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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第十一章 世界はモブのために
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魔女は処刑場に

 私は動転したまま逃げ出そうと身をよじり、結果として私の足を掴んでいるジュリアの身体の上に転がり落ちただけだった。

 しかし、偶然の産物でのてこの原理の恩恵か、ジュリアの腕は私の足から外れ、私は転がったが束縛からは解放されていた。

 すぐに立ち上がると、逃げ場がないと思いながらも戸口を飛び出していた。


 ドレスの裾を持ち上げた私は、言葉の通りに床を蹴って、体育倉庫の戸口を突破するべく飛んだ、のである。


 アクション映画のように格好良く敵を蹴り飛ばす事なんか出来なかったが、四十キロ以上は普通にある物体が思い切りぶち当たったのだ。

 体育倉庫の戸口にいた三人ぐらいの人間は、私の体重をもろに受けて転がってくれた。

 とにかく彼らから逃げなければ!


「まーじょは火あぶりだ!」


 再びの大声。


「火あぶりだ火あぶりだ火あぶりだ火あぶりだ火あぶりだ。」


 そして、再びはじまる大合唱。


 人垣をかき分けて進もうとする私に対し、女性の細腕やタキシードの袖口から伸びる手など、それらは蠢くイソギンチャクの様にして躍りかかってきた!

 私が必死に抗えば抗うほどに、逃げようと前に前にと進もうとするほどに、私は触手の様な彼らの腕に絡めとられていくだけだった。


 カツラは奪われ、肩には爪が食い込んで深いひっかき傷も出来た。

 ドレスの裾は次々に引きちぎられている。

 私は上半身は前に突き出したが、私の下半身は、いや、肩から下は幾本もの腕に掴まれて動かないじゃないか。


――もう駄目だ!どうしたらいいの!


 ぎゅうと両目を瞑ったそこで、私は以前にも聞いた声を聞いていた。


 ――かがみ。


 鏡?

 私は前に進むのを止めて、わざと逆へと飛び上がった。

 私を引っ張ることに力を込めていた腕は、私が急に引っ張る方向に飛んだ事で、大きくバランスを崩した。

 まるでドミノ倒しのパイみたいに、仰向けになった私の周りにだけポッコリと倒れた人達というへこみが出来たのである。


「鏡!今のうちに鏡!」


 拘束が剥がれた今を利用しないでどうする!

 私はドレスをまさぐった。

 ズタボロになってはいるが、ポケットはまだ存在していたと喜びながら、ドレスのポケットに右手を突っ込んだ。


 鏡だ!

 エルヴァイラの呪いのワンピース以来、常に鏡を持ち歩いている私最高!


「火あぶりだ火あぶりだあ!」


 私は第一声を上げたピンクのドレスに鏡を翳した。


「ぎゃああ!」


 紺色の煙がピンクドレスの身体からぼふっと噴出し、彼女はその場にばたりと倒れた。


「よし、反撃よ!返してやる!だわ!」


 しかし、私の腕は後ろからひねり上げられた。

 腕をねじ上げられた痛みで悲鳴もあげられない私に対し、その暴力執行者は私の耳元で歌うように囁いた。


「させないよお。お前はハルトムート・ロランの咎をその身に受けるんだよお。」


 酔っぱらったような喋り方は、彼が操られているからだろう。

 男の両目には、紺色の渦がぐるぐると回っているのだ。

 お母さんがおかしくなった時のようにして!


「ハルトの咎って一体何よ!」


 男はにやっと口元を歪めたが、それだけだった。


「答えられないの!言いがかりもいい加減になさいな!あなた方は何をやっているのか分かっているの!」


――あなたは自分が何をしているのか分かっていますか?


 もし、私の身体が勝手に動いて、誰かに対して酷い事をしていたらどうだろう?

 もしかして、ハルトのあの言葉には、こうして操られている人達を我に返す力があったのかしら?


――わたしはじぶんがなにをしているのかわかっているわ。


 私の頭の中でセリアの言葉が思い返された。

 ハルトの言葉で我に返り、窓から投身自殺しようとしたエルザの姿も。


「でも、でも、そんなのはハルトのせいじゃないわ!誰かの死をハルトのせいにしていいはずはないわ!」


「うるさい!あばずれ!」


 私は頬をしたたかに叩かれた。

 私を叩いた人は、ああ、なんと、痩せぎすの小柄な中年の女性だった。

 この場にいなかったはずではと見返せば、中年女性の姿はゆらりと揺らいで若い少女の姿に戻った。

 アッシュブラウンの髪に緑色の瞳という組み合わせは、小説の中の生前のセリアの描写を私に思い出させていた。

 そんな美少女の姿をした彼女だが、その姿を台無しにさせるようにして、あの悪趣味デザインな呪いのピンクのドレスの水色版を着ているのである。


 この女は何者、なの?

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