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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第十五章 地下でモブは悩みプリンスは戦場に狩り出された
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さあ、実戦訓練をしましょうよ

「なんだ、そのポンポンは?」


 俺達の班の班長となった年上の男は、俺の腰にぶら下っている赤いポンポンに当たり前だが反応した。


 さあ!こんなものをつけるんじゃない、とか、やる気が無いなら帰れ、ぐらい言って欲しいと、軍人らしく髪を殆ど坊主に刈り上げた男を見返せば、そいつは言葉に詰まったような顔をしていた。


「可愛いでしょう。これならばうちの子達を見失わない。ほら、初対面で同じ格好をした高校生ばっかりじゃ無いの。」


 伊達メガネまで掛けて先生風を装うアストルフォさんが、いまだ候補生でしかない学生に笑顔を向けながら脅しかけていたのである。

 俺のやることにガキが口出しするな、アストルフォはそんな文字が見えるオーラを背負っているのだ。


「そうじゃな。見失ったら大変だ。わしらは同じ年頃の奴らと殺し合いをせねばならないらしいからな。ふはは、こんなもんつけていたら、一番最初に狩られると、我らが先生はわかってやっているのだ。気にするな、なあ。」


 班長に対して皮肉いっぱいの言葉をかけたニッケに、俺は心からごめんなさいとの気持ちを抱きながら両手を合わせていた。


 俺達はクラウリー士官学校のグラウンドにまず集められると、そこで偉い軍人の長い挨拶をイラつきながら聞き、それが終わるや輸送用ヘリに押し込められて、軍管理となっているレクレーション広場に降ろされたのだ。


 無人島に刑務所を建造したここは、百年前までは政治犯やら重罪人を投獄していたという脱出不能の監獄だ。

 ガス室や拷問室も備えていると噂の、一般人立ち入り禁止の魔の島なのである。

 そんな施設に俺達高校生を集め、そこで戦い合えとのお達しなのだ。


 ルールは単純。

 特待生に支給されている黒制服の左胸についてる間抜けな胸章、銀色の大き目のロゼッタリボンを奪われればお終いだ。

 だが、そのロゼッタリボンは、素手でなく、魔法力で相手の胸から外して奪わなければならないという糞注釈付きでもある。


 制御できない魔法が左胸にぶち当たったら、ハハハ、俺達死ぬな。


 さて、そんな悪趣味な対戦は、七グループにての混戦だ。

 ひとグループは、三名の能力者に士官候補生二名が指揮者として付く。

 つまり、俺達能力者と士官候補生の関係は、犬とハンドラーそのものなのだ。


 犬である俺達の勝利が士官候補生の成績となり、また、一日にひとグループの脱落で対戦は終了し、続きは翌日に持ち越される。


 対戦が終了したら、生徒達はこの監獄島に振り分けられた宿舎に戻り、好きな事をして翌日の対戦時間まで遊んでも良い、そんなこともルール説明者は口にしていた、と思い出す。

 そんなことを思い出したのは、広場に立っているだけの状況にイラつきだした子供たちが、ぼそぼそと苛立ちの呟きを交わし始めているからである。


 ああ、早くこんなウザイお遊びから抜けたいな。

 そうだ、六グループで協力し合って目立つ奴らを潰そうか?

 どのチームにする?

 あのポンポンつけている馬鹿どもがいいんじゃない?


 ニッケが言う通りに、俺達はアストルフォによって、力の加減が一番分からないであろう、初日の生贄に選ばれてしまったのである。


「いいか。目立って狙われるのならば、逆にそこをチャンスと見よう。」


 俺達のハンドラー、ついさっきまでアストルフォに脅えを見せていたカート・アドラー候補生は、自分が班長であることを思い出したのか急に勇ましい事を言い出した。


「そうよ。一日目でお終いなんて絶対にダメ。頑張りましょう、皆。」


 副班長のリンダ・ノートン候補生だ。

 褐色肌は筋肉が浮き出ているほど鍛え上げられたリンダであるが、彼女は外見とはかけ離れた可愛らしい声を出した。

 男勝りに髪を短くしていてもそれを金色に染めていたり、両耳に小花の形をしたピアスをしている所から、彼女は外見よりも声の方が彼女の性質に近いのかもしれない。


「あ、それからね。危険だったら棄権をしてもいいのよ。ええ、危険だと思ったら。ええと、出来る限り頑張ってほしいけどね。」


 優しいお言葉を授けてくれたが、俺達が失敗したら、彼女はねちっこく嫌味を言いそうだな、とも思った。


 さて、ニッケもダレンも俺も、命に危険さえなければ一日目で脱落したい気持ちでいっぱいなのだが、今後の成績に今回の結果がかなり影響しそうな二人は俺達を今日で脱落させるつもりはないようだ。


「はあ。君達は大変だよねえ。学生の本分は勉強。脱落した子達は再教育だっけ?最終日まで監禁?収容?ええと、どこの施設にだっけ?」


 真面目そうで間抜けそうにも見える振る舞いをしている、俺達には嫌がらせだけにしか思えない男、アストルフォがこれ見よがしに研修パンフレットのページをぱさぱさと捲り始めた。

 周囲の視線が体に突き刺さる。

 研修生が特待生一年目の生徒ばかりだと言うならば、今回の研修が初めての生徒しかここにはいないのだ。

 彼らは不安いっぱいなまま、少しでも多くの情報が欲しいと、機密情報を吐露しそうに見えるアストルフォを注目しているのである。


「いい加減にしろよ。お前が騒げば騒ぐほど、俺達のポンポンが目に入る。ああ、あの目印を皆で狩ればいいだろう。明日は今日一番の足手まといチームにしようぜ、そんな心の声が聞こえるようだよ。」


 アストルフォは悪戯そうな目線を俺に寄こすや、俺の耳に俺が一歩も引けなくなることを囁いた。


「君が最後まで残ったら、君の大事なウサギさんを返そう。」


 俺はニッケとダレンに飛びつくと、そのまま彼らを抱き寄せて風を纏った。

 野外に集められた俺達だが、その集合させられているフィールドを誰かが飛び出たところでゲームがスタートだ。

 最初に動いた奴らが狩られるかもと、俺達は威嚇し合ってフィールド内でぐずぐずとしていたのである。


 俺は親友達を腕に抱き、思いっ切り地面を蹴った。

 俺のせいで友人達もろとも空高く舞い上がり、俺はそのまま高所から監獄を見下ろして、一番身を隠す場所が多そうな建物の中へと飛び込んでいた。

 足で逃げれば獲物だが、俺みたいに空を飛んだらどうなるんだろうね、と、俺は勝ち抜くために動き出したのだ。

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