなくなったら充填して」
――は? うん? 今【リフレクト】って言った? 俺が持ってるのはもっとでかいし、高かったんだが? そんなものをおまけ感覚で取り付けるのか……しかも俺みたいな魔法に疎いやつでも、魔力が残ってるかどうか分かりやすいときた上に、充填すれば再使用可能だと?……世の中の魔道具もこうなってくんないかなぁ……まじで魔力残量とかわからねぇし……多少感じられても発動には足りないとかあるもんなぁ……
「……カーウィンさんのお守りは発動できないみたいだったし、あって困るものじゃないでしょ」
「え? 使えないってどう――」
「さ、さすがです! このサイズでこの刻印量なんて……」
俺の言葉は、隣にいるリル姉の大ボリュームの即反応によってかき消された。
――まって、俺がもってる魔法石発動しないの? まじで? 今まで保険として持ち歩いてたし、なんなら先日の角熊の時に使おうとしたんだが? ミリーが来なきゃ発動しないまま死んでたのか……そのあたりもあとでちょっと聞いてみるか……
そう考えつつ、夕飯の準備のためにミリーの家に帰る2人の後をついていくのだった。