12話『50年前の事』
過去のミリー(ミリアリア)の話なので、ちょっと人見知りの度合いとかに違和感があるかもしれません。
国から依頼の手紙が来た。
これでも知識も力もある魔女として知れ渡っていたため、時折討伐が困難な魔物の討伐の依頼などが来る。
私は人と接するのは嫌いではないが、体が人と会うのを拒むため、森の奥に一人で暮らしており、そこへ手紙という形で届くようになっていた。
「最近は減っていたのに珍しい……」
と国の紋章の封蝋を見ながらぼやく。
最近あった依頼で『魔獣が出るから討伐してくれ』という依頼を受け、行ってみると獣人が村の近くの森で暮らしていただけだったので説明だけして帰ったり、『致命傷を瞬時に治す薬を、定期的に軍におろしてくれ』という依頼が来た時には無視したりしていたため、あまり来なくなっていた。
――そもそも言葉が通じるなら説明しなさいよ……あとそんな高価なポーションをホイホイ作れるわけないでしょうが……戦争か何かしようとしてたっていう情報を得てるんだからなおさら嫌だよ。それで今回は何でしょうかね?
手紙を開くと『魔物が村を作っている。その北の方には人が住んでいる村があり、襲撃の危険があるため早急に調査し、魔物の村らしきものが見えたら遠距離から一撃で破壊してほしい』と書かれていた。
「なんでわざわざ手法まで指定してるんだろう……遠くから広範囲でってことなら、破壊したのがわかるようになのかな? その北にあるっていう村にも見えるようにすれば、そこの住人が安心できるから、とかかな?」
手紙を再度読み返しつつ、意図をつかもうとするがそれくらいしか思い浮かばない。
「今回は村も近いし、私に送ってきたってことはそれなりに強い魔物なんだろうし、しかたないから行ってあげますかね」
そういうと承諾の返事を送る手筈を整え、討伐の準備を始めた。
山脈の近くの森の中まできて、気配を探るがなかなか見つからない。北にあるという村は遠目で人が住んでいるということを確認し、今回の依頼の信ぴょう性を図ってはいたが、寄ることはしていない。
山脈の頂上付近にはワイバーン系の比較的強い魔物はいるが、この森にはそこまでの魔素だまりは感じない。
――だとすればワイバーン系か、それレベルのやつが下りてきて村でも作ったのかな? そうだとしたら確かに面倒ではあるけど、ここまで気配も感じないのは不思議だなぁー。
奥へと進んでいくと違和感を感じる場所を見つけた。
「違和感というか、認識疎外とか隠蔽魔法の類の結界か……これを魔物が? たしかにこういうのを使うやつもいるけども……気配を完全に消して中の様子を見てみますかね。見つけたら遠くから破壊しろって依頼だったけど、私なら内部から広範囲魔法ぶっぱなしても平気だし」
違和感のある方向へと向かい、気配を消して感知されないように結界の中へと入る。
そこではエルフたちが村をつくり生活していた。
――え、エルフだ! 久々に見た! 最近いたはずの森に行っても移住してるみたいで、なかなか出会えなかったんだよね。彼らの栽培する薬草は品質がいいし、また分けてもらえないかなぁ。っとそうだ、緊張と恐怖の耐性ポーションを一応飲んでおこう。
ポーション瓶を取り出しそれらを飲み干す。
人間とはまともに会話できないが、魔女としての知的好奇心が昂って人見知りを少し誤魔化しているから、純ヒト族以外にはほんの少しマシになる。耐性ポーション効果が効いていても、吐き気はこみあげてくるレベルだが。
――しかしこの森に村なんてここしかないんだけど? ……まさか魔物ってエルフ族のこと? 最近彼らを見ないのは国が追いやってるから? 遠距離で村を破壊するよう指示したのは、このことが私にばれないようにするため? いくら何でもふざけ過ぎじゃない? 私がまともに会話できないって知ってるからなめられてるのかな? いつからこの国はこんなことをするようになったんだろう……いや、今はこのエルフたちをどうにかしないと……
と手紙の内容を思い出しだんだん苛立ってくるが、まずは彼らをどうするかを考えないといけないことに気が付く。
――ここから西の山脈を超えたら知り合いが住んでる森があったね。そこも一応エルフ族の人たちが住んでる森だし、そこに案内してまかせちゃおうかな……彼女ならうまくやってくれるはずだし……
私の人生で数少ない知り合いの1人を思い出す。彼女はヒト族ではないっていうのもあり、いくらかましに会話のできる貴重な存在だった。
――まずはここのみんなを集めて説明しないとね。
「……私はこの国に雇われた魔女だ。」
エルフたちに姿をさらし、集めた後そう告げた。フードを深くまでかぶり直接は見えないようにして何とか声が出せる。
――多い、多いよ! 各家庭一人は出てきてるみたいだから30人は越えてるね! 30件くらいあるもんね! そりゃあ100人までいかなくてもそれに近い数になるね! と、とりあえず説明しないと……
「……私は"この国を汚す魔物の駆除"の依頼を受け、"村を作る魔物"と聞いてここに来たが……どこに魔物が……さすがに意味がわからない……私はあなた達を害するつもりはないよ」
――本当に彼らを魔物だなんて何を考えてるんだろうねこの国……本格的に私も行方をくらますくらいはしようかな……
「……危害を加えるつもりはないけど……」
――しばらく身を潜めて、落ち着いたころにまた活動しようかなぁ。この人見知りも直して、耐性ポーションなしでもおしゃべりしたり、遊んだりしたいもんねぇ……
と考えていると、殺気を向けられたので反射的に威圧に殺気を込めて返してしまう。
――あ、やばっ! 緊張のあまり現実をなるべく見ないように別の事考えてたら、つい反射的にやっちゃった……ど、どどどうしよう……泣きそうな人までいるじゃん! 子供は連れてきてないようでまだよかったよ!
「……私がやる気ならわざわざ回りくどいことはしないよ? ……私はこの依頼に呆れているの。だからあなた達を逃がしてあげる……ここから西の山脈を越えた先に森がある。そこにもエルフ族が暮らしているし、その国はヒト族以外も普通に暮らせるいい国よ」
――こ、この言い訳なら流してくれないかな……ちゃんと手助けする算段もあるってわかってもらえたかな……とりあえずあんまり時間はなさそうだから、この村のリーダーに決めてもらわないとね。
「わかりました。この村はあなたに着いていきます。……ただ、私はこの国に残りヒト族に紛れて暮らし、情報を得るとこをお許しください」
――え、リーダーは残るの? たしかに現状のこんなことをしてくる国の情報はほしいか……でも行くのは近場とはいえ隣の国だよ? この国あの山脈のワイバーン系を相手に完勝はできないから、大回りしなきゃいけない分むしろ遠いよ? それでも残るんだね? それじゃあその決意を組んで、北にある村まで案内してあげようかな。
エルフたちの了承も得たので、山脈をこえて移住するための荷造りを開始する。さすがにすべては持っていけないが、それでもそれなりにはなるため軽量化魔法を組み込んだ荷台を急ごしらえでいくつか制作し、それも使ってもらう。
そのおかげもあってか、人数の割には早く移動できたと思う。
――頂上にはワイバーン系もいるし、子供達も怖がるだろうから、ちょっと手前で今日は泊りかな。人数が人数だし、みんな休憩したり野営の準備してる間に、お肉でも取ってきてあげようかな。すぐ食べられる食料系はあんまり持ってこれてなさそうだもんね。
そういうと私は「ちょっと離れる」といって結界魔法で囲った後狩りに出た。
翌日、寝起きに耐性ポーションを飲み皆の出発の準備が終わるのを待つ。
夜の間に何かあったのか、何故か『魔女様』と呼ばれるようになっていた。
それからの道中は昨夜と同じく結界魔法で保護しつつ、数が多い場合は、こちらに被害がでにくい氷の単体魔法を広範囲にぶっぱなして一掃しつつ向かっていった。
山頂付近でワイバーンの姿も見えたが、威圧すると逃げていった。
――それなりに知性があるとこういう対処も出来て楽でいいね。
近くにいたエルフの顔が強ばっていたのは、見えていないふりをした。
3日目のお昼頃には山脈をおり、目的の森までいていた。
近づいていくと、森から白い狐が出てきて「やぁミリアリア久しぶりだねぇ」と私に話しかけてきた。
彼女と会うのも数年振りになるだろうか。数少ないお話しできる相手だが、お互いあんまり住んでいる場所から動くことをしないので、なかなか会う機会がなかった。
彼女に今回の依頼の内容と、エルフ達の住み処の件をお願いすると、快く引き受けてくれた。
ついでに私にも来ないかとお誘いをくれるが、まだ人見知りを直していないので、今はまだと断っておいた。
誘ってくれたこと事態に内心凄く喜び、いつかちゃんと過ごせるようになったときにまた誘ってくれたら、お邪魔しようかなと心に決めた。
――そういえばエルフのリーダーさんは残るって言ってたし、この先簡単にはあえなくなるんだからせめてお話くらいはできるようにしてあげようかな? 念話の魔道具もってるし、これを渡しておこうかな。私はほとんど使わないし……
白い狐の彼女にも念話の魔道具は渡しているのだが、面と向かってお話ししたいらしく使用してくれないので、今の私には使うことがなくなっていたものだった。
――私自身できれば面と向かっておしゃべりしたいもん……できればの話だけど……念話ってなると相手の顔が見えないから、私の場合無駄に人見知り発揮しちゃって逆効果だしね……
彼女から連絡してこなかったのもあるが、こうやってまだ会話できている彼女ですら、念話で声だけとなると話せなくなることもあり、私からの使用も控えていた。その結果持っているだけの魔道具となっていたため、エルフ族の人たちが使ってくれるなら作ったかいもあるってものだ。
その後、移住するエルフ族の人たちを白い狐の彼女に託し、私とエルフのリーダーは再び山脈を超えるために向かった。
帰りは二人だったというのもあり、身体強化魔法も効果が高いものがかけられたし、何より浮遊魔法をかけてショートカットすることもできた。飛ぶという感覚に慣れていないリーダーのために、そこまで速度を出さず低空で移動したため、半日で頂上付近までしかいけなかったが十分な速度だった。
頂上付近には洞穴がいくつもあるため、その一つで野営することとなった。
――二人だけだからここでも眠れるし、視界が入り口くらいだから怖いこともないでしょう。
と入り口付近の魔物を手早く処理して結界をはり、次の日に備えた。
翌日の昼には山脈をおり、エルフの村があった森まで帰ってきていた。
「……あなたにはこれも渡しておく、外観を変えられる魔道具。常に自分の魔力だけで幻覚魔法を使ってたら、疲れるしそのせいで不安定にでもなったら、いつかばれる」
リーダーの人はこれからヒト族に化け、ヒト族の村で暮らしていかなければならない。そうなると常時幻覚魔法を発動することとなり、いくら魔力が多く魔法が得意なエルフ族と言えど疲れてしまうだろう。
その疲れから魔法が不安定になり、ばれてしまうと彼女はその村で過ごせなくなるかもしれない。
――いやこんな依頼を出すような国だから、村では過ごせても今後必ず過ごせなくなるだろうなぁ……それならそれを補助するように幻覚魔法を起動できる魔道具を渡してあげたほうが、彼女のためにもなるよね? もともと私が『本当の自分の姿じゃないなら他人の目も多少気にならなくなって、お話くらいは出来るのでは?』という実験の元作った魔道具だけど……
もちろん結果は……成功してたら町で普通に生活してる……
誰に言うでもない悲しい結果を思い出しながら、彼女に念話の魔道具と幻覚の魔道具を渡す。
「こんなものまで……いいんでしょうか……私はなにも返せませんが……」
――うん、ごめんね。それ全部私が試して結局使わなくなったおさがりなんだよ……でもちゃんと役に立ってくれるならそれが一番のお礼だよ。
「……あなたはこれから辛いことを知るかも知れないのに、この国に残ると決めた。私はそれを応援する」
――私は人前に出るのが辛いから、近くで援助とかできそうにないけれど、ちゃんと応援するからね!
彼女が村に向かっていくのを見送った後、私は森のエルフの村へと向かった。
エルフの村についた後、今後のことを考える。
――この手の依頼が増えてきたから、しばらく身を隠そうかな……でもその前に村なんてなかったから人を送らなくていいって連絡だけ出しておかないとか……
そう思い無人の村をフラフラ歩き回る。
――どうせ隠れるならこの村を使わせてもらおうかなぁ。エルフ族の隠蔽魔法の魔道具もあるみたいだし、ちょっと書き換えてそれに定期的に魔力を補填していれば持つだろうし……そうと決きまれば、お引越しだね!
こうしてミリアリアの森での引き籠り生活は始まった。
狐さんとか割と話せるじゃん!って思われるかもしれませんが、この時使ってる耐性ポーションはミリーが作ったものよりはるかに効果の高いものとなってるので、実際はミリーになった時に緩和されてたりします。
あと狐さんは喋れるけど見た目人間種ではないので、かなり補正がかかります。




