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人見知り最強魔女は仲良くしたい  作者: Guen
1章『森での出会い』
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2話『私、私の手紙を読む』

 血抜きが終わった獲物はそのままだと持ち運びにくいので、手足を落とすなどして袋詰めしやすいよう解体し、入らなかった分は近くの丈夫な蔦で縛って運んだ。

 それでも100キロは余裕で超えているため、重力魔法で軽くしてそれらを背負って拠点まで帰り、拠点裏手の屋根があるだけの屋外作業場に中身を出していく。


「内臓は森で処理したから、とりあえず皮とお肉を分けなきゃね」


 と一番時間のかかる角イノシシの胴体から手を付け、手早く処理をしていく。解体された毛皮は外套の内張にでもすれば暖をとれるだろうとそれように処理をして、ほかの部位は鞘やブーツなどに使えるようになめし加工しておく。

 手早く作業をしていたが、大体の作業が終わるころには夕暮れになりかけていた。


 ――日が落ちる前に火の準備もしておかなきゃ。魔法があるとはいえ、まだ自分の魔力量を把握できてないから無駄に使いたくないしね。


 私は解体作業の片づけを後回しにし、水と風魔法で軽く汚れを落とした後、裏手から直接台所に入っていく。竈に火魔法で火をつけ、改めてあるものを確認していく。


「野菜も多少あるけど、塩とか調味料が少ないかなぁ……これは早めに買うなりしないとまず……いか……も……?」


 ふと商店で取引している風景を想像する。それだけなのに極度の緊張状態になり、鼓動が早くなり嫌な汗が出てきた。


 ――え、なんで……? 今までどうやって買い物してきたの私!?


 自分が他人と口をきいているところが想像できない。その想像の中ですら口が開かず、嫌な汗が流れるだけだった。


 ――い、今はやめておこう。幸いまだ残ってるし、実際面と向かえば以外に平気な可能性があるもんね。


「森に行けば香辛料になる植物もあるだろうし、岩塩とかあれば分離魔法使えばどうとでもなるし……」


 ――生きていくために食料関係のことばかり考えてて、対人関係を考えていなかったけど……考えるだけでこうなるとわ……ちょっとずつ思い出してきた記憶によると、森の先に村があったり商店があるらしいことは覚えているのに、買い物どころか会話すらできそうにないことを忘れてたとは……


「ま、まぁ今すぐってわけじゃないし、とりあえず今日はさっぱりして今後のことを考えよう……」


 落ち込みながらも隣の部屋に入り、玄関以外の3つのドアのほうへ向く。一つは私が倒れていた部屋、もう一つはベッドなどがあった寝室、残りの一つがトイレと浴槽のある部屋だった。

 浴槽の部屋に行き【ウォーターボール】で浴槽をいちど洗い、そこへ水と火魔法を合わせて温水にしたものを入れる。


 ――この魔法と風魔法でさっと済ませてもいいんだけど、時間があるならゆっくりしたいもんね。


 手を入れて温度を再確認したあと衣類を脱ぎ捨て、温水魔法で軽く汗やほこりを流してから湯船につかる。


「ふ、ふああああぁ……気持ちいいぃー……」


 かなり間の抜けた声を上げたものだなぁと思いつつも、今後のことを考える。


「食料問題はいいとして、やっぱり対人関係だよねぇ……うぷっ……すぐ気持ち悪くなるレベルかぁ……」


 他人と話しているところを想像しただけでこのありさまだし、どうしたものかなぁと考える。


「というか徐々に思い出した記憶によると、ここが自宅みたいなんだけど私1人じゃないよね、散らかってた服は私には大きかったし」


 起きた時に来ていた服はワンピースのようなもので、下着のひもがやけにユルユルだったこと以外は違和感なかったが、部屋にあったものはどれも大きいサイズで、私のサイズのものは見当たらなかった。


 ――それなのにほかの人のことが思い出せないし……なんだろう……ご飯食べたら寝るまで部屋を調べてみようかな。




 ゆっくりお風呂につかり、悪くなりそうだった野菜と狩ってきたきたウサギ肉の料理を食べ、干し肉の用意をしてから大部屋に戻る。


「いろいろ散らかってるけど、何か手掛かりになるものはあるのかなぁ……」


 床に散乱してる衣類の下や、机の上や棚の本を見てみるが、知ってる情報の本くらいしかない。

 寝室にいきベッドの横の机の上にあった本を手に取って開いてみると、内容は魔法の基礎知識の本だったが紙切れが挟まっていた。


「ん、メモかな……えぇとミリーへ……へ? 私?」


『ミリー、いいえミリアリア。これを読んで不思議に思っているなら薬は成功ね。これを書いているのはほかでもない貴方自身よ。正確には記憶をなくす前の貴方ね』


「え、ちょっとまって、私は自分で薬を調合して記憶喪失になってるの!?」


『困惑してるでしょうが、これにはふかーーい事情があるのよ……』


「まさかやばい情報を持ってて追われていたとか……」


『私はね……重度の人見知りなのよ……』


 ――知ってます……


『かれこれ200年は生きてきたけど、それは直らなかったわ』


「200!? え、確かに100年前の戦争のこととか詳しく覚えてるけど、実際に体験したことなの!?」


『それで私は思ったの、人に関する記憶をほとんど消してやり直せば克服できるのではないかと、ついでに10代くらいに若返れば人付き合いもしやすいかとね』


 ――しかも若返りまで……どうりで子供用の服がないはずだよ……


『ついでに不老不死とまではいかないけど、100年くらいはある程度若いままいられるようにしておいたわ。寿命で死ぬならまた200年後くらいかしらね?』


 ――老け方が常人の半分以下って……これ普通の町に行って、打ち解けて暮らしても、過ごしていくうちに変に怪しまれたり怖がられるんじゃ……


『そこからの寿命延長はおいおい自分で考えてね。それで記憶を消すにあたって地図や魔法、生活に困ることまで消えちゃうとまずいから、思い出せない場合はこの家の本を読み漁って身に着けるといいわ』


 ――自分の名前すら忘れてたら、このメモも開かなかったわけですが……


『ちなみにその村は50年前に廃村になってるけれど、私のせいじゃないからね?』


 ――過去の私、この村に何をしたの……


『こんな人見知りな私でも、ずっと人と仲良くなってワイワイ遊んだりおしゃべりしたかったのよ……魔法関係でやれることはやり切ったけど、それだけはどうしても叶わなかった……だからって転生までしちゃったら、今の魔力や知識がすべて引き継げるとは限らないし、生まれるってことは親がいるってことで、いきなりはハードルが高いと思うのよ。だから若返ったうえで、自分のタイミングで少しずつ動けるようにしたってわけね』


「転生魔法まで使えるのかこの体は……なのに肝心な対人恐怖症は全く直ってる気配がないんだけど?」


『そろそろ調味料とかなくなりそうだったし、怖くないなら近くの村へ買い出しにいってみてね?』


 ――いや、すでに想像だけでアウトです。


『あ、ちなみに転移魔法系は封印してるから使えないよ、というか思い出せないでしょ? 何十年かしたら使えると思うけどね、私だし!』


 ――確かにそういうのもあるんだって今思ったけど使えないのね……


『ほかにもいろいろ封じてる記憶とかもあるけど、そっちはカギになる出来事があれば思い出すと思うわ。つらいこともあるしね。とりあえず対人関係で、せめて言葉を交わすくらいは出来るようになってるといいんだけどね』


「手紙だとやたらフレンドリーな感じするけど、本当に今よりひどい人見知りだったのかな……」


 二枚目に移るとそこには何かの液体でできたシミと『この通り、今の私じゃ考えただけで吐きそうだから……』の文字が書いてあった。


 ――これ冷や汗か胃液のシミなのかな……とりあえず前の私も大丈夫じゃないことが分かった……


『ちなみに名前はミリーで通すことをお勧めするわ。ミリアリアという名前はこの大陸だと有名だもの。その分同名はいるかもしれないけれど、少しでも厄介ごとに絡まれる要素は減らしたいでしょ?』


 ――確かに"ミリアリア"という魔女の名前はこの大陸で有名だ。100年前の戦争で敵軍を一人で壊滅状態にしただの、あり得ない回復力の魔法薬を作っただの、魔力を込めただけで超大型魔物が怯むレベルの魔力を保有しているだのと、ぶっ飛んだものばかりだし。まさか自分のことだとは思わなかったよ……


『最後に、一部の記憶をなくした私は私とは言えないのかもしれない。だからこれからのあなたの人生が幸せになることを祈るわ。あー、あとね……私の世間の知識は50年ほど前で止まってるから、差異があると思う。そのあたりは自分で調べてね。』


「最後にいいこと言ったなぁとか思ってたのに、最後の最後に重要な情報ぶっこまないでよ……しかし、私の人生……か……」


 ――寿命とかの関係で人間として生きていくのはちょっとハードル高いのでは? 長寿のエルフとか何かの亜人としてごまかすしかないのでは……?


 などと考えつつ今日は眠ることにした。自分のペースで動けるようにってことだったもんね。

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