11話『ヒト族の村での生活』リル視点
前回の続きです。
時系列が結構飛ぶので注意してください。
この村に薬師として住み続けて25年の月日が経った。
私は薬師として働きながら、村の人とそれなりに交流を持ちつつ暮らしていた。
自慢するわけではないが、薬師として私がいるおかげで寿命以外での死亡率が激減し、人も結構増えてきていた。
ある日、ハンターの家族が村に移住してきた。
その家族には将来ハンターになりたいという10歳の息子が一人いて、手ごろに狩りで鍛えられる静かなところを求めてきたらしい。
その家族は私の家の隣に住むことになり、よく話もするようになった。
親に連れられ一緒に森に入っては狩りの練習をし、小さい魔獣を一人で狩れた日には嬉しそうに報告してくれるようになっていた。
その際に森に何か変わったことはないかしらとたまに聞くが、ハンター目線でも特に代わりわないらしい。
その家族からたまに夕飯のおすそ分けをもらったりおすそ分けしたり、奥さんとお茶しながらおしゃべりしたりと、平穏に楽しく過ごしていた。
それから5年が経った。
隣の少年も15歳となり、いまやイノシシの魔獣すら狩れるほど立派になった。
初めて一人で狩りに成功し、嬉しそうに私に報告しに来たのが懐かしい。
少年は狩り中に私に会うと薬草の採取を手伝ってくれたりするので、代わりにお弁当を分けてあげたり一緒に行動することもあった。
――ふふ。私にも子供がいたら、こんな感じなのかしらね。
ヒト族に化けている私が言うのも可笑しな話かもしれないが、みんないい人だ。ここなら正体がばれても普通に暮らせていたかもしれないと思うほどに。
だが私はエルフ族であり、住んでいるのはヒト族の村だ。
そもそもの寿命が違いすぎる。私たちエルフは、500年は普通に狩りができるほど動ける肉体年齢で生き続ける。その後も身体能力は落ちるものの、持ち前の魔法を扱い狩りもできるし、寿命としては1000年ほどもある。
しかしヒト族は魔法薬などで病を治し、どれほど延命したとしても100年程度だろう。
そうなると寿命と老いの差が出てくる。老いの方に関しては幻覚魔法で見た目を変えているため、周りのヒト族に合わせて見た目を変えていけば問題はないだろうが、寿命となるとそうはいかない。
旅人として違和感のないように、若すぎず年寄り過ぎずということで30歳として来てから30年。この村での私の年齢は60歳となっていた。
この村は国の端っこで物流も盛んではなく、回復系の魔法を使える神官も常駐していないため、平均寿命は消して高くはない。
――そろそろこの村での私の存在をどうにかしないといけないわね……今の私は死んだことにして、また旅人としてこの村にくる? いやそうなると村長の奥さんとか異様に鋭いから、違和感に気づかれかねないかしら? そういえば村長さん最近体調悪いって言ってたから、お薬作ってあげなきゃね。
そこまで考えてこの村に薬師が現在自分しかおらず、自分がいなくなったらこの村はどうなるか考える。
――私がここに来てから30年でこの村の平均寿命が延びたのは確かだし、交流してみるといい人ばかりだし、見捨てるようで嫌だわ……でも私が消えてまた薬師としてくると、変に疑われるかしら……どうしたものかしらねぇ……
そう考えつつ製薬していると、今の私と同年代のおばちゃんがお菓子を片手におしゃべりしに来た。
「そういえば近々息子が帰ってくるのよー」
「あら、それはよかったわねぇ。息子さんって隣の街に鍛冶の見習いに行ってた子でしょ?」
「そうそう。あの子が戻ってきて、この村でも鍛冶をやるんですって」
「この村にはいないからねぇ鍛冶師……製薬の道具も頼めば作ってくれるかしら?」
「断られたら私にいいな? この村を元気にしてくれている薬師様になんてことを! ってしかってあげるさね」
「あはは、そんときゃ頼むよ」
などとお茶しながら談笑することもあるくらいには交流をつこの村を、見捨てたくないという気持ちが強くなる。
――しかし息子か……次の私の役は今の私の娘にしようかしら? いやぁ……この村に来た時が30歳だから、子供は早くても12歳とかそこらかしら……それくらいの娘を放っておいて何してるのって思われるわよね……そもそも前に旦那はいないって言っちゃってたしなぁ……旦那は別の街に住んでるって説明して、たまに私も一週間ほど会いに行ってたとかにすればよかったかしらねぇ……それはそれでなんで別居してるのって話だけど……
と跡継ぎの設定を考える。
――いっそのことバラしてしまおうかしら……でもそれだと私が死ぬまでは魔女様を待ち続けるって決めたのに、その最中でもめ事に巻き込まれるかしらね……できればヒト族として生活していかないと……
「そういや、ハンターギルドってしってるかい?」
「魔物や魔獣を狩ってその素材を卸すしたりするところの話かしら?」
「そうそう、その支部がこの村にできるって話があるらしいのよ。それで息子がこの村で鍛冶をやっても、武具の料金でやっていけると踏んで戻ってくるみたいなのよね」
――ハンターギルドか……南の森に出入りする人が多少増えるわね……今も入る人もいるし、私自身薬草採取として入りつつ、魔女様にお礼を言いに行ってるけど、そこにさらに人が入るようになるのは気になるわね……
「あんまり魔物がいないところなのによく許可が下りたわねぇ」
「理由なんてわからないけど、さらにこの村も人が増えるのかしらね」
「人がいなくなって廃村になるよりはましじゃないかしら?」
「私たちが生きてるうちは、薬師様のおかげで元気に過ごせてるこの村がそうそう廃村なんてないわよ」
わっはっはと笑うおばちゃんに「そう思ってくれていると、やりがいがあるわね」と微笑む。
――近々ハンターギルドができるなら、そこに入るのもありね。薬師の知識もどうにかしたいから、親戚っていうのが無難かしらね……姪っ子とかで来て、うまくごまかしつつ今の私は町を出るのが無難かしら。
と今後の行動を決めたあとは、夕飯の準備にかえるまでおばちゃんとおしゃべりした。
ハンターギルド設立の話は意外に早く来た。同時に村の人で希望者がいたら、その村のギルド職員として採用するという告知もきた。
私は村から出て森に入っていき、20歳くらいの外見に化けてから村へと向かう。
「あのー、すみません。ここの村に薬師の叔母が住んでるはずなんですけど……」
「おやおや薬師様の姪っ子かい、ちょうどさっき採取に行っちまったなぁ。少し足りないものがあるから、ちょっと取ってくるって言ってな」
「あ、そうなんですか。私は叔母の兄の娘でリルって言います。父さんにハンターギルドの受付になりたいって話をしたら、ちょうど叔母のいる村で新しくできるみたいだから、行ってみるといいと言われてきたんです」
「なるほどなぁ。まぁすぐ戻ってくるだろうから、その辺ぶらついてな。特にみるもんなんてないけどな、はっはっは」
といっておじさんは手を挙げながら去っていく。
――次はもとの姿で村長に事情を伝えて、この姿で村長に会いに行けばいいかしらね。
「――――というわけで、叔母のところでお世話になりたいんですけど、かまいませんか?」
「あぁ構わんよ。薬師様にはお世話になってるからなぁ。本人からも頼まれたしの」
と人受けのいい笑みを見せた村長に「ありがとうございます、よろしくおねがいします」と伝え帰宅する、自分の家の前まで帰るとお隣の少年に出会った。
「ん? 姉ちゃん見ない顔だな?」
「私ここの家の姪っ子で今日から住むことになったから、よろしくね?」
「おう! よろしくな! 俺はカーウィンっていうんだ、今度できるハンターギルドで登録して、ハンターになる!」
と元気に笑い答えてくれる。
「私はリルよ。私もハンターギルドに入る予定だから一緒ね」
「え!? 姉ちゃん狩りできるのかよ!」
「私は魔法使いだから見た目で判断しないほうがいいわよ?」
と指先に【ファイヤーボール】を出す。
「それに私は狩る方じゃなくて、事務のほうだからね」
――そのほうが一人で森に入るよりいろんな情報が入ってきそうだし、国からの情報も得られそうだもの。
「な、なるほど……まぁ隣だし仲良くしようぜ」
とニカっと笑い、握手を求められたのでそれにこたえてからそれぞれ自宅へと入っていった。
――さて、後は薬師として動きつつ、リルとしても外にでて怪しまれないようにしつつ、ギルド職員にか……薬師の仕事はどうしようかしら……ギルドが本格的に動くまで半年はあるみたいだから、それまでに弟子を取りましょうか。そうと決まったらさっそく動かなくちゃね。
半年で弟子には可能な限りの薬師の知識を叩き込んだ。そもそも弟子入りしてくれた3人の子は皆覚えが良く、すんなりと吸収していってくれるのが楽しくなり、ヒト族にはあまり伝わっていない製法まで教えてしまったが、本当に少しなので問題ないだろう。
それからは薬師の仕事を基本的には弟子たちにゆずり、私はリルとしてギルドで働くこととなった。
まずは受付や依頼のシステムの把握からで、私が初めて登録を担当したのはカーウィンだった。
依頼としては付近の害獣や魔獣、魔物の討伐やそれらの素材が欲しいなどがメインで、素材の買取は常時やっているので依頼という追加報酬がないくらいで、いつでも狩りはできる。
もともと南の森には魔素がたまっていて、魔獣が出ていたので時折別の町からハンターも来ていたが、晴れてギルドができたことで、この村を拠点として活動するハンターも増えてくると思う。そうなると人口も増え、町と言っていいほどになるだろう。
私の薬学の知識を教えた弟子たちはきちんと製薬をこなし、エルフとしての知識も少し入っているため効果が高くて評判になったのも影響し、それなりに商人も来るようになり物流もよくなった。
私がギルドで働き始めてからは、薬師としての仕事は徐々に減らし1年たったころに村を出ることにした。
「長いことお世話になったわねぇ。兄の嫁さんが他界して、私は独りだから昔みたいに家族で暮らさないかって言われてたのよ」
「あら……そうかい……さみしくなるねぇ……リルちゃんはどうするんだい?」
「今は兄のところに帰ってるけど、このままこの町のギルドで働くつもりらしいわ。あの子にも薬学の知識を詰め込んでるから、何かあったら言うといいわよ」
「わかったわ、リルちゃんに何かあった時はちゃんと助けるからね。安心してお兄さんと暮らしなよ」
「あはは。そうだねぇ。合うのは久しぶりだから、楽しみに向かうとしましょうかね。それじゃあみんな元気でね」
「薬師様がくれた知識のおかげで、この町は大丈夫さね。また今度はお兄さんと遊びにきなね?」
と、年齢的に二度と会えない可能性のほうが高いが、そのようなしんみりした別れは私も望んでいないのでさっぱりと別れ、村を出ることにする。
――騙しててごめんね。でもこの町が大好きで大事なことは本当だからね。今度はリルとしてこの町のためにも頑張るから。
そう思い、薬師としての私の生活は終わりをつげた。




