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人見知り最強魔女は仲良くしたい  作者: Guen
1章『森での出会い』
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10話『過去にあった村』リル視点

過去の話メインです。

 貴族からの依頼で狩猟に出掛けていたカーウィンが帰ってきた。大きめの角熊を狩る必要があったため、もう少し時間がかかると思っていたけれど、一日で帰ってきた。


 そんな彼が相談があるというので、お茶を出して聞くことにする。彼がここにきてからだから、もう"25年"の付き合いとなる。彼の両親が旅立った後、家が近所だったためよく夕飯を持っていったり、作ってやって一緒に食べているような仲だ。

 そんな彼がわざわざギルドで話すということは、何かあったのだろうとは思っていた。


「それで聞きたいことがあるんだが、南の森に村なんてあったか?」


 そんな彼からでてきた言葉は予想もしなかった言葉だった。無意識に昔貰った右手にはめているブレスレットを撫でる。

 彼に説明を求めると、森には廃村がありそこにはとんでもない能力をもった少女がいるという話だった。


 少女が作った魔道具も見せてもらったが、完璧な美しい刻印で作られており、"エルフの私"ですら制作困難な完成度だった。






 私は50年前まで、今のウェルドの町から南の森の中にある小さな村に住んでいた。

 そこはエルフのみが住み、純粋なヒト族以外を毛嫌い始めたこの国の中で数少ない隠れ住める所だった。

 といっても、故郷を国の命令で動いたもの達に追われ、この国の端っこまで逃げてきただけなのだけれども。


 元々はこの国のあちこちの森でひそかに暮らしていたが、いつからかこの国の完全ヒト族主義のもと、それ以外の種族は迫害されるようになり、エルフに限らず他の亜人や獣人達も国から出ていった。


 ただ私たちの比較的若いエルフのグループは逃げる方向を見誤り、山脈に退路を断たれた森に逃げ込んでしまった。

 山脈を越えようという意見もあったが、この先は別の国で未知の領域な上、この山脈の上空には手強い魔物もいて危険すぎた。ならばとりあえずこの森で隠れ住み、様子を見てみようということとなった。


 端っこの方というだけあってか3年程たっても追手や偵察も来ず、幻覚魔法でヒト族に化けて町へ買い出しに行っても嫌な噂話とかもきかず、それなりに平穏に暮らせるようになっていた。




 そこへ彼女が唐突に現れた。

 フードを深くかぶり、顔はよく見えないのに視線を感じる不思議な光景だった。


 強い威圧感を放っている彼女は、隠蔽魔法を施している村へなんの前触れもなしに現れると、皆を集めて告げた。


「……私はこの国に雇われた魔女だ。」


 それをきいた瞬間 『とうとうばれた、こいつも敵ならば戦うしかない』と思い、戦闘態勢になる気配が回りの皆から伝わってくる。


「……私は"この国を汚す魔物の駆除"の依頼を受け、"村を作る魔物"と聞いてここに来たが……どこに魔物が……さすがに意味がわからない……私はあなた達を害するつもりはないよ」


 そういいつつ両手を軽くあげ無害アピールをするが、ヒト族のそんな言葉を信用できるわけがなく、警戒の色に加えてだんだん殺気も混じってくる。


「……危害を加えるつもりはないけど……」


 そういうと、彼女からとてつもない殺気と威圧感が溢れてくる。反比例するようにこちら側の殺気は消え去り、膝から崩れ落ちるもの、頭を抱えうずくまり震えるものまでいた。


「……私がやる気ならわざわざ回りくどいことはしないよ? ……私はこの依頼に呆れているの。だからあなた達を逃がしてあげる……ここから西の山脈を越えた先に森がある。そこにもエルフ族が暮らしているし、その国はヒト族以外も普通に暮らせるいい国よ」


 と説明してくれる。


 ――逃がしてくれるの? でも山脈を越えるなんて……


「……向こうまでは私が送ってあげる。ここのリーダーは誰?」


 と問われたので私は一歩前に出る。当時比較的若いグループだったなかで、150歳で年長者の私がリーダーとなっていた。


「……あまり時間が無さそうだから、あなたが決めて。私と山脈をこえて西まで行くか……この村を捨ててまたこの国のどこかを彷徨うか。……私としてはこの国にいるのはおすすめしないよ。隠れて暮らすなんてつまらないもの」


 ――たしかにこれ以上この国のなかを逃げ回って、国の方針が変わるまで隠れて暮らすなどと考えるより、この魔女を信じた方がいいのかもしれない。

 彼女の力があれば山脈を越えるのも楽だろうし、彼女自身も言った通り私たちを殺すにしろ捕まえるしろ、それが容易に出きるにも関わらずこのような提案をしてくれるところは信用できる。

 ただそれでも、もしものときの為に追手やこの国の情報は入れておきたい……


「わかりました。この村はあなたに着いていきます。……ただ、私はこの国に残りヒト族に紛れて暮らし、情報を得るとこをお許しください」


「……いいの? 聞きたくない情報や今まで以上に幻覚魔法を使い続けて暮らさないといけないから、しんどいよ?」


「それでもです」


「……そう……それなら皆送った後あなたを近くのヒト族の村まで送ってあげる」




 山脈を越えるということで減らしはしたが、もともと持ち出す荷物は多くなくすぐに準備は整った。

 その間に魔女は、重力魔法を付与した荷台等を作ってくれていたのでありがたく使わせて貰い、数年間住んだ村を放棄して山脈へと向かった。


 山脈の頂上付近はワイバーン系の魔物がいるせいで野営するには気が休まらないと、手前の広くなっていた場所で一旦留まることとなった。


 私たちエルフは魔法を得意としていて、戦闘においても自信のある者が多かったが、その私たちから見ても彼女は規格外だった。

 頂上付近での野営は彼女にとっては危険でも何でもないのだろうが、他人の力頼りで危険な場所での野営など、私たちの気が休まらないということなのだろう。


 道中の魔物の襲撃は彼女の結界魔法で追い払うか、数が多いときは被害が出ないように全てを一瞬で仕留めてくれていた。


 二日目の朝には魔女と読んでいた私たちは魔女様と敬うようにすらなっていた。




 二日目の夕方、日が落ちきる前に山脈の反対側の中腹でもう一晩夜営をし、三日目の昼には森にはいろうとしていた。

 それも魔女様の作って下さった魔道具と、身体強化系の付与魔法、道中の露払いの迅速さのおかけだ。


 入り口までくると白い狐が顔をだした。膨大な魔力を宿しているのがわかり、警戒していると


「やぁミリアリア久しぶりだねぇ」


 と魔女様に話しかけてきた。みんな驚いているが魔女様はその狐によっていき、私たちの事情を説明してくれているようだった。


「なるほどねぇ。あの国もそこまでやってしまったかい……それでミリアリアもこっちにくるのかい?」


「……私はまだあの国にいるよ」


「……そうかい……気がかわったらいつでもおいでな」


 と悲しそうな声色で答えると、我々に着いてくるように促してきた。魔女様と私はここでひきかえす予定となっており、最初こそ警戒していた皆も別れ際には涙ぐむ子までいるほどだった。


「……そうだ。これを新しいリーダーの人がもつといい」


 そういうと10センチほどの青い球体状の魔石を取り出す。


「……それには通信魔法が付与してあるから、山脈の反対側くらいまでなら念話が可能になる……もう片方は帰ったらあなたにあげるから暇な時とかに皆と話すといい」


 私は皆と離れ、二度と話すことも出来ないかもしれないと思っていただけに、言葉がでなかった。

 新しいリーダーは後程決めるということで、とりあえず使い方を教わり白い狐さんを先頭に森に入っていった。




 魔女様と二人になった私は、身体強化系の付与魔法以外に浮遊魔法も使って貰い、山脈へと再び足を踏み入れた。

 結果、日暮れには頂上付近まで到達し次の日の昼にはもとの森まで戻ってこられた。


「……あなたにはこれも渡しておく、外観を変えられる魔道具。常に自分の魔力だけで幻覚魔法を使ってたら、疲れるしそのせいで不安定にでもなったらいつかばれる」


 と銀色のブレスレットを渡してくれた。


「こんなものまで……いいんでしょうか……私はなにも返せませんが……」


「……あなたはこれから辛いことを知るかも知れないのに、この国に残ると決めた。私はそれを応援する」


 そういうとそのまま魔女様は、森の近くの村が見えるところまで一緒に来てくれた。

 私は旅をしていてもおかしくないような格好で30歳位の幻覚魔法をかけ村に入る。

 旅で行き着いたが、いい加減落ち着いた暮らしをしたいと村長と相談し、エルフとして培った薬学の知識を生かして、薬師として村に住めることとなった。




 魔女様とはそれ以降会えていない。








 たびたび森を調査しているであろうハンターらしき人達に会う機会があった。

 彼らが私たちを追いやったわけではないし、元は国からの依頼ということで、彼らを恨むことも気にすることもなかったが、徐々にハンターたちの数が減っていき、気になるうわさ話を耳にした。

 なんでもこの付近に魔物の村が出来ていた情報はデマで、いくら探しても痕跡すら無かったから打ち切られたそうだ。


 ――あの村がまだみつかっていない? あれからひと月は経つから、隠蔽魔法も溶けてると思うんだけど……


 さらにその噂では『その依頼で調査に出ていた魔女が『村などなかった』と、一通手紙を寄越してから消息を断ったらしい』ということもきいた。


 もしかしてと思い、エルフの村だった場所まで足を運ぶ。普段は行くには遠すぎるため、怪しまれないように足を運ぶこともなかったが、真相を確かめたかった。


 しかしそこには"何もなかった"。


 ――魔法に長けたエルフの私にすら隠蔽魔法や結界の存在、いや違和感すら感じさせないなんて……


 魔女様は万が一、調査で村が見つかって深入りされて私や皆が見つかるのを避けるために、村ごと隠してくれたのだろうか……


 ――だとすれば魔女様がいなくなったのは……? っ!? まさか自らあの村で隠蔽魔法をかけ続けてくれているのでは!?


 そう思うと目頭が熱くなってきた。


 ――魔女様は私に選択を迫ったときに確かに言った。『隠れて暮らすなんてつまらないもの』と。そんな彼女が隠れ住むかのように姿を消した。他に理由があるのかもしれないけど、少なくとも私たちを助けてくれている行動に変わりはない。


 皆と別れるときでさえ何とか我慢して流さなかった涙が溢れてきた。あの時も魔女様の魔道具のお陰で念話が出きるようになり、心細さや不安が減ったため耐えられていただけなのだ。

 そこまでしてくれた彼女が、つまらないと、楽しくないと思う生き方を選んでまで救ってくれていることは事実だった。

 涙を流しながらエルフの村があるであろう方向へ深く頭を下げ、震える声で感謝を述べるしかなかった。


 ――再び彼女が出てきてくれた時のために頑張らなければ! 後悔しないように、何より彼女に後悔させないように。


 そう決めた私は村へと帰るのだった。

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