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主人公と対決?

 私達のすぐ横に仁王立ちしている影は、私が昔読んだ本の表紙絵そのものの、しっかりとゴシックロリータが入った水色のドレスを着ていた。


 う~ん。

 同じ世界で同じ系統の服ばかりな中、私はこの派手派手さが無い服を出来る限り選んで着ているが、今日みたいな日にはちゃんと派手なのを着るべきだったかしら?


 自分の服を見下ろして、無地のベージュ色のコクーンワンピが、自分を埴輪になったような気持ちにさせた。

 だって私の顔は、この目の前の少女に比べたら、モブのモブよ?


 真黒で豊かな髪は腰まであるぐらいに長いストレートだが、毛先十センチだけ縦ロールになっているという羨ましいぐらいな可愛らしさだ。

 ついでに大きな瞳は金色に輝く薄い褐色で、整った顔立ちから猫みたいだなと瞬間的に思ったが、ハルトとのせっかくのひと時を壊された事で、私は一瞬でエルヴァイラが嫌いになった。


 嘘です。


 大好きなハルトが好きになる女の子として、こいつはちょっとな、と、元々嫌いだったキャラクターです。


 私は本当は少年小説に出てくる女の子の性格の方が好きで、少女小説の主人公キャラは苦手なタイプが多いのである。

 それなのにしつこく何冊も続巻を買っていたのは、ハルト!あなたの成長とか、あなたの登場シーンが読みたいだけだったのよ!


「あの、ライトさん?」


「あ、ごめんなさい。あら、ここはどこ。今一瞬、私の意識がこの世のものでない何かに誘拐されてしまっていたようです。」


 ぶふっ。


 あ、ハルトが吹き出して姿を消した!

 わあ、初恋の人を大爆笑させられたわ、私。

 で、今の私には邪魔なエルヴァイラを改めて見返せば、彼女は自分のスカート、この世界ではおしゃれ服になるであろうペチコートを何枚も重ねて膨らませた膝丈スカートを両手でぎゅっと掴んでいた。


 彼女は私なんか見てはおらず、二人掛けのソファ席に転がって大笑いしているハルトを、それはせつなそうな目で見つめていた。



――あたし、びっくりしちゃった。

 彼があたしに声を掛けてくるなんて思わなかったの。

 だって、彼はハルトムート・ロランよ。魔法力がずば抜けて高いだけでなく、一般学生の勉強する数学や物理だって得意な優等生。それどころか、神様に愛されたって、そんな言葉がしっくりくるぐらいに綺麗な顔立ちをした、あのハルトムート・ロラン様が、あたしをずっと見ていたって言って来たのよ?


 エルヴァイラがハルトに初めて声を掛けられた時、彼女はかなりドキドキ胸を高鳴らせながらこんなことを述懐するのである。

 そう、小説ではエルヴァイラこそハルトを好きだったけれど、彼の好意が友情としか思えずにいた、という所がこの二人がなかなか付き合えなかった理由だったのだ。

 私は鈍感なエルヴァイラのせいでハルトが可哀想だとやきもきしつつ、今回もくっつかなくて良かったと胸を撫でおろしていたと思い出した。


 そこで急に思い当たった。

 心が通じ合わなかった期間が長かったからこそ、ハルトはエルヴァイラの命を守ろうと身を投げ出したのではないかしら?

 私は奥歯をきゅっと噛みしめて、数秒だけ頭の中で数を数えた。

 嫌いな子だけど、ハルトの為に、ね。

 目の前でイチャイチャされたら、現実だからこそ心が砕けそうだけど!


「ローゼンバークさん。私の隣にお座りなさいな。あなたは私とお話がしたいのでしょう?」


「おい、ちょっと待てよ!」


 笑っていたハルトは声をあげるや立ち上がり、自分が座っていた場所にエルヴァイラに座るように手で指し示した。

 そうね、せっかくの機会だもの、一緒に座りたいわよね。

 ハルトを好きなはずのエルヴァイラは小鳥のような軽やかな素振りでそこに腰を下ろし、ハルトは、あれ?なぜか私の隣に腰を下ろした。

 もちろん、自分が飲んでいたソーダ水を自分の手前に持ってくるのを忘れてはいない。


 ついでに私の肩に腕まで回した。


 何を考えているの?


 あ、そうか、好きな子に焼餅やかせたいってあれね!

 でも、死んだ時にはおばさんだった私の見て来た人生経験から、そんなことをする男は必ず振られていたわよ!とハルトに言いたかった。

 だけど、男の人に、それも恋をした男性に肩を抱かれる、なんて生まれて初めての私は、心を鬼にした。


 いや、最初からろくでもなく勝手にエルヴァイラを嫌っている心のままに、私は今日だけ生きる事に決めたのだ。

 私はハルトに何も言わず、エルヴァイラにだけにっこりと微笑んだ。


「私にお話って何かしら?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] モブVSメインヒロインのバトル勃発ですね。 小説通りならば勝負になりませんが、 ミュゼには経験とこの小説の知識がある。 故に勝機はある……と思いたいです!
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