17話『過去の行動を知る』『また驚かされる……』
昼食は普段より多い3人分だったけれど、リルと分担して調理したためすぐに出来上がった。
「……このお肉美味しい……」
リルが担当したお肉に使われている調味料は、今日持ってきてもらったものを使っているらしいが、以前に食べたことがある気がする。
「ふふ、我が家で調合した特製の調味料です。ミリア……ミリーも気に入ると思いまして」
――なるほど。エルフ族が使ってるやつなのね。ということはミリアリアの時にもエルフ族の誰かに分けてもらってたんだろうなぁ。過去の私が何をしたのかなおさら気になってきたよ……
「たくさん持ってきたから是非召し上がってくださいね」
「わりと保存がきくからって一気に持ってき過ぎな気もするがな……」
「……はっ! 少しずつ持ってくるようにすればもっとミリーに会う機会が……!?」
「いや、この短時間で二人の間に何があったんだよ……仲良くなるに越したことはないけどさ……」
――カーウィンさんとは三回目の食事ともなると緊張が解けてきたのか、二人いても普通に言葉が出てきてよかった……リルの話も気になるし、思考がそっちに寄ってるせいもあるかもしれないけど……
そのあとの昼食は主にカーウィンさんの昔話と、リルの職員になりたての頃の話が続き、とても楽しかった。
昼食を終えた後、リルと私はふたりきりでの話の続きをすることになった。リルは部屋に入ると変化の腕輪を外し、ありのままの姿で話し始めた。
まず初めに、50年前までこの村ではエルフ族が暮らしていたこと。
――もともとはリルたちが住んでた場所だったんだね……
その頃にミリアリアが何かしらの依頼を受けて、この村に訪れたこと。
――リルの記憶の中の私は魔物の討伐って言ってたらしいから、エルフ族をばれないように排除しようとしたのかな……なんでそんなことを、そりゃあ嫌気もさすよね……
この国から逃げるために、この村に住んでいた全員を引き連れて西側にある山脈を登り、その先の森まで送ってくれたこと。
――確か山頂のほうにはワイバーン系とかもうちょっと上位の魔物もいたんだったね。って、そこは覚えてるのに、そんな大人数連れて行ったことすらきれいに忘れてるとか、忘却の精度すごいな……
その森にはミリアリアの知り合いがいて、その人にエルフのみんなを託した後、自分の意思でこの国に残ることを決めたリルを連れて戻り、町まで案内してくれたこと。
――白い狐さんって言ってたけども……全く思い出せない……動物相手でも人間関係あつかいなの? それともそういう形状に化けてただけなのかな。
その際に変化の腕輪と、仲間と念話できる通信の魔道具をくれたこと。
――うっすらと思い出せることは、おそらくその腕輪とかの魔法具は自分のために作ったけど、結局使わなくなったものだったはず……おさがりというかお古を渡したんだろうなぁ。使ってくれること自体が礼だとかなんとか思いながら……
そのあとから姿が見えなくなり、村ごと存在しなかったかのように姿を消したことなどを話してくれた。
――まぁここの依頼の時点で嫌気がさして引き籠ったとかそんなかな……人見知りがひどくて耐性ポーションなしじゃまともに会話もできそうにないし、それなら引き籠って研究なりなんなりしそうだもん……その結果今の私になるための魔法薬を製薬して、前に進もうとしたんだろうけどそこまでに50年かぁ……うん? 50年だよね?
「……あれ、てことはリルはいま何歳くらい?」
「えっと200歳ですかね?」
「……まさかのタメ……」
「え、えぇ!? ミリアリア様ヒト族じゃないんですか!?」
「……いやヒト族だよ……多分……あとミリーね……」
――まさかの同い年! ミリアリアの手紙で寿命がおかしなことになってるから、まともに友達を作ることすらままならないのではと思っていたけども、こんな早くに友達になっても問題なさそうな人と出会えるとは!
「……そういえばなんでリルはヒト族に化けて暮らしているの?」
「それはこの国が純ヒト族以外を迫害し始めたので、また何かしでかさないかと不安になり情報を集めるためですね……というのは建前で、こうしてミリア……ミリーと再び会って、お礼を言いたかったっていうのが本心ね」
「……リルがエルフだって知ってる人は?」
「こっちには誰もいないわ。ばれるとミリーに会う前に問題に巻き込まれる可能性もあったし……今となってはカーウィンになら打ち明けてもいいかなと思ってるわ」
――たしかにカーウィンさんはいい人そうだし、リルも信頼してるみたいだからいいと思う。念話で仲間と話せるとはいえ、ずっと一人で隠し事をしたままの生活してたんだもの。私に会うのが目的なんだったらもうばれちゃってもいいもんね。
「……もし問題になったらここに来るといい。手助けしてあげる」
――せっかく友達になれそうな人なんだもの、いくらでも手を貸すよ!
「あ、ありがとうございます。これで決心できました、もしもの時はよろしくおねがいしますね?」
目に涙をためながらお願いされて断れるはずもないし、断るつもりもない。
そのあとはヒト族の中で暮らし始めてからの事などの話を聞いた。
それからしばらくは楽しそうに、嬉しそうに話すリルの話を聞いていた。
まだこちら話すことがままならない私は、基本的に相づちを打つくらいで聞いていたが、それでもものすごく楽しかった。
――カーウィンさんが引っ越してきてからはよく話にでてくるくらい一緒に行動してたんだなぁ。カーウィンさんもリルには話していいかと私に聞いてきたし、お互いに信頼しているんだね。
話が一区切りついたところで丁度お茶もなくなり、体感時間的にはそろそろ耐性ポーションの効果が切れてもおかしくない時間なので、休憩することにした。
――その後はカーウィンさんも交えて話をするつもりらしいが、私いた方がいいのかな? ちゃんとした椅子とかベッドとか作ってたらダメかな? いや、もともとは私に話って言ってたからいないとダメか……
リルと一緒に大部屋に行き、私は台所で3人分のお茶を用意しながら耐性ポーションを追加で飲んでおく。
戻るとカーウィンさんも席に着いていたので、それぞれの前にお茶を置き、2人に向かい合うかたちで席に着いた。
「さて……カーウィンは亜人とかと会ったことがあるかしら?」
「ん? いやぁ話は聞いたことはあるが、会ったことはねぇなぁ……ずっとウェルドの町に住んでて遠出の依頼もほとんどうけてねえし」
「世の中にはね、純ヒト族じゃない種族って相当な数いるのよ。エルフやドワーフや妖精、魔人や獣人、翼人に魚人など、ヒト族と変わらず知性をもち文化を築き生活しているの」
「前にもリル姉に教えてもらったな。いやリル姉の叔母さんからだったか……? まぁ数がいるにせよ基本的にあの町から離れない俺は会ったことも会うこともないんじゃないか?」
「そうね、この国だとそうかもしれないわね……」
「この国って……」
「噂くらいは聞いたことあるだろうけれど、この国は純ヒト族主義になっちゃっててね、亜人たちを迫害して追い出したりしているのよ。そのせいで国内にはもうほとんどいないんじゃないかしら」
「なんか聞いた覚えがあるな……何のためにしてるか全くわかんねぇし、それぞれの種族の秀でてる部分で協力したほうがいい気がするんだがな……」
「私もこの国の王の考えなんてわからないわ。みんながみんなカーウィンみたいな考えだといいんだけどねぇ……そんな考えのできるカーウィンだからこそ打ち明けるわね」
そういうとリルは腕輪を外し、エルフの姿に戻る。
「……は?」
「ずっと隠していたけど、私ヒト族じゃないのよ」
とリルは緊張した顔つきでカーウィンさんの様子を窺う。
「ちょーっとまってくれ……あれだよな、エルフ族だよな? リル姉がエルフ族で? ……あれ? 叔母さんは?」
「あれも私ね」
そういうと変化の魔法を使い、どこかリルに似ている年のいった女性に姿を変える。
「……まじかよ……」
そう言うとカーウィンさんは頭を抱え下を向いてうなり始めた。
「さすがに急すぎたかしらね?」
苦笑しながらカーウィンさんの頭を軽くなでる。
「……初対面の私も驚いたし、一緒に生活してきたならなおさらでしょ」
「あー……てことは姪っていうのとかリル……でいいのか? リル姉のおやじの話とかは」
「ごまかすための架空の人物ね」
「だよなぁ……いやまぁ会ったこともないしそっちはいいんだけど、薬師のばあ様とリル姉が同一人物なぁ……」
「あなたが引っ越してきたばかりの頃、一緒に森に入って採取した時の話でもしましょうか?」
「いや、すみません勘弁してください……」
「人の注意も聞かずに『これは食べられるんだ!』って言って幻覚キノコを」
「やめてって言ったよな!?」
カーウィンさんは若干顔を赤くし慌てて止めに入る。
――え、何それ気になる。
「まぁ分かった。気持ちが理解するには時間かかるが、分かった。リル姉は薬師のばあ様で、エルフ族だったんだな……そりゃあ薬の効き目がすげえわけだわ……」
と今度は天井を見上げつつため息をつく。
「それでカーウィンは私の正体を知ってどうする?」
「んあ? どうもしねーよ……今まで通りだし、隠しててほしいなら墓まで持っていくさ」
「……そう。ありがとうね。いい子に育ってくれて」
「息子みたいに言うのやめて? 見た目20代の女性に言われる違和感すげえから……しかしどうするって話は俺も聞きたいんだが、リル姉は俺に正体をばらしてこれからどうするんだ?」
「私も変わらないかしら。住みづらくなったらここにお世話になるつもりだけれど、あの町が好きなことには変わりないし、50年もヒト族として暮らしてたんだもの。人生の4分の1続けたことをすぐには変えられないわ」
「そうか……ん、4分の1……リル姉200歳だったのかよ……」
「何か文句でも?」
「いえ、ないです!」
威圧を放つリルに対し即座に頭を下げるカーウィンさんだった。
昼食はミリーとリル姉が二人で作っていたからすぐに出来上がり、いただくことにした。
リル姉の家で作っている特製の調味料も使っていて、ミリーもそれを気に入っているようだった。
「たくさん持ってきたから是非召し上がってくださいね」
「わりと保存がきくからって一気に持ってき過ぎな気もするがな……」
――なぜか気合い入れて作ってたし、一人で使うには何か月分あるんだあれ……毎日使っても一か月は持つだろ……
「……はっ! 少しずつ持ってくるようにすればもっとミリーに会う機会が……!?」
――いやこの短時間二人きりにしただけで何があったらそんな仲良くなれるんだ……今日はずいぶんましだが、それでもこの威圧にさらされ続けたうえでその反応はどうなんだ……リル姉が感じ取れていないわけないし……
昼食は俺とリル姉の昔話をしながら終わり、2人はまた話の続きをしに部屋に行ったので、お茶をもらいのんびりとしていた。
しばらくして、休憩するといって出てきた2人が、次は俺も交えて話があるというので、大部屋で話をすることになった。
――俺がここを見つけた時の話とか、ミリーと出会ったときの話とかをするんだろうなぁ
「さて……カーウィンは亜人とかと会ったことがあるかしら?」
――ん、なぜ唐突に? ミリーは亜人だったのか? だとすればあの規格外なスペックもうなずける。亜人の話とかはリル姉あたりに昔教えてもらった気がするな。この国が純ヒト族主義なことも聞いた気がする。協力したほうが何かといいと思うんだがなぁ。
唐突に腕輪を外したリル姉の姿がエルフ族の姿に変わる。
――は? え、は? 待ってくれ……え? エルフだったの? リル姉が? あぁ、薬師のばあ様の姿懐かしいなぁ……って違う! 同一人物かよ! まじか……俺寝てたりしない? こっそり手の甲をつねったが起きてるな……
「あなたが引っ越してきたばかりの頃、一緒に森に入って採取した時の話でもしましょうか?」
「いや、すみません勘弁してください……」
「人の注意も聞かずに『これは食べられるんだ!』って言って幻覚キノコを」
「やめてって言ったよね!?」
――いやあの頃はまだ幼かったから! 今のミリーくらいの年齢だから! いや、ミリーは子供らしくないからなんか違うな……しかし、リル姉がエルフ族なぁ……いや、驚きこそしたが別に何も変わらなくないか? これが恋心でも持っていれば大ごとだろうが、尊敬している近所の姉ちゃんって感じで、なによりほとんど家族みたいなイメージだしな……それにリル姉の事だから何か理由があったんだろうし『騙されてた』とか負の感情なんて不思議とないしなぁ。
「それでカーウィンは私の正体を知ってどうする?」
――どうするもなにも、別にリル姉はリル姉だろ……黙っててほしいなら言うつもりなんてないし、むしろ手助けするわ。
「……そう。ありがとうね。いい子に育ってくれて」
――いや息子みたいに言うのやめて!? いや確かにばあ様にはいろいろ教えてもらってたけどさ!?
「私も変わらないかしら。住みづらくなったらここにお世話になるつもりだけれど、あの町が好きなことには変わりないし、50年もヒト族として暮らしてたんだもの。人生の4分の1続けたことをすぐには変えられないわ」
「そうか……ん、4分の1……リル姉200歳だったのかよ……」
「何か文句でも?」
「いえ、ないです!」
――こっわ! ミリーの威圧とはまたなんか違う重さだわ! 目の前にミリーがいるのに、一瞬となりからのほうが強かったわ! しかし、驚くことばかりだな……
ミリーほとんどしゃべってないな……?




