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ニッケの実家

 行方不明のミュゼの居場所を見つけて交信できる相手と言えば、ミュゼの親友のニッケしかいない。

 しかし、ニッケは不在だった。

 完全に不在だった。


「ダレン。お前はどうしてニッケをキチンとその手に置いておかなかった!」


 俺は親友の襟元を掴んでいた。

 親友の家にニッケは挨拶に来たはずなのに、ダレンはジュールズと連れ立って遊び歩いていたために、ダレンと遊べないと傷心となったニッケはいつもよりも早く外国に旅立ってしまったようなのだ。


「遊び歩くって人聞き悪い!大学とか首都案内とか、傷心兄さんを気遣っての行脚じゃないか!お前こそ人の心持っていないのか!」


「そんな優しいならニッケにも気遣ってよ!ニッケさえいれば俺のミュゼをおおおおおお!」


「いやいや君、落ち着いて。娘は夏は国に帰るのが決まりですから。あれでも一応お姫様ですからね、お恥ずかしい事ですが。」


 俺は親友を解放すると、俺達を門前払いどころかトゥルカン王国の迎賓館に招いてくれて持て成してくれる男に頭を下げた。


「失礼を申し訳ありません。」


「いえいえ。娘にお友達が、それもこんなに素敵な子が、あの子に会えないと嘆いてくれたなんて、父親冥利に尽きますよ。」


 俺の親父とフォードを足しっぱなしにしたような渋くて格好の良い男は、南国の海に浮かぶ島国、トゥルカン王国の女王様に襲われて一夜夫となり、美しいお姫様の父親になったという可哀想な人だ。

 なぜ可哀想なのかというと、結婚していないので彼は未だにトゥルカン王国の国籍が無いばかりか、トゥルカン王国の女王様の結婚話を潰した咎でトゥルカン王国に足を踏み入れれば銃殺刑が待っているという身の上だからである。


 ニッケの両親話を思い出せば、襲われたのは彼の方なのに、だ。

 俺達と同じアルカディア合衆国人の彼は軍部の元エリートで、当時は国賓の警護をする任についていただけであり、女王に見初められて既成事実を作ったばっかりに今や職も失ったヒモ状態なのだという。


「ハハハ、ヒモでしかない私は、この迎賓館の管理を任されています。館内防犯設備は私が構築しての常に最新鋭でね、欲しい銃器は自分で選定できるのが、ここに住む唯一の心の癒しと言いますか、なんといいますか。」


 めちゃくちゃ女王様に甘やかされているじゃねえか!

 一方、我がアルカディア合衆国で生まれたニッケ様は、アルカディア合衆国の法律にのっとってアルカディア国籍を手に入れている。

 そのために魔法特待生なんかに選ばれてニッケは可哀想だが、そんな身分のニッケを選んでしまった軍部こそきっと今は頭を抱えている事だろう。


「本当に、困ったものです。特待生に定められたルールは細かすぎて、自由なあの子にはきっと辛いものでしょう。現在女王の唯一の娘でありますし、時々は国に帰って政の手伝いをしないといけませんから、あの子はラッキーと言って寮生活始めちゃいましたけどね。」


「やっぱり、ニッケは自由人ですね。」


「ええ。でもあの子は責任感ありますから。夏の祭りごとは外せないと国に戻ったんです。」


「で、祭りごとって、政ですよね?」


「いや。政ですが夏のお祭りですね。食べて飲んで大騒ぎ。それは海の神様に捧げるものですので、女王が海の神様を呼び出すんですよ。ああ、ナーナとあんなことになる前はトゥルカン王国にはよく行きましたから、懐かしいなぁ。」


「祭りですか?で、飲んだり食べたり、だけ、ですか?」


 人が良い男は、目尻を下げて、そうです、と言った。


「ちょっと、ハルト!国際問題になるからよその国の迎賓館で暴れるのやめて!」


「いや、電話しないとだろ!トゥルカンの迎賓館だったら、トゥルカンへの直通電話があるはずだ。祭りだったら帰って来いってんだ!」


 電話機を探そうとソファを立ち上がった俺はダレンに拘束され、そんなダレンを振り払おうと頑張る俺に、すっとガラス瓶が差し出された。

 小さなガラス瓶の中には、どぎつい色をした何かの生命体が、いやーな感じでふよふよと浮いている。


「これをどうぞ。安心してください。かなり身体がきついかもしれませんが、あなたが本気で愛する人に魂を飛ばすことはできます。」


 俺もダレンもピタッと動きを止め、ニッケの父親の言いたい事を理解しながらもその一歩が踏み出せずにいた。

 俺には救わねばいけないミュゼがいるのに!


「あの、い、今までに、というか、一番最近それを使われた方は?ええとどんな不利益を受けたかご存じですか?」


 ダレンの質問に、ニッケの親父は朗らかに、言い伝えですから、と答えた。


「あんたは!ハルトにそんなふわっとした危険物使わすつもりだったのか!」


「いいよ。さんきゅう。ダレン。」


 俺はニッケの親父さんからガラス瓶を奪うと、一気にそれを飲み込んだ。


「えって、違います!飲むんじゃないです!」


「早く言って。ぐふ。」


 俺はそのまま床に崩れ落ちていた。

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