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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第二部 第十二章 モブにイベントフラグが立てば、全てがエラーになる
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噛み合わない闖入者

 俺に腕枕されていた最愛の女は一瞬で姿を消し、俺が彼女を助ける前に、そこは止めてくれと叫びたくなる場所を天井にぶつけていた。


 ごつん。


 どうして彼女は額ばかりを、まず最初にぶつけてしまうのだろう。

 可愛い鼻が潰れなくて良かったねと、俺は考えるべきなのだろうか?

 しかし、俺がミュゼのつるっとした額が好きなのは譲れない所であり、その俺が好きな所ばかりが痛めつけられるのは許せない所だ。


 大体、十針も塗ったばかりの額なんだぞ!


 本当は三針程度らしいが、この時ばかりは軍部よりの命令が功を奏した。

 医者は美容整形ぐらいの勢いで、ミュゼに傷が残らないようにとチクチク繊細に縫ってくれたのである。


――三針か四針だったら魚の骨みたいな痕が残ったのかしら!


 そんな事を言う女の子だからこそ、絶対に顔に傷を残してはいけない。

 君は俺がどんな姿でも愛してくれるのかもしれないが、俺は君が見た目も中身もミュゼじゃ無いと絶対に嫌な人です。

 そんな俺だからか、ミュゼに大丈夫かと声を掛けずに違うセリフを叫んでいた。


「ああ!もう!傷が開いたらどうするんだ!」


 俺はベッドサイドテーブルの飲みかけの紙パックを掴むやエルヴァイラに投げつけ、すぐにベッドを蹴って飛び上がると、天井に貼り付けられたミュゼをべりっと剥がして床に舞い降りた。

 ミュゼの背中を右腕で俺に押し付けるようにして支え、彼女のお尻を俺の左腕で支える形の抱き方だが、彼女の折れた足を床に降ろせるわけが無いだろう。


 そう、他意はない。

 必死で抱きよせただけであり、左手の恩恵は……何も言うまい。

 ミュゼのお尻に対して俺が思う何かを、今は言う場面では無いのだ。


 さて、俺の飲みかけの甘ったるいだけの飲料を投げつけられた邪魔者は、俺がミュゼを抱える姿を見て、怒りの籠った両目をさらにつり上げた。


「いい加減にしろよ。お前がミュゼを攻撃したって、いや、ミュゼを殺したってな、俺はお前のものには絶対にならないよ。」


「それこそあなたが惑わされている証拠ですわ!あなたはライトさんと出会う前は、公正で冷静沈着なものの見方が出来る方でした。あなただって何度も見ているでしょう。生徒達の暴徒化する様を。あれは呪いによるものなのよ!」


 俺は俺を真っ直ぐに見て言い返すエルヴァイラに、どうしてそこまでゆるぎなく、自分が信じている事だけ真実だと思い込めるのだろうかと訝った。

 彼女こそ操られて洗脳されてしまったのでは無いのか?


「呪いに関しては賛成だね。ただしさ、俺は今も昔も公正で冷静沈着だったことは無いよ。なりたいものになれず、学びたい事も学べなくなった我が身を嘆いて、斜に構えて粋がっていただけだ。」


 俺はそう言いながら腕の中の女をこれ以上ないぐらいに大事そうに自分に引き寄せて、傷は開かなかったらしい額に軽く口づけた。

 俺の腕の中で、ミュゼがひゅうっと息を吸い込んだ可愛い音を立て、俺はさっきまでの続き、キスとかキスとかキスとかさ、を早く再開したいと、邪魔者でしかない女を睨んだ。


「君がね、俺が君に惚れていると勘違いしたのは、俺が君をいじめから救ったからか?俺はそれが君じゃなくても救っていたよ。虐めは嫌いだからさ。それにさ、君が言う君が惚れた男性は、俺の振りをしていたあの軍人じゃないのか?」


 これで理解してくれたと思ったが、エルヴァイラは睨むことを止めたばかりか、幸福に溢れた表情をして頬を赤らめたじゃないか。


 俺は間違ったのか?

 何が起きた?

 エルヴァイラの頭の中で何が起きたんだ?


 俺はぞぞぞと背筋が寒くなるどころの話ではなく、俺の恐怖を癒して欲しいとミュゼをさらにぎゅっと抱きしめていた。

彼女のふわふわな灰色の髪の毛に、癒されたい俺は頬ずりもしちゃっていたかもしれない。

 ああ、きゅう、って変な声出した!

 可愛い。

 俺のうさぎさん!


「ロラン!」


「なに?」


 畜生、そういえばエルヴァイラと会話中だったと、今更に気が付いた俺は声が裏返ってしまっていた。

 俺は不機嫌そうにして、いや、もう本気で不機嫌だったので、同級生に向けるべきでない殺気がこもる眼つきでエルヴァイラを睨み返した。

 ところが、ほんの数秒前に赤くなっていた意味の分からない女は、本気で意味の分からないことを喋り始めた、のである。


「わかったわ。ロラン。あたしも協力する。ライトさんのいじめが収束するように頑張るわ。ああ、あなたがそういう人だって忘れていた。それに、きゃあ!そうね。あなたは怒っていたのよね。あたしがあなたの振りをしていた人に騙されてしまったから。」

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