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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第十四章 モブの為にプリンスは奔走する
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子供には夏休みに課外授業があったりする

 俺達にニッケを褒める先生はいないと訝りながら受話器をニッケの父親から受け取り、耳にそれを当てたそこで俺の足は床に凍り付いた。


「正解に一瞬で辿り着いたようだね。おめでとう。けれどね、このことで俺こそ幸運が欲しくなった。ウサギの足って、幸運のアイテムになるんだっけ?」


 俺の脳裏に足を血塗れにさせたあの日のミュゼの姿が思い出され、俺はその痛々しい彼女の姿を思い出した恐怖でひゅっと息を吸った。


「ミュゼに何かしてみろ。俺は――。」


「誰かな。ミュゼって。俺は灰色ウサギの話をしている。そして、君達の課外授業についても話しておきたい事があるってだけだ。」


「課外授業?」


 俺を殺したいはずのアストルフォが言い出した課外授業とは、先日失敗した俺への襲撃のやり直しなのかと、受話器を耳に当てたその姿のまま、親友達の顔を縋るようにして見返していた。


 ミュゼを助けるには、俺こそ死ななければいけないのかもしれない?


 ダレンもニッケも俺の恐怖、いや絶望が伝わったらしい。

 だがしかし、彼らは先ほどとは違って顔色を失ってはいるが、目の力は失ってはいなかった。

 彼らは同時に、俺達がいる、という風にして頷いて見せたのである。


 ありがとう。


 俺は声を出さずに口の動きだけで彼らに伝えた。

 すると、そんな俺を鼻で笑ったような感じで、電話の向こうの言葉が続いた。


「そう、課外授業だ。」


 俺は友人達を命の天秤に乗せてしまうかもしれないと思いながら、俺達の死神でしかない男の電話に再び向かった。


「わかった。その課外授業に俺が参加したら可哀想なウサギをお前から助けてあげられるんだな。いいよ、俺にできる事、ああ、何だってするから、ウサギを無事に返してくれ。」


「――君はウサギさんよりも真っ当だね。あのウサギさんは、自分の命、家族友人その他の安全、それから俺とエッチな事はしない上で、君を助けてくれるならば何でもするからってお願いして来たよ。それって何でもって言わないでしょうって、俺は思わずウサギを叱ったけどね。」


「――安心したよ。それでこそミュゼだし、あいつは生きているんだな。」


「生きているし、これからも生きていて欲しいならね、いいかな、課外授業について説明しても。簡単な話だよ。首都に士官学校あるでしょう。そこのお兄さんお姉さんと一緒に一週間ぐらい過ごしてねって言っているの。わかった?」


「え?」


「だから、エルヴァイラの不在で彼女が参加する予定だったイベントの代理人が必要なんだよ。っとに、お前が想定外の動きしかしないから。」


「え、ええ?え?エルヴァイラはどうして不在なんだ?」


「病院で王子様のキスを待っているから。お前がキスしないから、魔法が解けずにあの子はまだ寝たまんまだよ。」


 俺はアストルフォの言いたい事が頭に入ってはいるが、その意味を理解する事が全くできなくて、再び彼に聞き返していた。


「え?」


「ロラン君。君が外見と違って頭の回転が悪い人なのはわかった。そこにフォークナー君もいるだろ?そっちと電話を代われ。」


「いや、大丈夫だよ。分かった。お前の言う事に従うから、まず説明してくれ。」


「いや、だーかーらー、ああ、馬鹿は面倒だ。俺が明日そっちに行くから、そこで説明する。はあ、やっぱり俺が引率するのか。ノーマンはエルヴァイラから離れないだろうしな。ああ、面倒だ。明日の十一時にクラウリー士官学校前で待ち合わせだ。お前と、フォークナー君とドロテア君、いいね。」


「三人?とも?」


「元の申請は、エルヴァイラとノーマンとお前の三人だったんだ。ああ、もう。お前がちゃんと動いてくれたらノーマンもいるしで、俺は休暇で遊んでいられたって言うのに。全く。いいか、ちゃんと友人達も集合させておきなさいよ。頭数が揃っていないと俺の評価に関わる。その憤慨は可愛いウサギに被せるからね。」


 俺はわかったと答えていた。

 その意味の分からない研修に参加してミュゼが助かるならば、いや、再び俺の腕に抱けるならば、と、俺は誘拐者に追従することにしたのだ。


「わかった。明日から一週間、クラウリー士官学校での研修課外授業だな。絶対にダレンとニッケを連れて行く。」


 俺は哀れなミュゼの為に、何でも言う事を聞く、と俺の死神に答えていた。

 電話の向こうからは、優越感に溢れた喉を鳴らす含み笑いが聞こえた。

 俺はこいつに隷属するのだ、と、完全なる敗北を感じながらも、それでもミュゼとの再会ためならばと電話を切った。


 切った後、どうしてミュゼの声を聞かせろと言わなかったのか、と思いながら。


 いや、わかっていた。

 俺は怖かっただけだ。


 もう死んでいるよ、なんてあの男が言い出したらって考えたら、怖くて仕方がなかったんだ。 

 俺はミュゼは生きているんだと自分に言い聞かせて友人達に顔を向けたが、俺の友人達は俺の傍から消えていた。


「うわあ!逃げやがった?どうして?話の内容なんか!」


「うちの電話はどの電話も横から聞く事が出来るんだよ。保安上ね。」


「で、俺達が明日士官学校に集合しなければいけない事を、盗み聞いていたあいつらは知って逃げたと?」


 ニッケの父親は物凄く良い笑顔を俺に向けた。

 俺は畜生と叫びながら、あの二人を探しに外へと飛び出すしか無かった。

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