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朝を願う  作者: 圓華伊織
5/8

少女

 彼が来ない。

 いつの頃からか私の夢に現れる男の子。

 彼のおかげで、最近はとても楽しい。


「でも、誰なんだろう。」


 実際にいる人物なのか、私が作り出した幻なのかわからない。願ったら来るのかな。

 試しに手を組み合わせて彼が来るように願ってみる。が、いつまで経っても現れない。ここでは私が願って叶わないことはない。彼は幻ではない、のか?


「高校生くらいか。」


 兄と姉がいて、将来に不安を感じている彼を思う。そんなに身構えなくてもなるようになる。何をそんなに怯えているのか。


「生きてるってだけで十分すごいことなのに。」


 今この状態を生きていると言えるのだろうか。


 夜、トラックに跳ねられたことは覚えている。住宅街で街灯は少なく、気を失う寸前に見た夜空には、こんな風にたくさんの星が見えた。


 気がついた時にはここにいた。何もない真っ暗な空間にただ1人。心細かったが、たまに聞こえてくる両親の声がすると安心した。


 ここが夢と似たようなものだとわかってから、いろんなことを試してみた。この世界はどこまで続いているのか、昼間のように明るくなるのか。声が聞こえた瞬間に大声で叫んでみたりもした。

 そして、何ができて何ができないのかがおおよそわかった。


 この世界は私が願ったり念じたりしたものが現れる。

 真っ暗な世界に街灯のような明かりがほしいと願えば、街灯が現れて周りを照らした。人が住む町を見たいと願えば、いつかどこかで見たネオンの夜景が遠くに現れた。空を飛ぶことも、世界旅行をすることも、何でもできた。


 しかし、目を覚ますことだけはできない。どれだけ強く願っても、両親に会うことは叶わない。


 このまま一生をここで暮らすことになると覚悟しながら過ごしていた時、彼が現れた。何も願っていないのに私以外の人が来た。ただただ嬉しかった。ずっと1人だと思っていたから、久しぶりに人に会えて嬉しかった。


 そして、彼と出会ってから聞こえてくる言葉の意味がだんだん理解できるようになってきた。その一つが「娘さんの植物状態」うんぬんかんぬん。おそらく病院にいるのだ。だから彼に調べてもらった。植物状態は治るものなのか。


「……意識が戻る人もいるらしい。」


 それっきり、彼は口を閉ざした。

 これは、戻ることはないんだ。おそらく、私はその戻る人じゃない。

 ショックはなかった。元々諦めていたのだろう。何より、ここでの生活も案外気に入っている。なんせ2年も過ごしたのだから。


「そんな、お葬式みたいな顔しないでよ。期待してたわけじゃないから。自分のことくらい自分が一番よくわかってる。あ、私はね。サトシくんは自分を見失ってるみたいだから、また魔女さんがお悩み相談しましょうか。」


 丸テーブルと2脚の椅子を用意し、お悩み相談はどんな感じか考えた結果、白衣を着てみることにした。だて眼鏡もかければ、立派なカウンセラーの先生だ。

 しかし、彼は口を開かない。


「……なんでだよ。あんた目を覚ましたいんだろ?散々励ましといてそれはないだろ。なんで諦めてんだよ。意識が戻る人もいるんだよ。それがあんたかもしれないだろ。諦めんなよ!」


 何も言えずに固まっていると、彼が口を開いた。


「俺、思い出した。自分のこと。」

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