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三人寄ったら文殊の知恵?

 トゥルカン王国の迎賓館の贅沢なトイレで、俺は盛大に吐いていた。


「しっかり吐けよ。我がトゥルカン王国の土産物で食中毒患者が出たなんてことになったら、国民が大迷惑だからな。」


 ニッケが俺の背骨が折れる程に、再び俺の背中を蹴りこんだ。

 しかし、肋骨が折れていた俺には地獄の責めである。


「っでっっ!俺は肋骨を折ったばかりの男なんだ!それで、あの土産物はなんだ!生きていたぞ。ふよふよ動いていたぞ!あんなの普通に食うのか?」


「食わないから吐きださせているんだろうが!土産物だろ。恋が叶うおまじない、トンプソンコトリガイ様の標本だ!ハルトが喰ったのは父が腐らせてしまったその結果だ!ふよふよ動いて見えたのは水カビによる錯覚だろう。」


「おえええええ。」


 俺は必死に吐くことにした。

 死んだ恋のおまじないを喰って死ぬなんて、死ぬに死ねないじゃないか!


「ニッケ、お前がいるのに、なんでお前の親父はハルトと俺にいないって嘘ついた?ハルトにこんな酷い仕打ちまでしてさ。」


「それは、わしが落ち込んで家に帰ったからだろうな。そして、帰国が面倒だとわしがわしの振りしたぬいぐるみをジェットに乗せたから、父はわしが傷心のまま旅立ったと信じていたのだろう。いやあ、親ばかで済まんな、なあ。」


「ぬいぐるみ姿でチャータージェットに乗る姫君じゃあ、親父が心配するのも無理ないじゃないか!全部お前のせいだ!」


「おおう!」


「ダレン。ニッケの首を絞めるのは止めてくれ。俺はニッケが必要なんだ。」


 ダレンに首を絞められていたニッケは簡単にダレンを振り払うと、俺の前に再び立ち塞がり、無理だ、と言い切った。


「どうして!お前はミュゼの親友だろ?」


 ニッケはしょぼんとして頭を垂れた。

 その姿は今ままでの傍若無人の様から考えられない程のしょんぼりで、俺は俺を騙したニッケの糞親父が、俺達がニッケを傷つけたと信じ切っていたほどに、彼女が落ち込んでいたのが本当の事だったと気が付いた。

 俺はニッケに何があったのかと心配になり、彼女の頭を撫でていた。


 あれ、ニッケはボンと音がするぐらいに顔が真っ赤になった。

 どうした?


「ハ、ハルト!お前は恋人以外にも頭なでなでするのか!いや、ちょっときゅんとしたということは、お前はわしを誑すつもりか!」


 俺はニッケがミュゼの親友だったと急に思い出した。

 彼女はきっとミュゼに、女の子のときめく男の子の仕草云々を、きっと俺以上に聞かされてきたのだろう。

 俺はやって初めて教えてもらったという、壁ドンとか、お姫様抱っことか、なろ抱きとか、耳つぶ……とか、とか、ああああ。


「ミュゼに会いたいよおおおおおおお。」


 両手で顔を覆うと俺の息の臭気で吐き気がぶり戻るが、行方不明のミュゼを思うと俺は情けなく泣くしか出来ないのである。


「ほら、ニッケ助けてやれよ。」


「助けたいがな。ミュゼはわしと交信できんのじゃ。それは病院で思い知ったぞよ。あれはとっても悲しかった。」


 俺は顔を上げてニッケを見返すと、ニッケは、誰にも気づかれなかったと言って、ぽつんと涙を一粒零した。


「こら、大丈夫か。ほら、泣かない。なんか食うか?ジュースでも持ってきてもらうか?ほら、鼻をチーンして。」


 甲斐甲斐しくニッケに世話を焼き始めたダレンを見つめながら、俺はミュゼが落ち込んだ時にはダレンを絶対に傍に置かないようにしようと考えた。

 ニッケには小学生にするように、だが、ミュゼには、俺が慰めてやるよ、と大人的な色々な行為をしてくれかねないではないか。

 俺と違って童貞ではないみたいだし。


「で、よし。ニッケは落ち付いたな。言ってみろ。お前がされた事を聞いて、それで俺がハルトを叱るし、戻って来たミュゼには一言必ず言ってやるから。」


 ニッケはぐすっと鼻をすすった。


「まずは尊かったんじゃ。」


「何?尊いって?」


「ダレンは黙って。ニッケ続けて。」


「あのな。事故の翌日にわしは見舞いに行ったんじゃよ。お前らは仲良く同じベッドで寝ておった。」


「うそ!あの満身創痍でやったのか!お前は!」


「ダレン黙って。ニッケ、その続き!」


「いや、じゃからな、仲良し姿が尊かったからな、わしはお前らを起こすまいと思って、だが、ミュゼがお前とのことを楽しそうに話すからな、お前らを少し観察していたいとな。」


「いたいと?どうしたんだ?ニッケ?」


「ミュゼの部屋にあった巨大ぬいぐるみ、フクロウのコッコに化けてみた。」


「こら、ハルト!ニッケの首を絞めるな!」


「いや、だって、俺達の病室でのイチャイチャ、こいつがずっと見ていたって事じゃないか!コッコは事故の翌日の朝から夕方までいたぞ!」


 俺が首を絞めていたニッケは、おう、と大声をあげた。

 それからにやっと俺に笑顔を見せた。


「気が付いていたのか!」


「いや、普通気が付くよ。あんなデカいぬいぐるみ。てか、ミュゼはふつうにコッコがいると喜んでいたが、ミュゼの部屋にはあんなのがあるの?で、ミュゼの部屋は他はどんななのさ?」


 ニッケが俺の質問に答える前に、ニッケはダレンによって俺の手から奪われて、ダレンに抱き上げられた。

 なんだか父親が幼稚園児の女の子を抱く様な抱き方だが、ニッケは嬉しそうにしてダレンにしがみ付いているので黙っていた。

 まだ二人は付き合ってもいないので、お姫様抱っこである必要は無いだろう。

 お姫様の抱っこであるのは間違いないのだから。


「で、ハルト、それは今後、自分の目で確かめろ。俺達はまずミュゼの居場所を探って、彼女の無事を確認する方が先じゃないか?奪還はその後だ。」


「さすが、ダレンじゃ。」


「ああ。流石だな。じゃあ、ニッケ様、頼みます。」


 ニッケはいつもの偉そうな笑みを浮かべた。

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