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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第二部 第十二章 モブにイベントフラグが立てば、全てがエラーになる
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お姫様抱っこと恋人宣言

 ハルトは私の夢をかなえる王子様だ。

 ブタのようなひどい姿になった彼を悲しんだが、私は彼の言葉で変化してしまった彼そのものをまるっと受け入れていた。


「俺は一生この姿なのかもしれないよ。声だって変わってしまった。」


 悲壮感溢れる声で絞り出されたその言葉は、彼には私の心がとっても必要なのだと吐露しているも同じだと私に思わせたのだ。


 あの、恋い焦がれた本の中だけの王子様、ハルトムート・ロラン様が、私をこんなにも想ってくれているのよ!


 実際の彼は年相応の少年で短絡で短慮な所もある人だったが、それでも人の身になって考えて、考えすぎて落ち込んじゃうような優しさもある人なのだ。

 大好きな女の子、きゃあ私よね、を身を挺して守ろうとするような、そんな男性の外見が変わったからと手放すの?


 まさか!

 私こそモブでしかないし、年を取ればどんな風に変化するか分からないのよ!


「私をパーティ会場に連れて行って!」


 自分の気持ちが決まるやそう叫んでいた。

 世界に叫びたい。

 彼は私の恋人だと。

 私こそ彼を愛し続けるって!


 あら、私の方が重いかしら。

 でも、心配は無用だった。

 私を彼の世界にしてくれた彼は、私が彼を愛するぐらいに私を愛してくれているみたいだと、彼が流した涙で私は思い知らされたのである。


 どんなことがあっても、私は彼の傍にいよう。

 絶対に、ぜったい、私が彼を守って行こう。

 私はブタ人間となってしまった彼だろうが、ハルトである限り愛していると、彼の唇を待つようにして瞼を閉じた。


「このド阿呆ハルトが!そのまんまミュゼに触れたらミュゼが痺れ毒で死んでしまうぞ!なあ!」


 え?

 ええ?

 水を被るやハルトの顔がぐにゃりと歪み、そのままぞぞぞぞっという風にしてピンク色のスライムが彼から取り除かれたのである。

 殆ど一瞬にして。


 まばらだった頭髪はいつものようにふさふさに戻り、そう、私の目の前にはいつもの神々しいぐらいにハンサムな想い人が立っている。

 そして、その天使は当たり前のようにして私を抱き上げたのである。


 喪女だった私の永遠にかなわない夢だったはずの、お姫様抱っこ。

 それを夢の王子様がしてくれているのだ。

 恐らく、きっと、今の私は、ハルトが運ぶ場所どこでも連れ去られても構わないぐらいの気持ちだわ。


 でも彼は最高の恋人でもある。

 私の願いをそのままに、私をお姫様抱っこしてパーティ会場に突撃してくれたのである。


 私を待ち受けていた、私を嫌う女性達殆ど、その筆頭であるエルヴァイラ。

 そして、ハルトや私、それどころか魔法特待生達にこそ酷い事をしていたらしい魔法士軍人のショーン・アストルフォ。

 彼らは、いいえ、ショーン・アストルフォを抜いたそれ以外の全員が、私の満身創痍の姿と同じようなボロボロ姿のハルトの登場に度肝を抜かれていた。


「ミュゼの恋人は俺だ!今後、ミュゼに、こんなひどい事をする奴は全員をぶち殺してやるからな!ミュゼに色目を使う男もだ!ミュゼは俺だけの、俺の大事な恋人だ!分かったか!この野郎!」


 ショーン・アストルフォは嬉しそうに拍手をした。

 ハルトの格好のまま。


「うわあ、俺そっくりの色男じゃないか!エル、俺と彼を間違えていた?」


 いや、お前こそ負けを認めて扮装を解けよ?

 私はそう言ってやりたかったが、私こそハルトの腕の中という特等席から動きたくないと、何もしないことに決めていたので黙っていた。

 だが、ショーンが扮装を解かないのは、今後の私への安全を約束するためだったようである。


「俺は誰ともまだ付き合っていないね!俺の名でこの勇敢なるマリー・アントワネット様を今後虐める奴がいたら、ハハハ、俺への侮辱と見做すよ。」


「お前!」


 しかしハルトはショーンに対してそこで黙りこみ、悔しそうにして唇をグッと噛みしめた。

 そして私を抱き締めたまま、彼は会場から出ようと踵を返したのである。


「待て!ハルト!ミュゼの怪我は酷すぎるじゃないか!お前に関係するたびにミュゼはいつもこんなんじゃないか!」


 そうだった。

 この会場にはジュールズこそいたのだ。

 ジュールズは怒りのままハルトをハルトと呼んでハルトの肩を掴み、ダークグリーンのタキシードをしたハルトの姿のショーンなど完全に無視をしている。


 周囲は再び騒めきだし、そして、ショーンがまず動いた。

 私達の傍にカツカツと歩いてくると、大きな動作でタキシードの上を脱ぎ去って見せたのだ。


 人の視線が鳥が舞うようにして動いたダークグリーンに注目し、その深緑の軌跡の終点が私、つまり、私の身体、ハルトの腕にショーンの上着がかけられた所で、全員が全員、ハルトだったショーンの本当の姿を目にする事になったのである。


 つまり、結局は、皆に知られたって事だ。

 私の恋人はハルトで、私を恋人と宣言した男性こそ、ハルトムート・ロランだという事を。


「ありがとう。ロラン君、そして、勇敢なる姫。君達のお陰で連続殺人犯を検挙する事が出来た。まずはライト君の搬送だ。入院費その他は軍部が持つから心配しなくていい。」


 変装を解くとハルトよりもほんの少し背が高かった男に対し、ハルトは本気で忌々しそうに唇を歪めた。


「ほんっきで、次は無いからな。ミュゼにちょっかい出してみろ、俺は本気でお前ら軍部だろうがぶっつ。」


 自分の死亡宣告書にサインすることになる言ってはいけない事をハルトが言う前に、ハルトの親友がハルトの口を押さえてくれた。

 まあ、ジュールズなんてイソギンチャクに拘束されて、ニッケとダニエルに連れ去られて会場の外へと消えていったところじゃないか。


「はい!ロラン君!ほら、ミュゼちゃんを救急車、救急車に。」


「ダレ……わかった。そうだな。ミュゼの治療が先だ。」


 そこでハルトはもう一度大きく息を吸った。

 ハルトの胸が大きく上下した。


「いいか、全員聞けよ!こいつは自殺なんか一度もしたことない!俺が岬からこいつを落としただけだ!俺がこいつに一目ぼれしたからな!って、ミュゼ!」


 素敵な宣言の声を裏返えさせちゃったぐらいの彼の心配は凄く嬉しかったが、痛みで意識が遠のいていく私は、ハルトには悪いが思ってしまっていた。


 私は今ここで死んでもいいかもしれないって。


 今、私の人生は最高潮だわ。

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