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腹黒くんの思うがまま  作者: 神無月かぐら
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腹黒くんの思うがまま【後編】

後編です。よろしくお願いいたします。

失恋してしまった。

去年の入学式から好きだった彼に、彼女ができちゃった……。

原田の前で泣くだけ泣いて、ぼんやりしながら帰宅した私は、部屋で膝を抱えている。


『……俺じゃダメかな、彩音』


「……!!」


泣き止んだ時に、原田に抱きしめられたことを思い出す。あの時は頭が真っ白で何も言えなかったけれど、アレは、告白というやつなのでは?


「なんで……、いきなり」


そんな素振り、今までしてこなかったのに。

普通に話をして、普通に佐倉くんの話をしてくれていたのに。

失恋して、傷心の私にすぐに難題をぶつけないで欲しい。


と、そうやって頭を抱えているとスマホの通知が鳴る。名前を見て、つい顔を顰めてしまった。


「うっ……。原田……」


恐る恐るアプリを開いて内容を読む。


「『彩音、今日はごめん。いきなりあんなこと言われてもわかんないよな。忘れて』」

「え」


え、忘れる?無理じゃないかな、今更。だって、失恋したばっかの傷心の乙女だよ?あの言葉を簡単に忘れるなんて。


「……出来ない、と思う」


原田本人はここにはいないのに、言葉で返事してしまった。

するとまた続けて通知音が部屋に響く。


「『今週の土日、どっか空いてるか?』」

「『どうして』っと。」


ピロン。通知音だ。

返信早いな……。さすがモテる男子……。


「『デートに誘いたいんだけど』」


デデデ、デート!?さっきはアレは忘れてとか言ってたのに!?

切り替え早過ぎない?

え、私が遅いだけ??


「もう分かんなくなってきた!!」


前文との違いに、佐倉くんが初恋だった私はめちゃくちゃに混乱した。


「『前文と違いすぎるのは分かってるんだけど、悲しい気持ちを忘れるには、パーッと遊んだ方がいいかなって。相手が俺で悪いけど』」


どうやら原田なりの気遣いだったらしい。

混乱していたけれど、理由が分かれば納得出来た。


「『ありがとう。確かに私友達少ないし、そういうことなら、そのお誘い、乗るよ』」

「『よかった。拒否られて、彩音がずっと落ち込んでたりしたら放課後のことめちゃくちゃ後悔するところだった』」


文字だけだけれど、綺麗な顔をした彼の笑顔が安易に想像できた。


「『それで、どっちなら空いてる?』」

「『明後日の日曜日』」

「『了解。じゃあ明後日、駅の近くの公園で待ち合わせよう。』」

「『分かった。何時?』」

「『午前10時で』」

「『はーい』」

「『うん。じゃあ、おやすみ彩音』」

「『おやすみ』」


トントン拍子に明後日の日曜日の予定が決まった。子どもみたいに今からソワソワしてきてしまった。


「ふふっ、楽しみだな」





翌日の夜。


「明日、何着ていこう。」


季節は春の終わりで、梅雨がやってくる頃。暑めの日も増えてきた。けれど、春らしい暖かさもまだまだ残っている。


「無難にワンピースかな?」


最初に目に入ったのは、白い春物のワンピース。小さい赤いリボンが胸元を飾ってる。


「なんか、白に赤って、原田みたいだな……」


原田はアルビノで、白髪に赤い目をしていて、肌もすべすべピカピカな色白だから、顔なんかは綺麗な白の中に小さく(と言っても普通に目のサイズだけど)赤が入っている感じ。


「……うん、これにしよう。」


いつもお出掛け用の服を選ぶ時はもっと時間がかかるのに、すんなりと決まってしまった。

後はカバンだとかを用意して寝るだけ。



そして約束の日。


予定より10分くらい早く、待ち合わせ場所についてしまった。

どのベンチで待とうかと公園の中をキョロキョロと見回す、すると、公園内にある木々の中の1本の木陰に目立つ容姿の男子が立っていた。

原田だ。


「え!? もう来てたの!?」


急いで原田のもとまで走っていくと、原田は私の服を見ると目を細めて笑う。

うわぁ……イケメンの微笑……破壊力すごい


「彩音」

「原田! ごめん、もしかして私、時間間違えてた?遅れちゃったかな?」

「ううん。約束より10分くらい早いよ?」

「え? 間違えてないの? じゃあ、原田は何分くらい前から待ってたの。」

「今から、5分くらい前かな」


ってことは約束の15分前!15分前行動なの?そりゃモテるよね。


「それより彩音。私服初めて見たけど可愛いね」

「あ、ありがとう……」


服を褒められて、素直に嬉しかった。

そして原田は、シンプルだけどオシャレな服を着ていた。黒い春物っぽいシャツに、普通のジーパンと、ブーツ。首からは指輪が通された金具のネックレスを下げている。


「じゃあ、お互い早く着いちゃったけど行こうか」

「あ、うん」


私たちは2人並んで街を歩いた。私が興味を持てば、原田は行こっか、とにっこり笑って一緒に向かってくれる。

お金を使う遊園地とか水族館もいいけど、カップルの多いそういう所は今の私には少し辛かったから、このお散歩デートはとてもいい気分転換になっていた。


「あそこ入る? そろそろお腹空いたでしょ」

「うん! 」


原田が指さしたカフェは、落ち着いた雰囲気のカフェだった。


カフェに入り、飲み物とランチをそれぞれ注文し、先に来た飲み物を飲みながら、ランチの到着を待っていると、向かいに座る原田が優しい微笑みを浮かべている事に気づいた。


「? 何?」

「いや、楽しそうで良かったなって」

「……原田のお陰、かな」

「え。俺?」


原田はキョトンとする。


「だってそうでしょ。今日、原田が誘ってくれなかったらもしかしたらまた泣いてたかもだし、あと原田今日のお散歩デートって、カップルを見たくない私に気を遣って、遊ぶ時によく選ぶような遊園地とか水族館とか選ばなかったでしょ?」

「……」

「だから、今私が辛い顔をせずに笑ってご飯を待っていられるのは、原田のお陰。」


そう言って、私は原田に感謝の意味も込めて笑顔をみせる。


「……そっか」

「うん。」


この後すぐに席に届けられたランチを食べて、私たちはカフェを後にする。

そしてこの日は、夕方位まで二人で散歩をした。

私は別れて一人で家まで帰るつもりだったのだけれど、原田は私を家に送ってくれた。






早いもので、あのデートからもう1ヶ月ほど経っでいた。

私と原田……黒は、まだ放課後の教室で話をしている。もう作戦会議もどきをしても無駄だけれど、それよりも今は黒と話せるのが楽しかった。


佐倉くんへの想いを完全に忘れたりはまだ出来ていないけれど、黒と話すことで私の傷が癒え始めているのは、言うまでもない。


「私ちょっと、トイレ行ってくるね」

「ああ。行ってらっしゃい」


そう笑って手を振る黒はやっぱり優しいし、顔は綺麗だ。


私はトイレを済ませて教室へ戻ろうとしていた。

教室へと戻る廊下で考えるのは、黒のことばかりだ。最近ではごく自然と、佐倉くんの事は考えなくなった気がする。


「……うん」


一人納得するように頷いて、廊下を足早に進み、教室の扉を開けようとした時、中から話し声が聞こえた。

音を立てないように慎重に扉の小窓から中を覗くと、立っていた影は二つ。黒と、佐倉くんだった。


佐倉くんと二人の時は、黒はどんな感じなのかな、となんとなく好奇心が勝って、聞き耳を立てた。


何話してるんだろう?


「翔太。もう1ヶ月は過ぎたけど彼女とは上手くいってるのか?」

「うん。桜、昨日も部活に差し入れ持ってきてくれてさ」


彼女さん、桜さんって言うんだ……。仲、良さそうだな……。

黒のお陰でかなり癒された心の傷が、また少しだけ痛んだ。


「あ〜。はいはい。惚気はいらねーよ」

「ふふ」


嬉しそうに彼女さんとの話をする佐倉くんに、黒は面倒くさそうに手を振って適当に流す。


「でも、黒鳥のお陰で、彼女と知り合えたし、感謝してるよ」


え────…?

今、黒鳥のお陰って言った?彼女さんとは、黒の紹介で出会ったの?


「もう2ヶ月も前の話だろ。たまたま桜が彼氏欲しがってたから。ちょうど良かっただけだ」

「それでも、桜が黒鳥の従姉妹で良かったよ」


2ヶ月……?それって、黒と私が話すようになった頃だ……。出会った日、黒は私が佐倉くんを好きだって、私のミスで知ったし……。


そんなはずない。あの優しい黒が、そんなこと……。きっと、何かの偶然……

しかし、そんな私の期待は次の瞬間に否定された。


「でも、あの時は驚いたよ。なんで急に? って」

「別に、何でもいいだろ。今更」


急って……それまで紹介したりしなかったのに、急に、佐倉くんに彼女候補として、従姉妹を紹介したって?そんな偶然、そうそうある?


「そんな……」


じゃあ、私の失恋って……。黒の、せい?


「お前こそ、気になるって言ってた……」


ガタンッ。あまりのショックに、私はよろめいて扉にもたれかかりそうになってしまった。

でも、今更後悔しても意味はない。二人は一斉に扉に視線を移した。


「何?」

「……!まさか……!」


黒は急いで私がいる扉の方に近付いて、開けた。


「あ、やね……」


目を見開いて私を見るなり、震える声で私の名前を呼んだ。


「酷いよ……! 全部、黒のせいだったの!? 」

「違う……!」

「何が違うの!? 確かに私はなんにもしなかったよ!? けど、それでも、私はあの人が好きだったんだよ!! それを知ってて黒は……!!」


涙が溢れそうになって、私は慌てて顔を隠して、その場から走って逃げた。


ひどい。ひどい。ひどい!!優しくしてくれて嬉しかったのに!こんなのってない!!


無我夢中で走って、学校の中庭まで逃げる。そこにある木の根元に私は座り込んで泣いた。


「うぅっ……、ひっ、ぐす……なんで……」


どうして。どうして。どうして。協力するって言ったのに、逆のことしたのはなんで?何の為に?話かけられない私を内心では笑ってたの?


いくら考えても、理由は分からないし、酷いことしか考えられない。

どうしたらいいんだろう?


カサっと、中庭の芝生を踏む音がする。

黒?


「西里さん」

「あ……」


佐倉くんだった。黒が来てれたのではないかと期待してしまった。あんなことになって、来るはずないのに。


ゆっくりと振り向いて、佐倉くんを見る。


「……追いかけて来てくれたの?」

「うん……。二人の喧嘩って、多分、僕のせいでもあるよね? だから……。それに、黒鳥にも追いかけてやってくれって、頼まれたし」

「黒が?」

「うん。あいつさ、割と本当に腹黒だけど、肝心なところで変に引き下がっちゃう様な情けない奴なんだよね」


ふふ、と佐倉くんは優しく笑う。


「……佐倉くんは、黒と、幼馴染なんだよね? 」

「そうだよ」

「黒のこと、やっぱりよく分かってるんだね」


何だか少し、羨ましい。私はどうして黒があんなことをしたのか全然、分からないのに。


「西里さんは、黒鳥が好きなんだね」

「……うん。多分……」

「そっか……。うーん、そうだな〜。どこから教えてあげようかな」

「え?」

「あいつのこと。西里さん、あいつが好きだけど、あいつの気持ちや行動する理由がわかんなくて混乱しちゃってるんでしょ?」


素直に頷く。だって、本当に分からないの。

ちゃんと自覚した後なんだから、知りたくて当然だ。


「ん〜。まずさ、黒鳥は何でもそつなくこなす天才型でしょう?」

「うん。そうだね」

「誰にでも平等に笑いかけて優しくする。けど、それって逆に言えば、誰にもそこまで興味ないってことなんだよね。黒鳥が誰かに興味持ったり、深く関わろうとするのなんて、今のとこ、僕は君しか知らないかな」

「え?」

「ちょうど、黒鳥が西里さんの話をちょくちょくしてくる様になったのは桜を紹介してくれた辺りからだった。」

「本当に?」

「うん。本当だよ」


どういうこと?他人に興味を持たない黒が、私だけには興味を持って、深く関わろうとした?

それってつまり、私だけ、特……別?


「あと、最後に。さっきも言ったように、あいつは割と本当に腹黒だから、自分が欲しいものを手に入れる時は、逃げ場とか削ったりして、手段を選ばないよ」

「そ、そうなんだ……」


あのあだ名は彼をそのまま表したものだったのね。


「……私行かないと。ちゃんと伝えないと!」

「うん、頑張れ」


優しく微笑む佐倉くんは、やっぱり素敵で、初恋が彼でよかったな、なんて思う。

どうせなら、残ってるものも吐き出しちゃおう。


「佐倉くん!私!入学式の時に優しくしてもらってからあなたが好きだった!!」

「……そっか。ありがとう。」


少し、驚いた顔をした佐倉くんは、結局優しい笑顔に戻って、ありがとうと言ってくれた。


「彼女さんとお幸せに!!」

「うん。黒鳥は多分まだ教室にいるよ」

「ありがとう!」


そして、私はまた走って校舎内に戻る。階段を登って、廊下を走って、黒がまだいるはずの教室に急いだ。


「黒!!」


勢いよく扉を開けて飛び込めば、黒は驚いたように私を見た。


「彩音……」

「黒。さっきはごめん!言い過ぎちゃった!」

「……!」

「それでね……」


私は深呼吸をして走って乱れた呼吸を整えてから、黒をもう一度見る。


「私、黒が好き!」

「えっ?」

「私が失恋した後のあのデートとかなくて、傷ついたままだったら、きっと黒のことは好きになってないし、あの事実を知ったら、間違いなく黒のこと嫌いになってた。」

「…………」

「私が傷ついたのは黒が原因かもしれない。だけど、私の傷を癒したのも紛れもなく黒だったから」


そう言って黒に笑えば、黒が泣きそうな顔をして俯いた。


「……ごめん。俺、普段色々、他人とかものとかに興味がないから、欲しいものが出来ると、つい、全部欲しくなって……」


顔から切なさが消えた気がした。代わりに、すこ〜し暗いものを赤い瞳に映す。


「もうバレたし正直に言うと、俺は、翔太に彼女作って、彩音を失恋させて、その傷を俺がじわじわ癒して、俺無しじゃいられなくさせるつもりだった」

「ひぇっ」


思わず、恐怖する声が出た。


「好きだから、全部俺がしたかった。」

「!」


流れで告白を返されてしまった……。恥ずかしい……。けど、他人への興味が薄い黒の、全てを手に入れたい女、になれて嬉しかった。


「……こんなこと、もう二度としないでね? 辛くて私、他の誰かに……」

「は?」


冗談のつもりだったのに低いガチトーンで返される。


「じょ、冗談だよ! 黒って腹黒なだけじゃなくて独占欲も強いんだね?」

「……うるさいな。あぁ、そうだ。彩音、気づいてる?」

「え? 何に?」

「彩音、翔太のことであんなに怒ってたのに、ほぼ俺の思惑通りに俺を好きになってくれてるってこと」

「……気づいてるに決まってるでしょ。私が言った告白の言葉が、黒が暴露した私陥落計画(?)の通りだったからね」

「うん。嬉しかった」



こうして、私と腹黒くんこと原田黒鳥君は付き合いだしたのだった。


全ては腹黒くんの思うがままに。


fin.

長くなってしまいましたが、本編は終了です。

ここまで読んでくださった方!ありがとうございました!

あとは、腹黒くん視点を書きたいな。

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