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目的は……化け物退治

 エルヴァイラによる心無い独善的な見方の言葉を受けて、ミュゼはきっと傷ついていると俺は慌てたが、当のミュゼはおかしな声をあげただけだった。


「あ。」


 どうした?


「ああ、そうか!それでか~。いや~納得。そっかそっか。それだったら私に嫌がらせなんか出来ないものね。ああ~そうかあ~。」


 俺は右肩をミュゼの左肩にぶつけていた。

 少し強めに。


「痛い。何をするの。」


「いや。君こそ普通のリアクションをしてよ。で、なにが、そおかああ~なの?」


「ああ。ほら、あなたが私にちょくちょく会いに来てもね、誰も私に嫌がらせとかして来なかったのよ。そっか、私がその他大勢だから誰も気にしないなんて思っていたけど、そっか、私の自殺防止にあなたが私のクラスに来ていた、とみんなは見ていたのね。ああ、じゃあ、嫌味も嫌がらせも出来ないかあ~。自殺されたら寝覚めが悪いものねぇ。」


「……それだけ?」


 ミュゼはとっても嬉しそうな顔を俺に向けた。


「うん。なぞは全て解けたって感じ!」


 俺はもう一回右肩をミュゼにぶつけていた。

 俺の傷ついた心の痛みを少しは思い知れ、という感じだ。

 で、俺に余計な事しかしないエルヴァイラを俺は見返した。

 派手派手しいドレスを着た美少女は、かなり怒ったような顔付をしていた。

 さらに見ていると、顔付に見合うぐらいの大声をあげてくれたのだ。

 客は俺達しかいない喫茶店だったが。


「いい加減にしたらどう?ロランに申し訳ないとか無いわけ!彼はあなたの事を心配して、自分の時間をこんなにも犠牲にしていたのよ!とにかく、あたしは岬の怪物を倒してきます!それで、ロランをあなたから解放してやるわ!」


 え?


 エルヴァイラは蹴るようにしてソファから立ち上がると、ずかずかと足音を立てて喫茶店を出て行った。


「一人で危なくない?私達も一緒に行ってあげた方が良いのかしら?」


 俺はソーダ水を引き寄せて、ストローに口をつけた。

 そして、心配したような言葉を棒読みで言い切っただけの相棒を横目で見た。

 ミュゼはゆったりと座り、美味しそうにチェリーパイを食べている。

 俺が見つめている事に気が付いたミュゼは顔を上げたが、彼女の下唇に真っ赤なチェリーのシロップがぽつんとついているじゃないか。


「あなたは追いかけないの?良いのよ?私は大丈夫。」


 心配そうな瞳をした女の子が言った台詞にしては、俺の心をかなり抉った。

 ミュゼは俺とエルヴァイラの間を勘違いして、何かが始まる前に俺の前にシャッターを閉じてしまったのだろうか。


「貝のパスタがもうすぐ来るから。」


 冗談めかして軽い感じで言ってみたが、ミュゼの顔はにこりとも笑わなかった。


「あなたって優しいのね。私みたいなその他大勢なんかほっといて、あなたが行きたいとこに行ってもいいのよ?」


 俺は君とここにいたいよ?

 でも俺はそんな台詞を情けなく口に出せなかった。


「君が海に落ちた時に俺がその化け物を退治していたよ。だからエルヴァイラに何か起きるはずは無いでしょう。」


 ミュゼは、そう、とだけ答えた。

 化け物はもういない、教えなかった事に怒ったのかな?

 俺から顔を背けてのその言葉だったから、俺は彼女がどんな気持ちなのか全くわからなかった。

 今日は化け物が消えたかわりにキレイな海が見渡せる岬に二人で行って、それから、学校では話せない色々を話してもう少し仲良くなれたら、なんて思っていたのだけれど。


 ぷぷぷ。

 

 ?


「……。いやだ。エルヴァイラはこの炎天下、いない化け物を必死で探すのね。あら、困ったわ、やっぱり私は自殺志願者だったって事になるのかしら。どう思う?ハルト?」


 俺はやっぱり肩をミュゼにぶつけていた。


「君はとっても性格が悪い。」


「うーん。地味に生まれちゃったから、僻み根性が強いのかしらね。エルヴァイラみたいなドレスは一生着こなせないし、ね。」


「……俺はそういうドレスの子の方が好きだけどね。」


「そ、そういうって。」


「いや、だから、ミュゼが着ているような、シンプルな奴。それ、似合うし!」


 俺は自分が何を言っているのだと、恥ずかしいとミュゼから目を逸らそうとして、彼女から逸らせなくなっていた。

 頬を真っ赤に染めた彼女が、チェリーパイ以上に美味しそうに見えたのだ。

 いや、とりあえず、その口元のシロップは舐めたい。

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