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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第五章 モブにも意地がある
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嘘吐きは泥棒の始まり

 学校にはあっという間についた。

 ジュールズは伊達に不良をやっていない。


 彼は車を持っていた。


 それも、網元の息子という、田舎町ではお坊ちゃまな立場の彼は、ジープによく似ている型の高級車をお持ちだった。

 魔法世界なのに、一般人は普通に前世世界と似ている物質世界だ。

 そして、自転車通学どころか、車通学が許されているなんて。

 舞台はアメリカの田舎町風に日本的味付け添加、だったのね!


「明日はもうちょっと早く用意してくれよ。車だからってこれじゃあ遅刻寸前になっちまうだろ。」


「ごめんなさい。」


 クーラーが効いた車内はとっても涼しくて乗り心地が良く、私は乗って一秒で毎朝の迎えを断ろうと考えていた台詞を完全に忘れた。

 言い忘れたのではない。

 台詞が脳みそから消え去ったのだ。

 私は簡単に流される自分が情けないと思いながら、鞄と大きな紙袋を抱き締めながら車を降りようとドアを開けた。


 そう、紙袋!

 この中にはハルトやニッケに相談したいものが入っている!

 あれ、ジュールズにも相談しておいた方が良いって、どうして私は思わなかったのだろうか?


「あの。」


「まあ、良いけどさ。その服は似合っているよ。」


「はひ!」


 私は車の開いたドアから足を跳びださせた変な格好のまま、ジュールズの突然の言葉に驚いて固まっていた。

 強面の男のはずのジュールズは、耳まで真っ赤にさせてそっぽを向いていた。

 前世では洋服を褒められた事など一度も無いのに!


「あ、ありがとう。」


「お前はさ、飾らないから良い女だよな。俺は、昔から――。」


 ボソボソと彼は恐ろしい事を呟きはじめ、私はこのままジュールズに流されないようにと、彼の車からぴょんと飛び降りた。

 ジープみたいな車は車高が高いのだ。


「あの、あ、ありがとう。ジュールズ。」


 そして、彼と一緒に歩けば良いものを、私は恥ずかしくなったそのまま校舎の方へと走り出していた。

 駐車場を出て、校舎を囲む門をくぐり、そして、校舎のエントランスに一歩踏み出したそこで、私は大きく転んでいた。

 何かに躓いた覚えはないけれど、私は大きく転んでいたのだ。

 転んだという感覚もないまま転んだために、私は地面に顔と膝を強く打ち付けていた。

 ああ、鼻が低くて助かった。

 額と膝小僧が凄く痛いだけで済んだ。

 そう思う事にした。


「大丈夫か!ミュゼ!」


 ジュールズの大声に、私は大丈夫と答えようと起き上がったが、私は左頬に強い衝撃を受けて再び横転していた。

 男の足で蹴られたのだから、両目に眩しい星が散ったぐらいの衝撃だ。

 それでも衝撃程度で済んだのは、私の頬にしっかりと蹴りが入る前に、ジュールズが私を蹴ろうとした男を殴り飛ばしてくれたからだろう。


「てめえ!俺の従妹に何をしてくれんだ!」


「泥棒に罰を与えただけだよ!」


 ジュールズに殴られた男は頬を押さえながら叫び返し、彼を庇うようにして前に出た小太りの男は、私に対して憎々し気に指を差して声をあげた。


「こいつがエルちゃんの大事なものを盗んだんだ!ほら、見て見ろよ!盗んだドレスだ!」


「そんな!ミュゼが盗みをするはずないだろうが!」


 ジュールズは怒ってくれたが、次の言葉が出なかったのは、彼も私が泥棒したのだと思ったのかもしれない。

 私は自分が転んだ時に手放した自分の荷物、自分の鞄と、ハルトたちに相談しようと持って来た紙袋、転がった事でぶちまけられた忌々しいピンクの布地を見返して溜息をついた。


 私は完全に罠にかかっていたようだった。


 ドレスを着ていれば、グルグル目玉になって、ジュールズと婚約発表していたかもしれない。

 ドレスを着ていない今は、ドレスを盗んだ泥棒の濡れ衣を着せられた。


「待って!ライトさんは勘違いしたのかもしれない!だって、盗んだ人が盗んだものを学校に持ってくることは無いでしょう。ねえ、ライトさん。あたしも大事な服なのに不注意にもロッカーの前に置いていたのが悪かったと思うわ。何しろ、今まで特待生しか使わないあの場所で泥棒なんて無かったから、防犯に無頓着になっていたもの。」


 転がったままの私の前には派手な人形のようなドレス姿の人が仁王立ちしていたが、私は彼女を眺めて、その足に履いたエナメル質感の茶色のブーツは誰のものだろうと考えた。

 私だって買ったぐらいの、町の靴屋の昨年の秋冬ヒット商品だったのだもの。


 自分が泥棒の濡れ衣を被せられたからって、これは穿ち過ぎね。


 私はのそのそと起き上がり、私を貶める作戦実行者なのか、便乗者なのか、とにかく今現在の敵でしか無い少女を睨みつけた。


「私は何も盗んでいないわ。あなたがそれを一番ご存じよね。」

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