親友達と俺
ニッケはミュゼの居場所を探索してくれたが、当り前のように、いや、俺が気が付いているべき答えを出した。
「スーハーバーじゃ。あの町のどこに隠されたのかは見えぬが、スーハーバーからミュゼは動いておらぬわ。なあ。」
俺はニッケの言葉を聞くや、自分の顔を右手で真正面から強く打ち付けた。
本当に大馬鹿者だ。
ミュゼの不在に混乱し、首都にいるという情報に踊らされて、助けを求めているだろうミュゼを、俺はスーハーバーで探そうともしなかったのだ。
「ハルト?」
「帰る。ありがとう、ニッケ。それからダレン。俺はスーハーバーに帰る。今すぐに帰る。ミュゼを見つけてあげなければ。」
「いいぞよ。わしも戻ろう。大事な親友の一大事だ。」
「ありがとう。ニッケ。」
俺はニッケに手を差し出し、ミュゼの奪還を誓い合う同士のようにしてニッケの手をぎゅっと握った。
そして、彼女から手を放した後、こんな場面で何も言わない加わっても来ない親友を不思議に感じながらも、俺は彼に視線を動かした。
するとダレンは、俺を真っ直ぐに見つめ、俺にはやることがある、と言った。
「だよな。いいよ。別に。お前はジュールズと首都で遊びつくそう計画をしっかり立てていたんだもんな。」
「失敬だな!違うよ!俺は守りでこっちに残るって言ってんでしょう。こんな状態だ。兄さんやミュゼちゃんのお父さんお母さんだって危ないかもじゃないの!」
俺は素直にダレンに謝った。
ここは素直に謝って誤魔化す方が良いだろう。
俺はミュゼさえ生きていたら、いや、彼女を俺に取り戻せるならば、彼女以外の人間が死のうが生きようがどうでもいいと思っていたのだから。
そのどうでもいい人間に、ニッケとダレンさえ組み込んでいたかもなんて邪推されては今後の友情に係る。
「本当にすまなかった。君の力を頼みにしていたからこそ、そうだね、一緒に行動って勝手に考えていた。ああ、君の言う通りだ。ミュゼを奪還しても彼女の大事な人達が死んでいたら彼女は俺に笑ってはくれないだろう。」
ニッケはニヤリと笑い、ダレンも俺を虫けらを見るような目で見返すと、二人は仲良く俺を指さし、嘘吐き!と罵倒した。
「やっぱ俺もスーハーバーに戻るわ。こっちでミュゼちゃんのお父さんお母さんが何かあったら、絶対にコイツは俺だけのせいにしそうだ。」
「そうじゃなあ。わしは反対に残ろうと思ったぞ。こいつはわしらを盾にして、わしらを見殺しにだってする気にも見えた。」
「うわ、最低。で、絶対そうだって思えるところが本気で最低。ニッケ、俺もやっぱ残るわ。ハルトの馬鹿にスケープゴートにされそうじゃない?」
俺は真実そうだったと、バレたと舌打ちをした。
しかし、彼等は人非人な俺にさらに怒りを見せるどころか、このぐらいがいい、なんて言い出したのである。
「やっぱりね、俺達もお前を見捨ててもいいってぐらいがいいよ。絶対とか、必ずとか、死んでも、なんて、重すぎて辛い。そんな事になってもね、俺が好きでやるんだからさ、それでいいんだよ。」
「主は本当にいい男じゃな。わしは危険になったら逃げるからな。一国の姫じゃからな。そんで、お前を将来の夫として一緒に逃げてやる。なあ。」
「ありがとう。これで心置きなく俺はミュゼだけに焦点を当てられる。」
「いや、そこは考え直せ。俺達に悪かったとか、考えてなくても言え。」
「そうじゃぞ。ハルトは馬鹿正直すぎる。ほんとーに、ジュールズと比べてどうしてハルトなのか、ミュゼには疑問ばかりじゃ。あんな良き男はなかなかおらんじゃろうに。」
「だよな!俺はたった一日でさあ、ジュールズ兄さんに惚れたね。一緒にいてさ、俺の方がストレス無いの。飯食いに行っても俺の好みを優先してくれるしさ、道を歩けば路地側に立ったりとか守り入れてくれてね。どうしよう、俺。兄さんなしでどうして今まで生きて来れたんだろう!」
「悪かったな!そんなこんなのろくでなしの俺でもさ、ミュゼは俺が良いって言ってくれるんだよ!俺と一緒だと世界が煌いて見えるって言ってくれるんだ!俺は絶対にミュゼを――。」
そこで俺は肩を後から突かれた。
振り向けばニッケの渋い糞親父が電話機を抱えて立っていて、俺にその電話の受話器を笑顔のまま差し出した。
「え?」
「学校の先生から。いい先生だねえ。ニッケは最高だって、可愛いって、ふふ。で、ニッケの親友の君に緊急電話、だって。」
俺達にはニッケを褒める先生などいないよと、俺は作り笑いを顔に浮かべながら受話器を受け取った。




