我らは箱庭の中のモルモット?
俺はダレンの台詞に吃驚としてしまい、また、敵の口元が嬉しそうに綻んだ事で、俺の目は敵から離れてダレンの横顔を見返していた。
俺が驚愕を持って見つめる中、ダレンはさらに言い募った。
「ミュゼに化け物を呼ぶ魔具を投げつけた奴ら、あいつらが言っていました。あんなものを持っていても、いや、科学室で合成していても、誰も止めないどころか、アドバイスだってしてくれたってね。そこで思い出したんですよ。俺達がロックリーの授業を抜け出した時に、諫められるどころか応援された事をね。それで、俺は考えた。」
「イレギュラーに動くことこそ魔法特待生に求められているのではないか、と?正義の志を掲げていればなおのことって?ああ、そうだね、君達は国民を守り国のために戦う兵士になるのだから、その資質は求められていると思うよ。」
ダレンはそこで乾いた笑い声をあげた。
「俺達が求められている!それは嬉しい事ですね!」
ダレンは俺の周りに飛ばしていたオーブも、自分に纏わせていた炎だって、一瞬で消し去った。
そして、俺の肩を抱くと俺を自分に引き寄せた。
「え?」
「帰ろう。いや、海に戻ろう。子供の俺達は海遊びをしなきゃ、だ。」
「いや、だって、あいつを!」
ダレンは俺の耳に囁いた。
その囁きは敵はしっかりと盗み聞いていたのだろう。
奴は笑い声を林の中に響かせると、風を纏って中空へと飛び出して行った。
動きに無駄が無く、的確な攻撃魔法を子供にだって放てる男。
ミュゼを見殺しにする事をためらわなかった男でもあった。
――お前は政府に処分されたいのか?
「ダレン?ここは箱庭なのか?俺達に実戦を与えるフィールドだったのか?そのために一般人まで巻き込んで殺されて?」
「いや。俺達を処分するためのフィールドだと思うよ。大人しい上の学年は二十名のまま持ち上がりだったが、その上の奴らは二十五人が十三人にまで減っている。全員が実家に戻っての事故死や病死だよ、知って笑うしか無かったね。お前も聞いただろ?セリアはこの学校内で死んでいたそうじゃないか。あの飛び込みプールでね。」
「――ミュゼが酷い目に遭うのは、俺を殺す、ため?」
「それは違うだろ。あの男はお前の振りしていたんだ。お前には生きててもらわなきゃ。ミュゼちゃんに関しては、エルヴァイラの暴走じゃないのか?あの男がミュゼちゃんを見殺しにしようとしたのは、逆にエルヴァイラの気を鎮めるためのような気がするよ。見殺しにしたって、お前が必ずミュゼを助ける。」
「ははは、それで俺はエルヴァイラが暴走しないように、学校ではあいつの代わりにエルヴァイラに媚を売れと?」
ダレンは一度足を止め、俺をまじまじと見つめた。
「ハルトは金持ちの息子だったな。」
「急に何を!」
「いや。俺達はどうしようもない事を議論している場合じゃないって思い出したんだよ。今すぐに海に戻るぞ!」
「そんなに王様ゲーム付のビーチバレーがしたいか?」
「違う!エビ料理を食べに行くんだ!」
「エビ?」
「そう!エビを食べに来たって事でお前のミュゼちゃんを助けに行くんだよ!ニッケによるとな、ジュールズはミュゼちゃんと既成事実を作るつもりだってさ。」
「あのヒヨコ!」
俺は大声を上げるや、くるっと踵を返した。
するとすぐにTシャツのうなじの辺りを引っ張られた。
「飛ぶんじゃないよ!一般人だらけの場所に能力丸出しで突入するつもりか!」
「今日選んだあそこは、滅多に人が来ないってあのヒヨコ野郎は。」
「ミュゼちゃんを連れ込んだのは親戚経営のホテルだってさ。門前払いを受けたら、金持ちロラン君が自腹を切ってくれるだろ?そうしたら俺達はお客様として堂々とホテルに入れる。」
「ああ!破産してでも奢ってやるよ!」
俺は俺を掴んでいるダレンの手を振り払うと、一目散に駆け出していた。
タクシーを捕まえに、大通りにすぐにでも出ないと!
疾走する俺の背中には、俺を走って追いかけるダレンのとっても楽しそうな声が響いていた。
ああ、認めるよ。
俺はミュゼを誰にも渡したくないんだ。
恋人になるのは諦めても、ミュゼに恋人ができるのは許せない。
俺はミュゼの幸せなんて口先で言っていても、ミュゼに独り身のまま朽ちて欲しいとも思っているのだ。
なんて俺は偏執的で我儘なのだろう。
どうして俺はこんなにも彼女を愛してしまったのだろう?




