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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第十章 モブと校内イベント
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死んでいくものへの真相

 ダレンの扮装を解いた男は、既に成人していると一目でわかる外見だった。

 よくもまあ、十六歳の俺の扮装を恥ずかしげもなくしていたものだ。

 いや、ナルシストが良くも他人になり切れたものだと称賛するべきか?


 ミュゼよりも銀色に近い灰色の髪には紫色のメッシュが所々に入り、俺にどうだという風ににやりと笑って見せた瞳の色は、アメジストの様な紫色だ。

 頬骨も高く顎も尖ってはいるが、それは男らしく線が太いという証明どころか、繊細な線を描いているように思わせる特徴でしかない。

 筋が通った鼻も太くはなく、女性的とも思える美しい三角のラインであるのだ。


 体つきが軍人特有の筋肉質であろうと、全体として全てが洗練されている貴公子の類にしか彼は見えないだろう。


「嫌味な奴だな。お前自身の方がいい男だって知っていての俺の振りか?」


「ははは。君は意外といい子だ。俺のこの外見じゃあ、あからさまに成人男子じゃないか。それにさあ、悲しくなるのよねえ。いい年した男が、十五・六歳に交じってキャッキャウフフするのって、ああ、悲しい。」


「その割には十五・六歳の女の子に手え出しまくりじゃないのか?」


 俺の耳に吐息が掛かった。

 俺は全身に鳥肌を立てると、奴は嬉しそうに含み笑いしながら、違う、と俺が出したことはないが俺の甘い声で俺の耳に囁いた。


「そんな声でエルヴァイラ達に囁いていたのか?サイテーだな、お前。」


「しょうがないよ。俺はうんざりしているんだもの。自分の仕事にさ。揺さぶって、本性を出させて、そして、判定して……処分だ。軍がね、必要としているのはさ、完全に言いなりになる犬か、牙を失った犬だけなんだよ。」


 俺の膝は崩れて地面に、いや、冷たいコンクリの床である底にごとりと音を立てて倒れていた。

 倒れてようやく気が付くとは!

 俺の身体は声も出せず体も動かなくなっていたのだ。

 しかし、皮肉にも瞼さえも閉じられない身の上のお陰か、俺は周囲の状況が良く見えていた。


 俺が転がっているのは、向かっていたと思っていた体育館ではなく、体育館横の今日は完全締め切りになる体育倉庫だったという事実。

 そこに子供達を殺す使命を帯びていた軍人がもう一人控えていた、という、それらを全部見知ることができたのである。


「少尉。ロランの処分をお疲れ様です。」


 ピンク色の髪をしていながらも陰鬱の象徴でしかないジュリア・ノーマンが、俺を転がした男に近づくや青年になりかけた声で喋った。

 ノーマンが拒食症でもないのに骨ばっていた理由は、男である癖に必死で女の振りをしていたからという事か?

 仕事と言えども、彼も可哀想に!


「いいや。まだこの子は死んでいないよ。死んではいないがそのうち死ぬ、けどね。」


「ゆっくりとした死の演出ですか?あなたは悪趣味だ。」


「いいだろ。楽しみぐらい無いとね。死体は君に任すよ。ああ!休み明けにはロラン死亡の演出が必要か。ああ!面倒くさい。」


「あの、それなら今日で終わりにしては?」


「ロランの存在を今日消せば、エルヴァイラや他のお仲間が暴走するだろう?フォークナーとドロテアも一緒だったらさらに大騒ぎだ。こいつらは外の人間と接触しすぎなんだよ。一人ずつ、順番にだ。」


「そうですが、あのナイマンにセリアを勝手に処分された時のようにはなりませんか?まさか、ナイマンが寮生をレイプして殺してもいたなんて。ああ、私達の評価が駄々下がりです。」


「そこは大丈夫だって。いじめを行っていた女の子達の自滅行為ってなっただろう。まさか、あんな化け物が出てくるとは思わなかったが。」


「本当に。あれは何ですかね。本当にセリアの怨霊なのですか?」


「さあ?とにかく俺はダンパに出る。頼んだよ。ああ、ロランは会場設営させてからにすれば良かった。お前が早くと煽るから。」


「仕方がありません。この時間が一番人目がありませんし、エルヴァイラもハルトがやるならって、飛び入りで委員立候補ですから。」


「うっそ。俺はロランとエルヴァイラの間には何もないって訂正情報流しちゃったよ。それを先に言ってよ。」


「すいません。」


「じゃあ、出るから。」


 少尉とやらは再び樹脂の面を被り、ちくしょう、俺の姿を纏ってそのまま薄暗い体育倉庫を出て行った。

 俺は硬直する体が痛いと、こんな状態が辛いと、殺される恐怖よりも痛みからによる涙が両目から零れていた。

 瞬きできなくて痛い。

 そういう事にしてくれ。

 もう二度とミュゼに会えないのかと、愛していると言いたかったと泣いているなんて辛すぎるじゃないか。

 ほら、膝の直ぐ上だってチクチクして痛い。


 膝の直ぐ上って、太ももが?


 目玉も動かせない視線ではあるが、横たわる俺の足の全貌は映っていた。

 くの字になった俺の右太ももには、まるで真横から刺されたかのようにしてピンク色の針が突き出していたのである。

 ほんの数センチの、痛みがなければ気が付かなかったであろう長さの針が。

 ニッケめ!

 スナイソギンチャク様のトゲは全部抜いたと言っていたじゃないか!

 残っているぞ!


「さて。そろそろ息が止まる時間だよね。」


 ノーマンが俺へと近づいて、俺の顔のすぐ前にしゃがみ込んだ。

 そして彼は、くの字に転がっている俺の身体に無造作に手を乗せた。

 まるで図ったかのように、俺から突き出した危険な針のある場所を。


「ぎゃあ!」


 何という事。

 ノーマンはとげが貫いた左の手の平を掲げ、自分の手の平の状態に驚きながらそのままごとんと横に倒れたのである。

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