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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第十章 モブと校内イベント
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夏の夜に花火を上げよう

 ダレンがセミハードの甘い甘いチョコレートだとしたら、ダレンの横に立つ美女は、リキュール漬けのサクランボが入った、最高級のチョコレートボンボンだろう。


 彼女の髪色は見た事のない茶色だった。

 こんなにも深みのある色合いで艶やかだと、そこいらの金髪なんかトウモロコシの髭ぐらいにしか思えなくなるものだ。

 そして、仮面の下で微笑んで見せた瞳の色も茶色だが、それははちみつ漬けのナッツの様な魅惑的なものだった。


「美人で驚いただろ?俺の最愛の女であり、俺がそう言わないと俺を酷い目に遭わす怖いお姉ちゃんだ。」


「なんじゃ。お主は女の尻に敷かれる事こそ幸せな男じゃったか!」


「待って!ダレン!ニッケの首を絞めないで!」


 私は慌ててダレンとニッケの間に入るしか無かった。

 そして、その間に、ダレンの姉は空になったジュールズの腕に自分の腕を絡めた。


「初めまして。わたくしはダニエル・フォークナーと申します。九月から首都のハルヴァート大に通いますの。」


 ダレンと同じ年で大学?と一瞬驚いたが、そういえばこの世界はアメリカ風なので、スキップ制度もあれば自宅学習で単位を修得することも出来たと思い出した。

 それでも凄い才女だと彼女を見返せば、我が従兄ジュールズも彼女に感嘆していたようだ。

 珍しく声が上ずっていた。


「あ、ああ。俺は。」


「医学部なんですってね。私は建築学科よ。大学の下見はなさった?まだでしたら夏休みには我が家にいらっしゃいな。私が案内して差し上げますわ。」


「いや、初対面の君の家になんて!」


「俺とは初対面じゃないでしょ、兄さん。一週間ぐらい俺ん家に滞在してやって。音楽院への復学を望むうちの両親と姉の戦争を止めてあげて頂戴よ。で、俺には滞在費としてシロナガス亭のお部屋貸して。」


 ジュールズはダレンをぎっと凄い目で睨んだが、ダニエルに対しては私に向けるような優しい眼つきだった。


「音楽院て、ジュリアーニャ音楽院か?最高峰の?そこを蹴ってまで君は建築学科に進みたいのか?」


「もちろんよ。私はぬいぐるみ作家になりますの。最高の型紙を作るには建築学科で図面引きを覚えるのが一番でしょう。」


「……ジュリアーニャ音楽院を蹴って、ぬいぐるみ作家に、ですか?」


「ええ。自分が好きな事を学んで仕事にするのが一番でしょう?ピアノはそんなに好きじゃないのよ。でも、弟が一緒に弾いてくれなきゃ嫌だって泣くから。」


「泣かないよ!俺だってダニエルがピアノが好きなんだって思ってたから、頑張ってチェロやってただけなんだからね!」


「ふふ。おわかり?我が家は音楽家の両親と子供達の戦争中ですのよ?仲裁に入って下さると嬉しいわ。でないと弟が両親が嫌だって夏休みに帰ってこなかったら悲しいでしょう。」


「か、考えておきます。」


「考えちゃ駄目。行動あるのみ、よ。」


 ダニエルはコロコロ笑いながらジュールズを引っ張って受付へとのしのしと歩いていき、私は一瞬で世界を自分のものにしたダニエルに感嘆するしかない。

 いや、ダニエルを差し向けたダレンに対して感嘆するべきか?

 これは、ジュールズと私の婚約を壊そうとまで考えての、双子の姉の召喚なのだろうか?


「これで、君は俺の姉が連れて来た姉の親友という事になる。ジュールズと一緒じゃ、どんなに変装してもミュゼちゃんだってわかるでしょう。この、お間抜けコンビ。」


 ダレンは笑うと私とニッケに両腕を差し出した。


「会場に入るまでは、お二方を俺がエスコートするよ。俺の身が二つないなんて心配はご無用。ハルトが頑張ってくれたおかげで、今夜はね、一般生と特待生のね、初めての合同パーティなんだよ。」


 私とニッケはきゃあと声を上げ、ダレンの腕にそれぞれぶら下った。

 さあ、最初で最後のパーティを最高の思い出にしよう!


「うわ、関所に嫌な奴が来た。」


「え?」


 ニッケの言葉に受付を見つめ返すと、なんと受付担当の委員が立ち上がり、後から来た男女の委員に場所を交代するところだった。

 黒髪の長い巻き毛を持つエルヴァイラは頭に小さな王冠を乗せたドレス姿で、その隣の男の子は、エルヴァイラの黄色のドレスに似合うようにして、ダークグリーンのタキシードを纏っていた。

 彼の眼の色と同じダークグリーンで、今日の私のドレスとはまるっきり色味が合わないという皮肉なものだ。


 でもそれもいいのかもしれない。

 受付テーブルに座る二人は、まるで結婚式のひな壇にいるカップルみたいなのだもの。


「あいつ?」


 私はダレンにかける腕に力を込めた。


「行きましょう。私達は楽しみに来たんじゃないの!」


「そうじゃな。行こう。まっすぐにわしたちは向かっていこう。」


 私達は顎を上げ、パーティ会場ではなく前線に向かうようにして、大きく足を踏み出した。

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