閉じこもってちゃ真実は遠ざかる?
私は私に爆弾を落とした癖に、微笑んだままのニッケをまじまじと見つめた。
私は警察にもかなり厳しく聴取されたし、父の店のガラスだって割られたばかりなのである。
この間、我が家に顔を出したエルヴァイラだって。
「四日前には、お店のガラスが全部割られたのよ。」
「おや。そうか、悪い噂は一瞬で広まるのに、本当の本当はその場で終わりになるのかな。悲しい話だ。なあ。」
「どういう事?」
「お前が入院したその翌日には、お前が無実だって証明されたんだけどな。ほら、ハルトやダレンという、お前の親衛隊がいるだろう。なあ。」
「ハルトもダレンも私の親衛隊じゃなくてよ。」
「くは!親衛隊だろ。お前が病院に搬送されてのあの大騒ぎの中、寮に戻って殺された被害者の隠された性癖って奴を暴き出したぞ!それでな、奴を殺した、いや、プールに突き落としちゃった奴も見つけ出した。」
「それは、誰、だったの?」
エルヴァイラだったらいいな、と、私のどす黒い部分は少しワクワクした。
だって、エルヴァイラにその泥棒が貢いでいたとしたらって、私はこっそりと考えていたのだもの。
「名前は知らんが、寮に引き込まれての、脅されての、肉体関係があったみたいだ。ハルトに会わせてあげるからさ?学校で会えよって、なあ。」
私は胸がどきんとした。
もし、私が人知れずあのプールであの警備員と一緒に死んでいたら、私もそんな誘いに乗って呼び出されて、それで抵抗しているうちに二人仲良く溺死した、という事になったのではないのかしら。
「ねえ、ニッケ。」
「だからな、お前は心配せずに学校に来い。それで自分の口で言うんだ。人が沈んでいたから助けようとしたら落ちてしまった、と。なあ。」
ニッケはまっすぐに私を見つめた。
人殺しの噂が消えた代わりに今度囁かれている噂が、私が死んだ男に乱暴されていたという不名誉なものらしい。
私を見つめるニッケの透明で曇りない瞳は、そんな噂こそ自分で追い払え、と私を煽っていた。
「そうね。わかった。ジュールズや伯母様が噂があるから学校を休めと強く言ってくる理由もわかった。でも、あら、それならどうして?四日前には店のガラスだって割れて。ええと。」
「四日前って所がミソだな。誰か来たか?」
「えっと、エルヴァイラが。」
「あいつか。ちゃんと弁償させとけよ。」
「え、ええ?」
「あいつの特技はサイコキネシスだ。感情の爆発で何でも壊す。あいつはお前に謝罪に来たはずだが、謝罪になっていないな。ガラスを割ったんじゃあ。わしが首根っこ掴んで連れてこようか?なあ。」
私はエルヴァイラとの邂逅が確かに四日前だったと思い出し、また、エルヴァイラとの対決をも思い出して、もう彼女には会いたくないと両手を振った。
ニッケの言う通りにガラスを割ったのも彼女ならば、自分で割っておいてその破片を自分で被ったりするような女は本気でごめんだ。
「いい!もう会わなくていい。それに、なんか無償でガラス交換をしてもらったの学校に。あの、ほら、私がこんな目に遭う事になった謝罪も含めるって。」
私の台詞にニッケは鼻を鳴らし、一瞬考え込むように口元に指を添えた。
「ニッケ?」
「うーん。」
「何か不安事が?」
「いや、わしの目的を今思い出しただけだ。さあ、お前は家の閉じこもりっきりで外の空気を吸っていないんだろう?明日の休みに一緒に海に泳ぎに行かないかって誘いに来たんだよ、なあ。」
「海に?」
「ああ。約束しただろ?わしはダレンを落とす。お前はそのために協力する。」
「そ、そうだけど。も、もう、ハルトとは。」
「お前は酷いな。お前はハルトと仲良くできるならわしと仲良くするって考えだったのか?なあ。」
「ち、違うわよ!グループ交際にならないって事を、あの。」
「お前には婚約者がいる。そいつを連れてこい。よいな。」
ニッケは言いたい事は言ったという風にして、再びマグカップを両手で持ち上げると、その中身を啜り始めた。
ニッケを見つめる私に対し、彼女は軽く左目を瞑って見せた。
「井の中の蛙よ、外に出よ。案ずるより産むがやすし、だ。なあ。」
「そうね。あなたの言う通りかも。」




