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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第十五章 地下でモブは悩みプリンスは戦場に狩り出された
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夏の強化訓練の引率者?

  私はびくびくしながら十一時半に指定した電話番号先に電話していたが、そこは軍施設どころか私もよく知っている場所だった。

 電話番号をびくびくしながら押して、その番号を半分ぐらい押した所で気が付いた、という酷い話なのである。


 私は心の中でアストルフォを罵った。

 監禁を知られてはいけないと命じた私に、私の顔見知りの店に電話をかけろとはどういう料簡なのか。

 実はいい奴で、自分こそ私を助けられない縛りがあるからこそのこの電話?とも一瞬だけ考えたが、私はアストルフォの第一印象で方向性を決めた。


 あいつを信じてはいけない。


 よって、電話が呼び出し音を鳴らす間、電話応対者となるだろう面識ある店主に、自分が何と名乗るべきかと私は必死で考えることとなったのだ。


「はい。ミランダ美容室です。」


「ええと、マリー・アストルフォです。そちらに夫はいるかしら?」


「あら、夫って奥様?」


 間髪入れずに少々嫉妬の籠った声が帰って来たが、アストルフォに妻がいたと憤慨するよりも近所の私だとどうして見破ってくれないのか。


「ハウスキーパーを命じられているならそうなんでしょうね。そちらにおりましたら代わって下さる?紫がかった銀髪の男です。」


「まあ、お待ちになって。受話器をお持ちしますから。」


 オルゴールみたいな保留音楽を聞きながら、自分は何をやっているのだと自問し、このまま逃げてしまおうかと考えたその時、聞きたくない声が出た。


「はい、合格。お昼には帰るから、適当にお昼ご飯を作っておいて。冷蔵庫の中のものは適当に使っていいから。」


「まあ、合格?嬉しいわ。」


「おや?声が不機嫌そうだ。どうしたの?」


「いいえ。行き先が美容室だった事に脳みそが追い付かないだけですわ。」


「ハハハ。明日から出張だからね、イメチェン、かな。ああ、ようやく、ろくでもない髪型を変えられるって嬉しくてね。直ぐに帰るから、じゃあね。」


 ぶつ、つーつーつー。


 その電話から一時間しないでアストルフォは機嫌よく戻って来て、私がちゃんと自分の監督をしていたと、馬鹿正直者で安心したと大笑いした。

 私は自分の監禁者を出迎えながら、確かにアストルフォの髪型が変わった事は私の心情的に良い事だと思った。


 彼の今までの髪型は、嫌な事にハルトと同じであったのだ。

 彼こそ同じ髪型は嫌なのか、私が見る限りでは、額を出したり分け目を変えたりの工夫はしていた。

 つまり、ハルトならば似合う少し長めのショートヘアは、アストルフォにはあまり似合わないモノであったのである。


「いい男になったでしょう?田舎の美容室は意外と腕がいい人がいるから侮れないよね。はあ、ようやく自分を取り戻せたよ。」


「髪型を変えられたってことは、ハルトの偽物ごっこはもうしないって事ね。」


「さあ。次にロランに扮装する時は、あいつの髪こそ俺と同じにするけどね。」


 嬉しそうに短い髪を梳いて喜ぶ男を見つめ、どう見ても成功した若きキャリアにしか見えなくなったと、私はぼんやり考えた。


「その髪型はハルトには似合わないわ。彼が二十歳を越えれば似合うかもしれないけど、その髪型はおじさんっぽいもの。」


 アストルフォは笑いながら私の額を弾き、だからいいんだよ、と囁いた。

 どうやら彼は明日から一週間は首都に出張するらしいのだ。


「君の大事な友人達をクラウリー士官学校での研修課外授業に参加させる引率でね、俺は一週間は重労働だ。」


「それは危険じゃ無いの?」


「危険かどうかはあの子達の才覚によると思うよ。」


「危険なのね。」


「さあ。特待生という能力者を士官候補生達が使いこなせるか、の練習でしかないからね。犬の立場の能力者を対戦させ合ってね、候補生たちにハンドラーとしての経験を積ませるって課外授業だから、怪我はあり得るかもね。」


 私のせいで友人達はそんな非人道的なものに駆り出されるというのか。


「君はいい子でお留守番は出来るよね。」


 私は、できる、と即答していた。

 ハルトにニッケにダレンが、私の為にそんな場所に狩り出されてしまったのだ。

 それくらいできなくてどうする。


「お利口さんだ。じゃあ、ご褒美をあげよう。君は何色が良いかな。赤とベージュ、それから浅葱色に、灰色がある。」


 彼は褒美の品について四色があると口にしたが、私の目の前に彼がぶら下げたのは、灰色のキーホルダー一つだけだった。

 それは、丸いボール状にされたウサギの毛皮に、キーリングが付いているだけというものだ。

 アストルフォはリングをつまむ指をぱっと広げ、私は反射的に両手を差し出して落ちるそれを受け止めた。

 私の手の中に納まったそれは、まるで鼠が丸まって脅えるかのようにして、私の手の平でふわっと揺れた。

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