どう切り出すべきか
嫌われるだけならば、ぜんぜん良いことだろう。
仲直り、の可能性だってある。
だが、見下げ果てられるのは、駄目だ。
この先の可能性なんて何も無くなる。
だが、俺の告白を聞けば、ミュゼは俺にがっかりするどころでは無いだろう。
自殺しようと岬に行って、目の前の女の子に心惹かれて追いかけて、突如現れた化け物に混乱したまま魔法を使い、そして、守るべき女の子を魔法に巻き込んで海に投げ込んでしまった。
なんて情けない男。
勿論必死で助けたよ。
自殺の名所だけあって、そのまま落ちたら海面で肉体は木っ端みじんだ。
俺はミュゼを抱き寄せようと自分こそ崖を飛び降り、落ちていく彼女に向かって手を伸ばした。
けれども、俺は飛び込むのが遅すぎた。
俺の手が彼女の身体をつかむことなどできはしなかったのだ。
このままじゃ彼女が海面に激突する!
俺は意味をなさない言葉を、叫び叫んでいた。
叫んで、殆ど無意識に風魔法を放っていた。
ミュゼは激突寸前でほんの少しだけ体をふわっと浮かべたが、しかしそのままドボンと海に沈んでいった。
俺は自分の周りに風の防御壁を作り、沈んでいった彼女を追いかけて海の中に突っ込んだ。
光が差し込む海の中は、透明で、キラキラと輝いて青かった。
空を飛ぶ夢が潰えたと泣いてばかりの俺には、そこは夢に見た空の世界にも似た風景に思えた。
世界が美しいと久しぶりに思えたのだ。
すると、俺へのご褒美のように少女が宙に浮いていた。
灰色の長い髪が差し込んだ光を受けて銀色に輝き、お祖母ちゃんが着る水着は宇宙服みたいで、なんだか宇宙人みたいだった。
俺の夢は、水色の空を通り越して、あのキラキラ光る星の海まで飛び込んでいきたい、そのぐらい高く飛びたいってものだったのだ。
水の中でゆらゆらとたゆっている彼女は、意識が無いままに両腕を掲げた。
ほら、あなたにあげる。
少女は俺に再び空を差し出してくれたのだ。
そんな錯覚をしていた。
俺は彼女を抱き締め、もう一度、そう、もしかしたら夢を叶えられる道があるのではないかと思いながら水面を目指していた。
二人きりだったら、生還した彼女に全てを告げて、謝って、そして友人になる道こそ選べただろう。
しかし、あの日は海面に出たところで、祭りか何かの様にして俺達を待ち構える、人、人、人、だったのだ。
それでも俺はとにかく彼女に蘇生術を試み、気が付いた時には、俺は英雄に祭り上げられていた。
ミュゼは純粋に彼女を海に放り込んだ俺に感謝ばかりで、俺がそれを否定しないばっかりに、彼女は自殺志願者だと思われて虐められる羽目にもなった。
俺がミュゼのキラキラした瞳の輝き、俺を物凄く憧れのようにして見てくれるその目線を失いたくないと思ったばっかりに。
そして、告白しなければと決意したにもかかわらず、俺は告白どころか彼女をひっぱって歩くだけだ。
会話をしたら告白につながるからと、彼女と並んで歩こうともしない、なんて卑怯者だ!
俺はグッと両目を瞑った。
さあ、立ち止まれ。
ちゃんと彼女に真実を伝えるのだ!
え。
ミュゼの右手と繋いでいた左手は、ミュゼが急に立ち止まった事で後ろに引っ張られた。
ミュゼこそ俺の振る舞いに戸惑ったのか。
振り向けば、ミュゼは俺なんか見ていなかった。
目を輝かせて、ガードレールの向こう、白い浜と青い海が広がるそこを眺めているのだ。
「ねえ、ハルト!海がキレイ!」
「君がいつも見ている風景でしょう。」
「こんな早い時間に、ハルトと一緒だからかな!なんだかキラキラしているよ!」
俺はミュゼが見ている海を見つめた。
普通のいつも見ている海の風景でしかないのに、海面が光を受けて瞬いて、白い砂浜も光を反射しすぎると、俺の目には眩しかった。
俺は、そうだね、とミュゼに答えていた。
一緒に眺めているからきれいなのかもね、と。
それから、俺はミュゼの右手を強く握り直し、ごめん、と彼女に謝った。