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腹黒くんの思うがまま  作者: 神無月かぐら
1/3

腹黒くんの思うがまま【前編】

初投稿です。

なんとなく形にできていなかったネタを使いました。

私には好きな人がいる。

入学式の日に、私がばらまいてしまった荷物を笑顔で拾って手渡してくれた、優しい人。

一目惚れとはちょっと違うけれど、その時、私が彼に恋をしてしまったのは事実だ。



あれから2年。私、西里彩音(にしさとあやね)はなんにも出来ずに高校2年生になってしまった。


あの日からずっと目で追うだけ。


私の見た目は少し派手でギャルに間違われることがある。だけど、地毛が茶色なだけで、髪を染めたことはないし、オシャレも好き。でも学校にまでオシャレをしてくる程じゃないんだ。


そんなんだから、気になる人にグイグイいくような肉食系女子には到底なれなかった。


彼について分かった事と言えば、名前と誕生日くらい。

ちなみに、彼の名前は佐倉翔太(さくらしょうた)君で、誕生日は4月15日。


名前は毎年恒例の自己紹介で。誕生日はクラスの女子が聞いてるのを盗み聞きしてただけ。

話しかけることも出来ずに、今日まで来ちゃった。


だから、いつもは信じない、おまじないを頼った。


「えーっと、好きな人の机にピンクの水性ペンで私を好きになってと願いながらハートを5つ書く……」


昨日学校帰りに本屋に寄って買った、おまじないの本を見ながら指示通りの事をする。

本によるとこの方法は、放課後、誰も居ない教室でやることが前提条件らしい。


これが上手くいけば、もしかしたら……!

そんな期待をしながら5つ目のハートを書こうとした時、ガラッと教室の扉が開いた。


「あれ、誰かいる」


教室に入ってきたのは、原田黒鳥(はらだくろと)という、クラスメイトだった。

名前に黒と入っているけれど、原田君はアルビノらしくて、白髪赤目のイケメン。テストなんかも学年でかなり上位にいるし、運動神経もいい。要はモテる。

そして何よりも、私の好きな人の親友。


そこまで考えて、私はハッとした。


「あぁーー!!!」

「!?」


今私がやっているおまじないの前提条件……。『放課後、誰も居ない教室でやること』だ。

それがたった今全て崩れ去った。


「おまじないが……」

「おまじない? なんの?」

「うぅ……こ、恋の……」

「恋のおまじない? でもその席って……」

「あっ……」


思わず佐倉君の椅子の上で膝をかかえてしまう。話したこともないクラスメイト……しかも好きな人の親友にバレた。

おまじないの事も、好きな人も。


「あぁもう、しにたい……」

「なんか、ごめん(?)」

「色々分かってないのに謝らないでください……」


そう言ってそっぽを向けば、向いた方に綺麗な顔が追ってきた。

無駄に綺麗……。女子より肌すべすべじゃない?

陶器のように白い肌って言葉がピッタリなくらい。


「でも、なんか意外」


ほう……っと、綺麗な顔を眺めていたら、綺麗な口元が動いて、私に声をかけた。


「えっ。何が?」


焦って声が少し裏返ってしまう。しかしそんなことは気にせずに原田君は続ける。


「いや、西里さんってもっとグイグイいくタイプだと思ってたから。」

「…………よく言われます……」

「あはは、そうなの?」


よく思われるだけで、事実じゃない。私には、好きな人にアピールできる程の勇気はないから。


「そんなに落ち込まないで」


私は無意識に暗い表情をしていたらしい。原田君が申し訳なさそうな顔をしている。


「落ち込んではないです」

「そう? ていうか、好きな人って翔太なの?」

「……はい」

「いつから?」

「入学式の時……優しくしてくれて……それからずっと好きなんですけど、未だに話しかけることも出来てなくて……」

「だから、おまじない?」


素直に頷けば、原田君はなるほど、という様な顔をして納得していた。


「うーん。じゃあ、俺が協力してあげよっか?」

「いいんですか?」

「うん、いいよ。おまじないの邪魔しちゃったお詫びってことで」

「……!!」


思わずパアアアと効果音が鳴りそうな表情になってしまった。なんだこの人。めちゃくちゃ優しい人じゃない……。類は友を呼ぶとかいうし、優しい人の親友は優しいんだな。


「じゃあ、とりあえず、敬語(それ)やめない?俺らクラスメイトなんだしさ」

「わ、分かった!」

「うんうん。よろしくね。彩音」


にっこりと笑うイケメン君。そしてナチュラルに呼び捨てにされてしまった。


「いきなり呼び捨て!?」

「うん。ダメかな? なんならあんたも俺の事呼び捨てしていいよ」

「名前はいいけど……。私はまだ下の名前の呼び捨てはちょっとな……原田、でいい?」

「まあ、いいよ。最初はそれでも」


原田はそう言って、仕方ないか、という表情を私に向けた。





その日の夜。


「まさか協力してくれるなんて……」


私は、思わぬ協力者が出来たことに喜んでいた。


原田は、佐倉君の親友だし、かなり期待できるんじゃないかな!

あ。あと原田が幼馴染だとも言ってたよね。なおさら期待値があがるな〜!!


「あれ、でも待って」


確か、原田君にはあんまり良くない感じのあだ名があったよね……。なんだっけ、原田黒鳥……。

原……黒……?あっ!腹黒!!


「そうだよ! 確か佐倉くん以外の人が、原田君を腹黒って呼んでたんだ!!!」


……まさか、ねぇ?あんな優しい感じの原田が、腹黒くんだなんてことは……。

そう考え出すと、あのにっこり笑顔に裏があるような気がしてきて、私がビクビクしてしまったのは言うまでもない。




翌日の放課後。私は原田と二人で教室に残って、作戦会議もどきをしている。


「佐倉くんの好きな食べ物ってなんなの?」

「うーん。基本何でも食べるし好きだけど、特に好きなのは唐揚げかな?」


あんなに爽やかでイケメンな佐倉くんが、唐揚げが好物とか、可愛すぎる……!!

内心だけで悶えていたはずが、表にも出てしまったみたいで、両手で顔を覆った私を見て、原田は笑っていた。


「でもいいなぁ……。原田は佐倉くんの幼馴染で親友だから、色々知ってるんだよね?」

「まあ、付き合い長いしね。なんなら好みのタイプも知ってるけど、聞く?」

「うぅ……私タイプじゃないのは分かるからあんまり聞きたくない……けど、好きな髪型とか……」

「好きな髪型? ロングストレートだったかな…」

「ロングなの!? やったー!明日から更に念入りに手入れしよう……」

「ふふ」


原田は私がよっぽど面白いからか、よく私の行動で笑う。そこではた、と昨晩思い出した彼のあだ名……腹黒、が頭に浮かぶ。

本当なのかな?聞いてみたいけど……。答えてくれるかな。


「ねぇ、原田?」

「んー?」

「原田ってさ、腹黒なの?」

「あー……、俺のあだ名のこと?」

「……うん。昨日寝る前思い出して」


そこまで言って、私は今まで自分の膝に向けていた視線をチラッと、原田の方に上げる。


「まあ、火のないところに煙は立たないとも言うしな」

「それで結局、どうなの?」

「ん〜。秘密♡」


そう言って自分の口元に人差し指を当てて、所謂、シーッのポーズをしながら目を細めて笑う原田を見ると、やっぱりこの人はイケメンなんだなぁと思った。


「まあ、いっか」

「そうそう。気にしない。気にしな〜い」

「……それを私自身じゃなくて、君が自ら言う事で、更に疑いを深めてる自覚ある?」

「そうだね〜」


まあ、疑いを深めてるとか言っていても大事な協力者は失えないので、それ以上は気にしない事にした。



それからも私たちは放課後、教室に残って作戦会議もどきを続けた。

作戦会議と言っても私が一方的に佐倉くん本人に聞けない好きな物だとか、趣味とかを原田に聞いているだけなんだけどね。



それを1ヶ月ほど続けた、ある日。私にとってショックな出来事が起こる。

いつも通り、私たちは放課後の教室に集まっていた。


「それでさ〜。佐倉くんが笑ってくれて嬉しかったんだ〜」

「へぇ」


私は今日やっと佐倉くんに話しかけることが出来たことを原田に報告していた。と、その時。

窓際の私の席から外をなんのけなしに見てみたら、佐倉くんが誰かと一緒に歩いているのが見える。


「え?」


女の子だ。佐倉くんが女の子と歩いてる。楽しそうに。あれは……


「彩音? どうした?」

「原田ぁ……」


窓の外を見たまま固まった私の様子を見て、原田が心配そうに声をかけてくれた。

私はその優しく心配する声に泣きそうになりながら、窓の外を指さす。私の指を追って原田は窓の方に視線を移した。


「……!」


原田も、外を見て驚いた表情をする。そして再度、私に心配そうな表情を向けた。その表情を見て、私は失恋したんだという事に嫌でも気づかされる。とたんに視界が歪み、咄嗟に俯いたけれど、机に涙がぽたぽたと落ちる。


「彩音……」


心配そうにかけられる原田の声に、私は本音を漏らしてしまった。


「なんにも……行動しなかったけど……でも、でも……」

「うん」


原田の優しい相槌に、更に涙が溢れる。


「私、は今日……、話せただけ、なのに……あの子は……手、繋いで……佐倉、くんも、あんなに楽しそうで……」

「そうだね」

「わた……私、なんにも、行動出来なかったけど、それでも、ずっと……入学式から、すき、だったのに……っ!」

「うん。知ってるよ。」


原田は、泣きながら話す私の肩を慰めるように撫でて、ゆっくり頷いてくれる。

そんな原田に私は、せき止めていたものを解放するようにわんわんと泣き出す。


「うわぁぁあん……!」


辛くて辛くて辛くて。これが失恋の痛みなんだなと、私は初めて知った。






しばらく泣いて落ち着いた私は、ぼんやりと机を見ていた。

そうしていると、いつの間にか私の椅子の隣に原田が立っていた事に気づく。


「原田?」

「……」


原田は、ゆっくりと手を私に伸ばす。


「え……」

「……俺じゃダメかな、彩音」


その原田の切なげな言葉を耳元で聞いた時には、私は原田に抱きしめられていた。

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