その十四 やり部屋なんか事前に作って置いたばっかりに
戦場どころか、どんな世界を制するにも、情報・戦術・戦略というものは必須であると俺は父に教わっている。
いや、伯父のフォードなのかな?
彼は海兵隊を退役して警備会社を設立したが、彼の会社がぐんぐんと業績を伸ばしているのは、ロラン家の財力のバックアップなど関係ないであろう。
そう、俺は素晴らしき伯父に色々と教わった。
まずは地形の見方と山などの歩き方かな。
人の目を避けてどこにビバークすればいいとか、野営するには何が必要か、など、幼い俺に色々と教えてくれ、川で釣った魚や薪で焼いたパンなどを食べ、一緒に寝袋に納まって星を眺めたって記憶だ。
ああ、ありがとう、伯父さん。
俺は彼からの薫陶を元に計画を練った。
誰にも知られずに二人の時間を過ごしたい、という純粋で崇高な目的の為に、彼女を引き込んで語り合える場所を海岸沿いを練り歩いて探し、見つけた穴場に先に寝袋などのキャンプ用品を持ち込んでいたのである。
さて、その誰にも知られない場所まで彼女を抱いて移動してきたのだが、俺の用意した隠れ家はこの町のならず者に奪われていた。
ああ、居住性を大事にしすぎてしまったばっかりに!
「いやだ!もう、アハハ。でも可愛い!ああ、カメラがあったらいいのに!おいで、お前、お母さんはどうしたのかな?」
ミュゼはぐしょぐしょに汚れた仔犬を呼び寄せ、俺の秘密基地を侵略していた犬は震えながらも俺達の方へとよろよろとやって来た。
俺は仔犬が哀れだなと思いながらも、今日はこいつを可愛がろう会な一日になりそうだな、と乾いた笑いを上げていた。
俺はその上着を脱いだミュゼこそ可愛がりたいのにね。
こんなに汚れた犬の世話にかかりきりじゃあ、ミュゼが上着を脱ぐなんて、俺と一緒に浜辺でキャッキャウフフなんてもうないかあ。
「うーん海水で洗っちゃ駄目なんでしょうけど、大体の汚れを落とすだけならいいかな。怪我もしていないしね。ねえ、ハルト。」
……神さま、俺は今日からあなたの存在を認めて宗教活動をします。
ミュゼが上着を脱いでいた。
俺が買ってあげた水着じゃ無くてワンピース型のものだが、俺は彼女を叱るつもりは毛頭ない。
あの二着よりも薄い布地で、シンプルな形だからこそミュゼの体の線を完全に露わにしているという代物だったのだ。
きっとミュゼは体を隠すつもりであっただろうが、さらに裸に近い格好になっていると気付いていないのだろうか?
いや、気付かせるな、これは俺のボーナスステージだ!
けれども、俺は修行が足りないチェリーボーイでしかなかった。
ミュゼの水着姿が俺の体の変化が起きそうなほどにやばいと、俺が彼女をガン見してしまったがために、彼女は恥ずかしそうにして俯いてしまったのだ。
ごめん。
謝るのは俺の方だろ?
「え、ごめんて?どうして?」
「え、だって、ハルトの水着を着て来なかった。あ、でも、今度プールに行かない?そ、そこだったら絶対にあっちのどちらかを着れるから!」
「この町だと着れないってこと?」
「いや、あの、ボディボードの時は、無理。あの、私があのお婆ちゃんな水着を着ていたのは、理由があって。あのね、ボディボードで水着のパンツが脱げちゃった子がうちのちびっこでいるのよ。」
俺は笑うしかなかった。
ごめん、だって、君のパンツが脱げちゃった姿を想像しちゃったのだもの。
笑い飛ばさなきゃ俺のパンツが大変だ。
俺は笑いながら白い水着を着た彼女を腕に抱き寄せた。
背中が大きく開いていて、彼女の美しい背中は丸見えだ。
彼女をさらに自分の体に引きつけたら、彼女の体が俺に触れた時、それが薄い生地のせいか殆ど裸と変わらない感触で、俺はかなりどきりとさせられた。
今日はこの水着で良かったのかもなと、俺はミュゼの裸の背中を撫でた。
「ひゃあ!」
「さあ、この馬鹿ワンコの汚れを落とそうか?真水も近くにあればいいんだけどね。目の周りこそ洗ってあげたい。なあ、お前。ミュゼがいる時で良かったな。俺一人だったら見捨ててたぞ!」
「ハルトったら!」
ミュゼは、わあ、俺を神様みたいな目で見上げたぞ。
紺色の呪い
エルヴァイラの深層心理から生まれた幻術魔法。
正義は執行されなければいけない、という考えは善であるが、エルヴァイラ自身の思考には、代理型ミュンヒハウゼンやナイチンゲール症候群などが含まれているので、悪意のある集団心理を作り出すものにしかならなかった。
魔法使いでも見える人と見えない人がいる。
ハルトには見えていたが、物語最後の水着コンテスト会場で初めて見た様な事を叫ぶのは、紺色が見えたのが初めてではなく、ミュゼが鏡もなく追い払ってしまえることに驚いて。
ダレンの台詞はハルトの言葉を曲解して。
読み返して分りづらかったので、本編の「楽園の歌」の文章で一部を加筆修正します。