独善的な女性が投げた言葉
俺はエルヴァイラ・ローゼンバークが苦手だ。
物凄く美少女なのに話しやすいと男子には人気なのだが、私はこう思うっていう独善的な所が強い。
困った人を見たら助けてあげたい、その心持は素晴らしいと思うが、わざわざ大声で叫ばずにさっさと動けばいいといつも思う。
ミュゼは混んだ学食でお盆を持った子が自分の後ろに来たなと察知するや、自分の椅子を前に引いて道を開けたり、両手が塞がっている子の為にドアを押さえていたりするのだ。
彼女の親切に気が付かずにお礼も言わない子ばかりなのだが、そんなことをミュゼは一向に気にしていないどころか、自分の身体が勝手に親切行為に動いている事だって気が付いていない気がする。
エルヴァイラが突然現れてミュゼに話があると話しかけてきたが、俺は思うに、俺とエルヴァイラが楽しそうに話していたら、それは決してない気がするが、ミュゼは絶対にその場に割り込んでは来ないだろう。
気が付けば俺はエルヴァイラを自分が座っていた席に座らせており、俺の右腕はミュゼの肩に回されていた。
これで、邪魔しないでね、という俺の意思がエルヴァイラに伝わったはずだし、ミュゼには俺を放ってエルヴァイラとお話したい気持を考え直して欲しいという俺の縋りつきが通じたはずだ。
「で、ローゼンバークさん。あなたが私に聞きたい事って何ですか?」
あ、完全に無視された!
普通は顔を赤らめるとか、その腕は何、とか、リアクションぐらいしてくれるはずだろう!
俺はミュゼにむかっ腹を立てながら、余裕そうな笑顔だけ顔に貼り付けて、やっぱりミュゼの肩に腕をまわしていただけだった。
「あ。」
「どうした、ミュゼ?」
ミュゼは俺に伺うような!視線を送った後、真っ赤になって俯いた。
意識した?
俺に意識したのか?
彼女は俺にしか聞こえない声で囁いた。
「ねえ、私の背中、汗で濡れていない?なんか今、べちょって。」
「――ごめん。俺の腕が汗ばんでいたかも。」
俺はすごすごとミュゼから腕を外し、今の会話がエルヴァイラに聞こえていた方が良いのか悪いのか、と思いながらエルヴァイラを見返した。
誰も俺になんか注目していなかった、のね?
エルヴァイラはミュゼの方に身を乗り出して、囁き声で俺達の今日の目的を口にしたのである。
「立ち入り禁止の岬に妖魔がいると思うの。そいつが罪のない人を捕まえては食べて、そして、海に遺体を投げ込んでいるんだわ。ねえ、あなたはあの岬から海に落ちたのでしょう?何があったのか教えて欲しいの。」
「そこであった事を教えたら、あなたは何をするつもり?」
「もちろん。化け物退治よ!あたしは罪のない人が悪く言われるのは我慢できないの!ライトさん。あなただって不本意でしょう。あなたが自殺を繰り返さないためにロランに無理矢理に恋人ごっこをさせている、なんて思い違いをされていたら。ねえ、嫌でしょう。」
俺は何を言い出すんだと怒鳴りそうになったが、俺のここ数日の行動をそんな風に思ってしまったらとミュゼを見返した。
俺は休み時間になればミュゼを探し、声を掛け、土曜が楽しみだね、なんて、彼女に囁いたりもしていたのである。
彼女は脳みそに情報が届いていないのか、いや、届いたから脳みそがショートしてしまったのか、ポカンとした顔でエルヴァイラを見つめ返していた。
傷ついた?
君をどうやって慰めようか?
「あ。」
あ?