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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第十一章 世界はモブのために
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体育倉庫

 体育館前から飛び出した私は、一番最初に目についた小屋に向かっていた。

 学園ものでいけないことに必ず使われる場所といえば、それは体育倉庫だ。

 あまりにもベタすぎる場所かもしれないが、ベタすぎるからこそ灯台下暗しな感じで何かがあるのかもしれないじゃない?


 そんな風に考えた私を褒めるべきか。


 鍵が掛かっていないことに驚いたが、私は勢いよく扉を開けていた。

 そこは、小汚い灰色の綿がこんもりと床に撒き散らされているという、完全に荒れた空間だった。

 だがそこに、黒いジャケットを頭から被った男性?が転がっている、のだ。


「ハルト?ハルト、なの?」


 私は綿をかき分けて、そして、男性用の黒ジャケット、サイズ的にはハルトのものだが特待生は全員同じデザインで分からないものを必死で剥がした。

 まあ!ピンク色の髪をしたジュリアが出て来たじゃないか。


「どうしてあなたが?」


 うつ伏せで顔が分からないが、このピンク色の髪に体の骨ばり方はジュリアしか私には想像できず、取りあえずジュリアと呼んで死んだような彼女の体を何度か揺さぶってみた。

 揺さぶった事で彼女がびくりと体をくの字に丸め、そのために彼女の膝下のスカートが腿ぐらいにまで捲れてしまった。


 いや、お尻くらいまで捲れている。


 私は敵だろうと情けとして彼女のスカートを元通りにしようとして、彼女の履いているパンツが男ものでは無いのかと手が止まった。

 いえいえ、女性用ボクサーパンツ、かもしれないじゃないの。


 私の疑問はジュリア本人が解消してくれた。

 彼女は唸りながらごろんと仰向けになったのだ。


 男の子と海遊び、を叶えたばかり私には言える。

 その股間の膨らみは男の子のものでしょう、と。

 人に伺うようにしておどおどした喋り方をしていたのは、自分が男であることを隠すための変装の一部だったのか!


「あなた!何者なの!あなたもハルトに何かをした人なの!」


「う、ううう!」


 彼だったジュリアは大きく唸り、しかし、がくがくと震えるだけの彼女、いえ、彼が意識を取り戻すことは無かった。


「ジュリア!」


 私は立ち上がると、倉庫の戸口へと走って行った。

 敵だろうが病人を放っておくわけにはいくまい。


 いえ、彼が悪い人だなんていつ決めた?

 あの正義厨のエルヴァイラだったら、クラスメイトがゲイな人だと知ったそこで守りに入ろうとするのでは無くて?

 それでいつも彼女と一緒なだけだったら、彼はハルトの行方不明なんか関係なくて、私が考え無しに人を呼んだら、女性として生きようとしているだけの彼のこれからを台無しにしてしまわないか?


 私はしばしの葛藤をしたが、脂汗を浮かべて唸っている人の手当てなど私には出来ないだろうと心を鬼にして、大きく体育倉庫の扉を開けたのである。


「だれか――。」


 そこで私の叫びが終わったのは、体育倉庫の前に仮面をつけて着飾った華々しい生徒達が、ずらっと動かないマネキンの様にして立ち塞がっていたからである。


 仮面をつけているから尚更に、ぎらついた視線と凝り固まった笑顔の表情は人形にしか見えず、私の背中には冷や水どころの騒ぎじゃ無かった。

 すぐにでもここを逃げ出したいと思いながらも、それでも、今にもジュリアは死にそうなのだと、上ずりながらも声を上げた。


「び、病人よ!救急車を呼んであげて!」


 驚いた事に、誰も私の大声に動かなかった。

 私の真後ろに倒れているジュリアの姿を見たはずであるのに。

 いや、動いたのか?

 一人が右手を上げてその右手で私を指さした。


「あれが疫病の元だあ。魔女だ、がっこうにまじょがいるぞう。」


 絵本を読む子供の様な台詞。

 すると、体育倉庫を取り囲む生徒たちが手を叩き出した。


 ぱんぱんぱんぱんぱん。


「まじょだ、まじょだ、まじょだ、まじょだ、まじょだ。」


 ぱんぱんぱんぱんぱん。


 私は脅えたまま、体育倉庫の中に一歩後退った。


「きゃああ!」


 私の両足が誰かの両腕で掴まれた!

 なんと、顔に脂汗を流しているジュリアが、目だって白目をむいている彼女が、私の足に必死にしがみ付いているのだ。


「ひひひ、ひ。まじょだ、まじょだ。火あぶりだ。」


「え?」


「まーじょはひあぶりだ!」


 誰かがジュリアの言葉に呼応して大きく叫び、すると、私を捕まえようとする手が私に向かって一斉に突き出されてきた。

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