その十三 浜辺であなたと、きゃっ!
さあ、ボディボード日和の今日、決戦かもしれない今日だ。
私は胸でグッと拳を握ったが、ハルトは周囲を見回して畜生と呟いた。
ごめんね、何もイベントが無い田舎町で。
私達が授業中にしたデエトの約束はその日のうちに町中を駆け巡り、暇な人達は私達のボディボードデートを盗み見ようと海に押し寄せているのである。
もちろん、センダン家の少年青年達も、頼んでもいないのに私達にボディボードを教えよと我が従兄ジュールズの命を受けて参上していた。
しかし彼らは敵ではなかった。
今や好き勝手に沖でちゃぷちゃぷしている。
彼らも遊びたい盛りなのだ。
彼らは取りあえずセンダン家という金持ちの一族の子供達であり、外見もそれなりで、ジュールズの教え(躾?調教?)もあって暴れん坊だが紳士にも振舞える。
つまり、女の子達にはモテるという、揃いも揃ってリア充なのだ。
よって、リア充は爆発するかもしれないので、早々に彼女達と沖に行ってもらうようにとハルトが交渉してくれた。
というか、ハルトが王子様笑顔で誰かの恋人の手を引いたところで、彼らが全員自分の彼女の手を引いて沖や町に逃げたというだけだ。
流石王子。
本領発揮ですね。
「ミュゼが上着を着たままで助かった。君が水着姿になっていたらさ、あいつら絶対にここを動かないに決まっている。」
「まあ!上手ね!」
でも、あなたこそ素敵な王子過ぎるので、あなた狙いのゴシップ好きが浜辺に増えていく一方です。
ハルトは再び周囲を見回し、王子には思えない舌打ちと表情をして見せた。
それを私だけに見せずに周囲に見せれば、あなたの追っかけを追い払えるんじゃない?なんてこっそり思った。
「畜生。まあ、いいや。ミュゼ。俺を信じられるかな?」
「あなた以外の誰を信じたらいいの?」
「ばか。」
彼は無造作に持っていたボードを海に投げた。
彼が持ってきたボードはボディボードではなく、サーフボード、それも三メートルはあるロングタイプを持ってきていた。
そんな大きいものを寮から運んで来たのかと聞いたら、浜辺から見えるショップを指さして、そこで買ったと気軽に答えた。
「買ったの?ええと、帰る時はどうやって持ち帰るのかな?」
「あそこの店は処分品の引き取りもしているらしいから、店に引き取って貰おうかなって。そう言ったらさ、店の方が店先に置いて預かりとかどうだって言って来たからね、まず一か月はその契約に乗った。」
「そう。」
ああ、桁違いな金持ちの子供だった、この人は。
私が乾いた笑いを上げていると、彼は私を抱き上げて、なんと、サーフボードに乗り上げたのだ。
「ハルト?」
「風使いは波使いでもございます。君はその腕に俺達の弁当を落とさないように抱き締めていて!俺は君を落とさないように抱き締めているから。」
「はふ?って、きゃあああああああああああ!」
サーフボードは未知なる動きをして見せた。
ふわっと舞い上がり、そのまま大きな波に乗り、宙に舞った。
私はハルトの邪魔にならないように彼が言った通りにお弁当箱を抱き締め、彼の腕の中に大人しく収まっていようと頑張った。
最初に悲鳴はあげちゃったけれど、もう邪魔にならないように口を閉じて、閉じて、閉じてなんていられないよ!
真っ青な海は高い高い波を作り、私達が通り抜けるトンネルになったり、私達を空に突き上げる高波にと、キラキラと輝きながら私達の世界の一つとなっているのである。
「綺麗!海がキレイ!世界がキレイだよ!あなたがいるからね!あなたと一緒にいるからなのね!」
私を抱き締める彼の腕はしっかりしていて、ああ、私は彼と一緒にどこにでも行けると思った。
エルヴァイラの生育について
アストルフォがミュゼにエルヴァイラは貧乏な共働きな夫婦と教えるが、エルヴァイラは孤児院育ちが事実。
魂の交換で紺色の呪いを払拭したいのが目的のアストルフォは、ミュゼにエルヴァイラと魂を交換してでも生き残るという気概が欲しかった。そこで、ミュゼを煽る際には、エルヴァイラへの同情を誘う孤児という過去を隠した。




