1話『私目覚める!』
木々が生い茂る森の中に村があった。
今となっては廃村となってしまってはいるが、過去に人が暮らしていたのだ。
そんな廃村のなかにポツンと、未だに人が住んでいそうな小さな家がある。
といっても屋根の一部は壊れてして、雨ざらしになっている部屋があるが。
そんな何かの作業場のような部屋に、一人の少女が横たわっていた。
気を失っていた所に突然の雨に見舞われ、屋根のない部屋は彼女を雨から守ってはくれなかった。
「うみゅ……雨……」
私は頬が雨に打たれた感触と冷たさで目が覚める。
「……ここ……え? あれ? ここどこ?」
思考が覚醒していって現状を把握したいのだが、辺りを見回してもうまく思い出せない。
――ちょっとまってよ……えぇと名前は分かる、そこの棚にある植物や鉱物の名称や使い道も分かる。……あれ、親や知り合いの事が思い出せない!?
ふらふらと身を起こし、辺りを確認しても私以外に人の気配はない。
とりあえずこの部屋は屋根がなぜかないので、別の部屋にいこうと起き上がり、ほどけてゆるくなっていたワンピースのような服と、下着のひもを締めなおしてドアに手を掛ける。
ドアの高さの3分の2辺りまでしか身長がないことから、自分がだいぶ小柄なことを認識する。
――え、そういえば年齢や外見も思い出せない!?
と焦った私は急いでドアをくぐり、バタバタと隣の部屋を漁り始める。
屋根のなかった先程の部屋とは違い、こっちの広めの部屋はそれなりに綺麗だが、書物や衣類が散乱していた。
そんな中からお目当ての手鏡を見つけ出し、覗き込むと銀髪に近い薄紫色の髪に、クリクリっとした鮮やかな緑色の瞳をした顔が見えた。
「見た目は……よくて13歳ってところかな……」
なぜか常識的な知識は残ってるのに、現状を把握できる記憶がすっぽりないことに疑問と不安を抱く。
普通なら不安しかないだろうが、それ以上に生きていくには必要そうな知識は思い出せる事により、安心感が生まれていた。
「とりあえず、雨が上がったら付近を回ってみようかな……」
――まぁ、窓からみる限り廃墟ばかりだし、さっき気配を探った時にも、人の反応はなかったけども……
空を見た感じそこまで長雨になるようでもなさそうだし、まずは外に出るための準備をしなきゃね。
と、その部屋と隣の台所らしき部屋を物色していく。
――しばらくはここで拠点とするとして、まずは武器になりそうなものかな。
ごそごそと台所を漁り、戦闘にも使えそうな30センチほどの短剣を見つけたので、近くにあった皮革で即席の鞘を作り腰に括り付ける。
――予備に20センチくらいの短いのをもう一本と、盾代わりにそこの鍋蓋も持っていこうかな。
目についた蓋を取り、こちらも布で腕に固定できるようにちゃちゃっと改造する。
袋も必要かなと思い、前の部屋にもどり散らかっている衣類からワンピース状の服を見つけ、首元をきつく縛って裾からものを入れて持ち運べるようにする。
――松明とか光源も必要かなぁ……いやまだ太陽の位置的にお昼くらいだし、そこまで遠出するつもりもないからこれくらいでいいか。魔法もあるし。
最低限の準備をしながらそんなことを思い出す。
この記憶に間違いはないのか不安になったので【ライト】と言うと、手のひらをかざした先に拳サイズの光源がフヨフヨ浮いているのを確認する。
――間違いじゃなかったね。だるい感じもしないから魔力も充分かな。ちょっとでも体調に違和感を感じたら、消して帰ってきて休もう。攻撃魔法も思い出せてるけど、近接戦闘も充分できるから消費は抑えられるよね。
と短剣を持ち素振りして準備を続ける。
散乱している衣類のなかから、すこし大きめではあるがフード付きの外套も見つけたので着込んでいく。大人用だからか引きずるほど長かったため、膝辺りで切って調整はしたが。
そうこうしてると雨が上がったようなので、外に出てみることにした。
「いってきます」
誰にいうでもないが、しばらくの間拠点にするつもりなので、自然と口からこぼれる。
「自分でいうのもなんだけど、一部の記憶がすっぽ抜けてるのに、ずいぶんと落ち着いてるものだ……」
苦笑しながら独り言ちつつ廃村の中を歩いていく。
30軒ほどの小さな村だったようだが、ほとんどの家屋は朽ちていて、生きてる畑とかも見当たらず、探索する場所がなかったから、村の探索にはそれほど時間はかからなかった。
「わかってはいたけども人の気配は無いし、使えそうな畑はうちの裏手のやつくらいかぁ……井戸すらダメそうだから、生活用水は魔法で工面しなきゃかぁ……なおさら無駄に魔力は使えそうにないねぇ」
と、見所もない探索結果をまとめながら拠点の方に戻る。
「まだ日も高いし森の方もみてくるかぁ、台所に干し肉とかはまだあったけど、今後の事も考えると狩りも必要だろうし」
拠点の裏手の畑の横を通りつつ森へと向かう。
廃村からは100メートル程の距離だが、森からなにか出てきてもこれくらいあれば気づくのは容易だろう。
危険な動物とすぐに鉢合わせしないように、森に入ってすぐに広範囲の気配を探る。
――こんな拠点の近くで出くわしたら、ここも危険になっちゃうしね。
特に危険そうな気配はしなかったので、気配を探りつつどんどん奥に向かう。近くには小動物しかいないようなので安堵しつつ、自分の気配を消しながら近寄っていく。
――お肉がとれそうな大きさみたいだけど、食べられるやつだといいなぁ。
目視できる距離まできた先には、体長は50センチほどで額から角の生えたウサギがいた。
ウサギはこちらにはまだ気づいておらず、鼻をひくつかせて辺りを警戒しながら自分の狩ったであろうネズミを食べていた。
――うへぇ、いきなり"魔獣"の角ウサギかぁ。
魔獣は、魔素が溜まりやすい地域でそれが淀み、あてられた獣が凶暴化して生まれる。さらに淀みが酷いと暗い穴のようなものが生まれ、そこから多少知性のある魔物という存在が出てきたりする。
ちなみに"魔物"と"魔族"は別物であり、魔族は高い魔法適正を持っている種族となる。魔族は人族と同じように生まれ生活しており、暗い穴から出てくることはない。
大体の魔獣は、元となった獣に角が生えて凶暴化する感じだが、ウサギですら一般人からすれば、猪や熊などの獣以上に危険な存在になる。
――こいつら角が生えたからって、大体のやつらはその角を突き刺しに来るからなぁ……まぁ凶暴になってるからあっちから向かってくるし、追っかけなくていいのは楽でいいんだけどね。
ちなみに魔獣化した獣は、魔素を少なからず取り込んでいるため、その角はもちろん革の品質もよくなる。
――なにより、美味しくなるしねっ!
と付近には他に居ないことを確認し、角ウサギへと突っ込んでいく。
急に現れた敵に対し、額の角を突き刺そうと踏み込む構えをとる。
「魔獣になろうが、獣は獣だね」
が、突進する前に短剣が角ウサギの首に触れ切断した。
「さーて、血抜き血抜きっとー」
さっきは「うへぇ」とか言ったものの、それは魔素だまりがちかくにあるのに対してであって、おいしいお肉をゲットできた私の内心はウキウキだった。
――魔獣ならいいんだけど魔物は多少なり知性がある分、武器とか使ってきたりするから面倒だからなぁ……一人で食べるならこの1匹あればいいけど、保存用にもう数匹いないかなぁ。
血抜きのために角ウサギを木につるしながら付近の気配を探るが、この角ウサギの断末魔が聞こえたのか近くにはいなさそうだった。
仕方ないかぁと血抜きが終わるまで近くで山菜や薬草を探そうとしたとき、大きめの気配が近寄ってくるのを察知した。
「今度のはそこそこでかそうだね」
近づいてくる気配のほうを見ていると、体長2メートル近いイノシシの魔獣が歩いてきていた。
角イノシシがこちらの姿に気づき、威嚇のように吠えたあと突進してきた。
「まぁそう来るよね。イノシシはもとから突進の力が強いから、魔獣になった時の攻撃力も馬鹿にならないからなぁ」
何でもないようにつぶやくと、身をかがめて地面に手をつき【ストーンウォール】と唱えた。
私の目の前の地面が盛り上がり、厚さ50センチほどの私の体を覆えるくらいのサイズの壁が出来上がった。
角イノシシはそれを気にしていないのか、ただただすでに止まれないのか、ズンッと鈍い音を立てて壁にその角を突き刺した。
その音からいかに強力な攻撃だったのかが伝わってくるが、壁は破壊されることもなくその場に存在していた。
「あの勢いなら首の骨折って死んでくれててもよかったのに、そこはさすが魔獣かぁ」
角が刺さったことにより、すぐには動けなくなっている角イノシシを観察しながら短剣を手に取り、切っ先を首元に向ける。
「ま、それで死ななかったのが運がよかったのか悪かったのかわからないけど、おいしくいただくね?」
と言い終えると角ウサギのとき同様首を切り裂いた。魔獣の毛皮は防御も高くなるし、そもそも首が太かったが魔力をまとわせたこの短剣なら難なく切り裂くことが可能になる。
ふと短剣を見ると出発した時とは違い、刃がかけていて下手をすればすぐにでも折れるんじゃないかというレベルにまで破損していた。
「ああぁ……やっぱりこの短剣じゃ堪えられないよね……というより、今の魔力を通してよく折れなかったよね……帰ったら直してあげないとなぁ」
その前にこの角イノシシの血抜きと解体だね。
と重力魔法を使い、角ウサギの時同様につるして血が抜けるのを待ち、終わったら解体していく。
「ご飯も取れたし、これで数日は平気だから今日は帰ろうかな」
まだ太陽は頭上にあり日暮れには時間があるが、荷物の量が量なので帰宅することにした。
かなり思い付き執筆ですので、あらすじが高頻度で加筆修正されると思いますが、ご了承ください。




