エルヴァイラが特別な理由
「エルヴァイラはまっすぐです。自分の大事な人間が傷つけられたと知れば、そんな人間を破壊しようと能力を使うでしょう。」
「そんな奴が何もしていないミュゼには意地悪三昧だけどね。」
ノーマンは俺の茶々にハァと嫌味な溜息を吐いて見せ、彼から話を聞きだしたい俺以外の人間が俺の脛を同時に蹴った。
「この馬鹿者が!」
「そうだよ。静かにノーマンの話を聞け。で、どうして女装してんのさ。女装していてもっていうか、ジュリアしていた君をエルヴァイラは守っていたじゃない?逆効果じゃないの?」
「俺が誰にもわかる守り手でいれば、俺が狙われて怪我をする可能性が大きい。ですが、女装することで危険には彼女を誘導して一緒に逃げるという行動が可能です。また、臆病な少女を演じる事でエルヴァイラの思い切った行動を制限も出来る。それは怖いわ、エルヴァイラってね。」
「思い切った行動?ミュゼと俺を乗せた救急車が宙に舞ったように、か?」
「だからあなた方は危険なんです。あの子が勝手に暴走してしまう。」
「お主、教えてくれ。軍はどうしてそこまでエルヴァイラを守ろうとするのだ?他の特待生とどこが違うというのだ?魔法力はエルヴァイラこそ弱いのではないのか?なあ。」
「魔法力って何でしたっけ?」
ノーマンの質問返しで、俺達は魔法というものを学ぶ最初の授業を思い出させられていた。
――能力発動は媒体を必要とします。
ですから、自分の属性をまず見極めましょう!
俺達に属性があるのは、その属性の物質と親和性があるというだけのもので、親和性があるという事はそれを媒体に出来るというだけの事なのだ。
属性表で水と風が隣り合っているのは空気の中の水の分子を扱えるからでもあり、風と炎が隣り合えるのは、空気の中に酸素や水素、そして、メタンなどの燃焼性のある元素を扱えるからであろう。
魔法の能力が高いほど物質を分子や原子などの原点に近いものを扱え、逆に魔法力が低ければ大きな存在のものしか影響を与える事が出来ないのだ。
例えば炎属性では、燃焼ガスこそ生み出せる高能力者と燃焼物に着火しか出来ない低能力者の違い、水属性では目の前にある少量の水を蒸発させたり凍らせたりしか出来ない低能力者と、ダレンみたいに空気から水を取り出して氷の鍵を作り出せる高能力者の違いと言えるだろう。
「エルヴァイラは媒体など必要としません。念じれば念じた何でもが持ち上がり、念じただけで何でも粉々に壊すことが出来るのです。」
俺達三人はノーマンのその答えで、俺やミュゼを処分してでもエルヴァイラの心を守ろうとした軍部の暗黒さを理解できたと言っていいだろう。
彼女は素晴らしい兵器なのだ。
「俺は守りますよ。あの子が人間でいられるように。ですから、あなた方の行為は許せません。あの子の心を踏みにじる、こんな行為はね。」
「そうだな。わかる。俺はエルヴァイラが嫌いだが、だからって彼女を敢えて傷つけたくはないよ。それで、能力について特待生一年生よりも知っているお前だろ?魔法力は無効化できるのか?」
俺はノーマンのエルヴァイラに対する騎士道精神を大事にすべく、俺やエルヴァイラを貶めようとしている親友達に抵抗できる技があるのか尋ねていた。
ノーマンは微笑むと俺に彼の持ち物、プラスチック製の紐を投げてよこした。
「静電気防止用の紐ですが、これをつけると魔法媒介力を抑えられるのですよ。不思議ですね。」
俺はその紐を手にするや、ダレンとニッケの拘束の為にフォードを呼んだ。
フォードは俺の第二の親父を気取っている通りに、俺の我儘は絶対に叶えてくれるという素晴らしき人物だ。
彼は拘束したダレンとニッケをロラン家に強制滞在させ、翌日の今日、十一時の待ち合わせに間に合うようにと、俺達をクラウリー士官学校に送り届けてくれたのである。
アストルフォがご機嫌なのは、俺達が俺の父の私兵に囲まれた姿で彼を待っていたからかもしれない。
その私兵がアストルフォが来るや、先生どうぞ、と俺達を彼に差し出して来たのならば尚更に、アストルフォの被虐心が満足したのに違いない。
俺は親友を二人失ったようだが。
「ほら、君にも。大事にするんだよ。」
俺の目の前でウサギのキーホルダー、真っ赤に染められた丸い毛皮は揺れ、俺はその揺れる玩具を忌々しい気持ちのまま受け取った。
言う事を聞かないとミュゼこそ真っ赤に染まる?
ミュゼの為には、アストルフォに完全服従、それしかない。




