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不要な子供と大事な子供

 ハルトだけは守らなければいけない!

 私はアストルフォを突き飛ばすと、鍵が今は開いている筈のドアに向かって走っていた。


 バシっ!


 私の目の前でドアが音を立てて閉まり直し、私にわかるようにしてドアの鍵がガチっと閉まる音を響かせた。


「同じ風属性でも、ハルト君は違う方向だよね。俺の力の使い方はダレン君の方が似ているのかな。あの子は氷で鍵を作ったりと発想が面白い。」


 私はゆっくりと監禁者に振り向いた。

 アストルフォは右肘をついて絨毯にごろりと横になっており、私に対しておいでと左手をひらめかせた。


「……私に何を望んでいるの?」


「さあ、今は君の出現した能力を調べたいだけかな?君は生き残った。だったら、何かの能力が出現しているかな?って興味が出るでしょう。」


 アストルフォは再び私に手をひらめかせたが、私の身体は空気の分厚い膜に覆われた様にして固定された。


「さあ、言う事を聞こうか?君の周りの空気から酸素を全部抜いてもいい。逆に、酸素だらけにしてもいいかな。」


 私は恐ろしい男へと一歩踏み出した。

 私を覆う重たい空気が少しだけ軽くなった。

 はあと息を吸い、もう一歩動いた。

 そしてもう一歩、という所で、私の身体は大きくぐらついて、身を起こして両腕を差し出したアストルフォの腕の中に落ちていた。


「お利口さんだ。呼んだら来るようになったらもっといいかな?いや、この抵抗があるからこそ君は可愛いのかな?ねえ、どう思う?」


「こ、こんな教育をエルヴァイラにもしたの?だからあの子は、あんな、なの?」


「俺への答えを間違えないように質問返しか?やっぱり賢い子だ。エルヴァイラはね、エルヴァイラだよ。彼女は何にもなかった。ふた親がいても貧困手前家庭じゃ共働きで馬車馬のように働くしかない。子供の世話だって忘れてしまうぐらいにね。だから、彼女は贈り物を親にも誰にも貰った事が無かった。そんな彼女が最初に貰った贈り物が、自分を貶めるために作成されたドレスだよ。可哀想に。私はどうしたら愛されるの?じゃあ、可哀想な皆を助けてあげようか?君を助けたハルト君みたいにね。かくして、純粋な正義の味方が生まれてしまった。」


「ひどいわ。盗んだものをエルヴァイラに渡しているのはそのためなのね。彼女は盗品だって心のどこかでわかっている。わかっていてもそれを認めたら、あの子の世界が粉々になっちゃうからあの子は絶対に認めない。ハルトに愛されているって思い込んでいるその世界を手放さないのも、ああ!なんてあなたは酷い事をしているの。」


 私は涙をこぼしていたのか、アストルフォは私の左目のすぐ下をそっと舐め、そのまま私の左の耳に唇を寄せて囁いた。


「君は勘違いしているよ。君が可哀想だと泣くエルヴァイラの方がこの世界では重要なんだ。君は廃棄処分が決まった子供。あっちは絶対に壊してはいけない大事なお姫様だ。」


 私はアストルフォを突き飛ばして、そんなことはできずに逆に抱きしめられてしまったが、抱きしめられる前に密着だけはするものかと胸の前に畳んだ両腕で、アストルフォの胸を強く押した。


「壊してはいけないって、それはあなた方が作った人格の事でしょう!酷すぎるわ!お姫様なんだったら、もう少し大事にしてあげなさいよ!」


「ハハハ。大事にしているさあ。君になりたいって言ったから、首都の病院に君としてベッドに横たわっている。夏休みに何の予定もないから、彼女には良いヴァカンスかもしれないけどね。」


 アストルフォが笑いながら差し出した情報は、彼の腕の中でもがいていた私の動きを凍らせるぐらいにインパクトがあった。

 ハルトはきっと私がいるという病院に行くだろう。

 そこで彼はエルヴァイラを私だと思って、私にするようにして看病をするの?


「眠り姫は王子のキスで魔法が解ける。彼女はハルトのキスを受け、エルヴァイラとして再び羽化するのさ。」


「ハルトは驚くでしょうね。それで、私じゃないって真実を知って、ハルトはどうなるの?ハルトの心はどうなるの!」


「彼には幸せばかりだよ。人間は信じたいものを信じるんだ。エルヴァイラが復活した時、彼は君の名前も顔も忘れる。そんな魔法だ。信じたくないでしょう。自分が別の女性を甲斐甲斐しく世話していた間、助けなければいけない恋人を失っていたって認めるのは。だったら、最初から愛していた女性を看病していたって思い込んでいた方が幸せになれる。そう思わないかい?」


「つまり。ハルトの心を殺すのね。」


「仕方ない。世界は無能力者ばかりだ。世界を守るには能力者なんていらないって考えだ。でも、他にはない守りは欲しい。じゃあ、駄犬からは牙を抜こう。絶対に命令を違わない犬だけを生かそうよ。」


「ひどい。ひどすぎる。」


 私は両手で顔を覆っていた。

 酷すぎて涙も出ない。

 それでも辛すぎて顔も上げられないのだ。


「ふう。君は本当に単細胞だね。ハルト君ハルト君、だ。本当に可哀想なのは君なのに。君こそエルヴァイラの世界を壊すものとして処分命令でしょう。君がいるとあの子が暴走するんだ。余計な力を使って目立ってしまう。救急車両を横転させて、君とハルト君、そして救急隊員を含めての、六人も重軽傷者を出しちゃうくらいにね。」


 私は顔から手を下げていた。

 私とハルトがこの世界で生き延びられるヒントをこの男は言ったのか?

 エルヴァイラの能力が漏れたらお終い?

 エルヴァイラの能力こそがトップシークレット?


「呪文無しに通りすがりに人の心臓を潰せる。頭を破裂させることが出来る。素晴らしい能力だと思わないかい?」


「……そうね。そんな事が出来るようになるには、人の心も人としての考え方なんかも不要になるわね。愛されるために命令遵守?そのための人格矯正中なのね。」


 アストルフォは、学校の先生が生徒によくできましたと言った時の様にして、私ににこっと微笑んで見せた。

 そして、彼が持ってきた箱からA4サイズぐらいのコードが付いている板、前世だったら板タブと呼んでしまいそうな形状の物を取り出した。

 この世界でそれは板状のペンタブレットではない。

 似た様にして板から出ているコードをパソコンに突き刺すが、その板が感知するのは魔法力という人間が出すオーラの煌きである。


「さあ、ミュゼ。計ろうか。君が生きて行けるかどうかの大事な判定だ。今の君に目に見えた能力は見えないが、一度は俺に殺された君だ。なかなかの魔法力が判定できるはずだと思うよ。」

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