三人組の企み
失恋しようが、俺にはやることが、いや、動かねばならないことが山積みだ。
まず、あの俺の偽物が、どこまで校内の女子達に毒牙をかけていたかの調査だ。
これは早急にしろとダレンに言われた。
「ほら、ミュゼちゃんがあんなにも虐められたのはさ、あの男に誑し込まれた子の嫉妬や怒りもあったんじゃないかって思わない?エルヴァイラだって相当、いやいや、ぶち殺す勢いでミュゼちゃんを攻撃して来てたじゃない。この泥棒猫!あたしの男に手を出さないでって感じでさ。」
「どっちが泥棒猫だよ~。」
「ハハハ。確かにね。だけどさ、このまんまじゃ来期はミュゼちゃんが確実に首都か隣町に行っちゃうだろ?お前はそれは嫌だろ?」
俺はその質問には憎々し気に睨むだけに留めた。
行きたきゃ行けばいい。
ミュゼは俺に待ってとも言わなかったし、俺を心配してホテルの外に出てくることも無かったのだ。
俺は湧き出て来たミュゼへの憤懣やるかたない思いを一先ず飲み込むと、ダレンに言われているすぐに行動しないといけない事について尋ね返していた。
「で、どうやんの?どうやって調べるの?一人一人に聞くの?あなたは俺と俺が覚えていない所でキャッキャウフフしましたかって?」
すると、俺に提案した男こそが、口元に手を当ててうーんと唸った。
ダレンがぎりぎりで俺を裏切るのは体験済みだ。
ニッケが使役するドピンク妖怪、スナイソギンチャク様とやらに、俺が海に引きずられた時も、ダレンは俺を助けてはくれなかったのである。
それどころか、ホテル前の道路に濡れネズミの俺をぽいと捨てると、ニッケと一緒にエビ料理を食べにシロナガス亭に戻って行ったという薄情さだ。
「仮面舞踏会じゃ!仮面舞踏会を開催するぞ!なあ!」
教室の後の方の机の隅で、俺とダレンがこそこそ話をしているというのに、ニッケ様は今日も空気を読まずに大声をあげた。
ダレンの左側の真横にニッケはベタっと貼り付いていて、ダレンはニッケを剥がそうとニッケの額に右手を当てた。
「むぎゃおう!」
長身のダレンの手は大きく、ニッケの顔を完全に覆っており、そんな手で思いっきりニッケを押しのけようとしているので、俺の方がニッケの首が折れるのではとヒヤヒヤしてしまった。
「ダ、ダレン。一応女の子、女の子、だから。首の骨折れるって。」
「折れろ、折れてしまえ。俺を奴隷に落とした奴にはお仕置きだ!」
「待って!ダレンさん!あなたは俺達よりもお兄さんでしょう!」
ダレンはニッケからパッと手を離すと、俺に大きく振り返った。
その目は涙目であり、俺は破産した、とか言い始めるや、うわっと泣きながら机に突っ伏してしまった。
「どうした?」
「いやあ、食後のビーチバレーでボロボロに負けてな、その負けを取り戻すカードゲームでも、ボロボロに負けたんだ。こいつはぁ、勝負運無いな!なあ!」
かぱっと口を開けて嬉しそうに教えてくれたニッケのお陰で、ホテル前に置き去りにされた事によるダレンへの鬱憤は晴れたが、俺を憐れなその状況に追いやったのはお前こそだろうとニッケを睨んだ。
俺は両手を伸ばすと、ニッケの頭をわしゃわしゃとぐちゃぐちゃにした。
「おお!酷い。仮面舞踏会という名案を提案したわしに対して。」
「大体意味わかんねえよ、お前。仮面舞踏会がどぉしてハルトの潔白を証明するんだ?今日はみんな来てくれてありがとう!俺は誰とも付き合ったことは無い、童貞君なんだよ!って叫ばせるつもりか。」
やっぱり俺を裏切って来た親友の言葉に、俺は真っ赤になるしかない。
「デカい声で言うな、馬鹿!お前だって童貞だろうが!」
ところが、ダレンは俺を見返してきて、ふっと鼻で笑ったのだ。
うそ、こいつは経験者?うそ?たった一歳違いで?
「安心しろ。ハルト。演奏会の後に年上のお姉さんに喰われて泣いたって所だ。経験値じゃあ、お前とこいつにそんな差は無いと思うぞ。」
「わあ、ちょっとダレンさん!首絞めたら、死んじゃう、ニッケ死んじゃう!」
俺達は相談どころでも無かったが、高校恒例の夏休み前のダンスパーティを仮面舞踏会にする事を、運営委員に提案することをニッケは押し切った。
「ダンパ会場はなぜか一般と特待生が分けられているよな。仮面舞踏会にする事で噂を流すんじゃよ。風の君が約束した君とダンスをしたがっているってな。そうしたら、ハルト、お前の知らないお前と約束した事がある奴が一般からも特待からも現れるかもしれない。そいつらから色々聞きだせるだろ?」
素晴らしい案でもあるが、そこまでして俺は偽俺の行動なんか調べなくてもいいような気持だった。
大体、好きでもない女の子とダンスなんかしたくはない。
「ふうん。だけどさ、こいつは仮面付けたミュゼちゃん見つけたらさ、そっから離れなくなるから無意味だよ。」
「ダレン、実はその通りじゃ。仮面舞踏会だったらな、ミュゼも最後のダンパに参加できるやも、ってわしは思ったのさ。あいつは夏休みが明けたらこの町にはいないんだろう?で、ハルトの偽物の動きも分かれば、一石二鳥じゃろうて?」
俺は、やる、と答えていた。
ついでに、俺が運営委員会に掛け合ってくる、とまで言っていた。




