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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第十一章 世界はモブのために
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毒々でモンスター

 俺はなかなか死ななかった。

 なかなか死ななかったが、こんな姿をミュゼに見られたら死んでしまうと、一人寂しく誰もいない校舎の片隅にある施設の中で泣いていた。


「どうしよう。パーティは始まっている、か。」


 俺の声もおかしい。

 外見が変わってしまったのだから当たり前なのか。

 体育倉庫でノーマンが俺のトゲに触れるや昏倒したのだが、俺は彼に何が起きたのか探るどころか自分までも気を失っていた。

 そこからどのぐらい気を失っていたのか分からないが、気が付けば俺の体はそこかしこからピンク色のトゲを突き出していて、まるでハリセンボンという名の魚の様になっていたのだ。


 これは一体どうした事か、目を開けた俺はそのまま無意識に息を吐いていた。

 そこで気が付いた。

 呼吸が俺に戻って来ていたのだ。

 いや、思い返してみれば、一度だって呼吸は止まっていなかった。

 体がプラスチックか金属の様に、カチカチに強張っていただけだ。


「あいつの毒は一体何だったんだ?」


 毒によって耐性がある人間もいると聞く。

 もしかして自分はそれで助かったのかと思い始めたその時、俺は無意識に体に力を込めていた。

 ビクリと、俺の見当が正しいという風に、俺の身体が動いて見せた。

 動けると気が付いたならば、あとはこの状況から何とか逃げ出すだけである。


 ビクビクと昏倒したまま痙攣しているノーマンに手当を施すべきなのかもしれないが、俺はあの恐るべき男の手からとにかく逃げる事ばかり考えていた。

 つまり、奴らが用意した俺の死体安置場である体育倉庫ではなく、奴らの手が届かない場所に一先ず身を隠す、という選択だ。


 俺達の識別と追跡魔法が仕込まれたジャケットを俺は脱ぎ去り、それを倒れているノーマンの体の上に重ねた。

 このままノーマンが死んで俺が生き延びたら俺が殺人者になるかもしれない、そう考えて一瞬手が止まったが、俺が生き延びて友人やミュゼを守れる方が大事だと俺は自分の身体に言い聞かせた。


 俺にはもう処分が決定して実行されたばかりだったろう、と。


 そうして俺は人目を避けながら、今日は生徒の立ち入り禁止である区域、いや、死んだ警備員が浮かんで以来、本当はずっと立ち入り禁止だったプール場へと向かっていた。


 校舎の中に入れば電話を使えただろう。

 それなのに俺がプール場に向かった理由は、俺の変化してしまった体が、冷たくて暗い所で無ければ激痛を伴うようになってしまったためだからである。


「俺は一生こんなじめじめした暗い場所で生きなければいけないのか。」


 プールのポンプ室は塩素の臭いもする無機質な所だが、そこが真っ暗で湿気でじめっとしているのは間違いがない。


「うぐ。」


 情けなく嗚咽が出て、涙までもみじめに床に零してしまったが、既に未来も夢も破壊されたと認めるしかない俺なのだから許されるべきだ。


「ああ、畜生。」


 この身がトゲだらけという変化をしていた事には、最初は生きているのならばと受け入れた。

 それどころか、その代わりに確実に殺される状況から逃げたあとには復讐だってしようと、立ち上がる気概さえもその時の俺にはあったのだ。

 しかし、その数秒後、せっかく行動を起こしたそこで、俺は完全なる絶望に落とされることとなったのである。


 体育倉庫を出ようと扉を開けたそこで、俺の体は火傷の様な痛みを感じ、痛いと叫んで戸口の影に身を縮こませた。

 その時はまだ昼過ぎだったがために夏の陽光は眩しく照りつけており、俺は痛みに喘ぎながらも少しでも光線を遮ろうと右手を翳した。

 すると、太陽の光を浴びた手の甲から煙がたなびき、なんと、炎で焼かれているが如き、ではなく、本当に火を噴いたのだ。


 それは、俺の手の甲から突き出たトゲのせいだった。


 トゲは太陽光線を浴びるや弾け、中に詰まった毒の性分か何かが揮発性が高く燃焼性のあるものだったのか、太陽の熱だけで燃えあがっていくのである。


 そこで俺は考えた。


 考えて、太陽光を遮れるものを倉庫の中に捜した。

 無駄な布はない。

 よって、マットの布地を破って、それを体に巻きつけたのである。

 ミュゼには絶対に見せられない、何かの映画か小説のの悪魔の姿のようだった。

 そしてそのまま校舎の中に入って電話を探せば良かったのに、俺は体中が痛いからと冷たくて水のある方へと進んでしまった。


 それから数時間も、俺は何もできずにこんな所にいる。


 ポンプ室にも緊急の電話があった。

 だが、俺はどこにも電話などかけていない。


 ポンプ室に入るまでに通り抜けた施設の地下廊下の中で、鏡の一枚ぐらいあるはずであり、俺は自分の姿に打ちのめされたのだ。


 体は薄ピンク色に染まってむくんでいて、瞼は垂れ下がっていて、トゲがあるピンク色のブタ人間にしか見えないのである。


 こんな姿を見られたら、いや、見られてミュゼに化け物と言われてしまったらと考えたら、俺はミュゼに最後の電話さえも出来なかった。

 臆病者の俺は、自分をこんな身に落とした奴に復讐をしてやるどころか、自分で自分をこんな場所に閉じ込め続けているだけなのである。

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