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眠り姫の事実

 首都にある総合病院にミュゼは搬送されていた。

 救急車の横転事故により、ミュゼの怪我は右手と右足の骨折よりも増えてしまった事により、ドクターヘリによって州都の救急病院に運ばれた。

 そこで治療を受けたが敗血症を起こしての容体悪化と意識不明とのことで、さらに軍のヘリで軍の施設でもある首都の総合病院に搬送という流れである。


 俺とミュゼがイチャイチャしていた間、ミュゼの親戚の見舞いも、あのニッケの見舞いさえも無かったのは、俺達の知らない間にミュゼ殺害の大がかりな仕込みが組まれていたからだったらしい。

 田舎町の十六歳の乙女をこの世から消すためだけに、かなり大掛かりに金と人を動かしたものだ。


 だが、どうしてミュゼの死を搬送中の死にしなかったのだろうか?

 どうして意識不明の状態で寝かせたままなのだろうか?

 入院費も治療費も軍が持っているらしいが、人一人の医療費はかなりの出費になるのでは無いのか?


「大丈夫か?ハルト?」


 俺の隣には親父が立っていて、俺を心配そうに窺っている。

 俺は父親の愛情に対し、微笑んで見せた。


「親父が泣くなよ。」


「いや、可哀想で可哀想で。俺はノエミに色々やって、お前まで産んで貰ってのノエミ元気なのに。お前は何にもできないまま。うっ。」


「ミュゼはまだ死んでいないし、目が覚めたら色々するから大丈夫なんだよ!そんで、ミュゼも母さんみたいに好き勝手に生きてくれるんだよ!」


「そうだな。生きていれば出来るな。」


「そうだよ。できるんだよ。」


「意識ないうちにはするなよ。性犯罪者か?お前ら親子は。」


 俺達親子に声を掛けたのはジュールズ・センダンだった。

 恋人でしかない俺が軍管轄の病院に入院中のミュゼに気軽に面会できるわけもなく、恋敵だったジュールズに付き添ってもらうしかないのが情けない所だ。


「マディラ叔母とモーティス叔父はインフルで別の病院で入院中だ。モーティス叔父が幻覚症状あるみたいでな、脳症の心配ありで精密検査だ。はあ、ついていないよ。全く。お前がミュゼに付きまとってから、ミュゼには不幸ばかりだ。」


「君!」


「いいよ、親父。ジュールズの言う事は正しいんだ。それで、教えてくれ。モーティスさん、ええと、ミュゼの親父さんがどんな幻覚を訴えているのか。」


「お前が聞いて何とかなるのか?」


「いや。病気じゃなくて魔法もあるからさ。ミュゼのいじめをした奴らは魔法も使っていただろ。」


 ジュールズは足を止めると俺を殴り飛ばしたい顔で睨み、だがすぐに再び歩き始めた。


「ミュゼはスーハーバーの病院で昨日まで笑っていたはずだって言い出した。お前とおんなじことを言い張ってんだよ。そして、彼もお前と同じに、幻覚じゃない、自分は病気なんかじゃないって言い張っている。」


「で、センダンの兄さんは医者の卵として?」


「俺は医者の卵じゃなくて、センダン一族家長の息子として叔父と話をつけた。医者のいう事を聞けってね。ミュゼの事は退院してからにしようってさ。明日には退院するから、話したかったら俺が席を設けてやる。」


「ありがとう。」


「いや。俺も納得していないんだ。二台目の救急車に乗せ換えた時、ミュゼは元気だったはずなんだよ。俺の記憶ではね。まあ、治療中に出血多量か何かで状態が悪化することはよくあるけどね。あいつの膝は開放骨折だっただろう?応急手当もしないで連れまわした阿呆もいたしな!」


 俺は深く深く首を垂れるしかなく、隣の親父が俺の肩に腕をまわしてくれた。

 そして、俺に怒りながらも親切なジュールズは、俺の為に俺の恋人の眠る部屋の扉を開けてくれた。


 狭いながらも陽光の入る清潔感のある個室で、俺の恋人は真っ白の布団を掛けられ、呼吸器や点滴、そして尿カテーテルという、色々な管に繋がれた状態でベッドに静かに横たわっていた。


 俺はほんの少しでも彼女に触れたいとベッドに向かった。

 ヒーラーが治したからか彼女の見える所は傷一つなく、俺は何の気なしにミュゼの前髪を持ち上げるようにして指の背で彼女の額をなぞっていた。

 つるっとした彼女の額は、全てが可愛い彼女の中でも俺が大好きな場所なのだ。


「……ちがう。」


「ハルト?」


「ジュールズ、違うよ。ミュゼはこんなデコじゃないよ。」


「お前は何を馬鹿な事を急に……あ。マジ違うよ。うそだろ。俺が気がつかなかったよ。」


「おい、君達。オジサンに説明してくれないかね。この美少女がハルトの恋人なんだろう?」


 俺の父親に俺とジュールズは同時に振り返り、違う、と同時に言っていた。


「違うのか?え、君達?」


「違うんだよ。親父。ミュゼの額はもう少し丸くてつるっとしている。」


 俺は全員にわかるようにして、ミュゼらしき女性の顔の前髪を大きく持ち上げた。

 ミュゼの額と同じに広いが、額は平べったいだけなのである。


「ほら、丸くないだろ。」


「いや、ええ?そうか?」


「そうですよ。そうだった。あいつは転ぶと最初に額をぶつけるんだよな。額が飛び出てはいないのにな。あーちくしょう!」


 俺とジュールズはうんうんと目線を交わし合い、ジュールズは直ぐにミュゼの父親の退院をさせると請け負った。

 そして、俺の親父こそ、俺に頼まれてもいないうちから、父の護衛官で警備会社社長のフォードに社員を集めろと連絡を入れていた。

 父はどこに行くにも護衛官を連れており、護衛官と話し合えるインカムマイクを必ず身に着けているのである。


「ハルト、うちの飛行機も飛ばしてやるぞ。お姫様の奪還だ。」


 俺は親父にありがとうと微笑むと、最強の助っ人に俺こそ繋ぎを取らなければと病室を飛び出していた。

 もちろん、ニッケ・ドロテア様だ。

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