その十二 下着屋の奥で王子は輝く
ハルトは水着を悩みに悩み、一着は自分が買うと言い出した。
いや、二着とも自分が買うと意気込んだ。
私はひゃあとなるしかない。
だって、これらは彼を揶揄うためだけに、すっごく可愛いけど私には着れないって奴を二着持ってきちゃったのよ?
一つは黒ビキニだけど、もう完全にブラジャーみたいな形をしていて、それで、腰履きの部分がお尻すれすれのデニムっぽい布地を使ったスカートが付いているというものだ。大きなテンガロンハットとモデルガンを持てば、何かのゲームのキャラになれそうなぐらい。
もう一つは、白いブラジャーにニットレースの短いトップを重ねたような形の上に、もうほとんどただのパンツでしかない白レースのパンツという組み合わせのものである。
それらを冗談でハルトに見せつけた時、彼は物凄く顔を真っ赤にして、自分が選ぶと言い出すかと思ったが、試着!と叫んだ。
はふ!
私のおふざけだと知っているはずの私を幼い頃から知っている店主メイジ―は、センダンの女達が時々見せる底意地の悪い笑顔を見せると、私の背中をぐいぐい押して試着室に放り込んだ。
ええ!
着ましたよ!ええ、しょうがないから清水の舞台から落ちて見ました!
さあ、一着目、どうだ!
あの黒ブラの方がお尻が隠せるからそれで、だったのだが、試着室を出た私の目にしたものによって私は自分がディーバになったかと錯覚したほどだ。
きゃあ!ハルトったら目がキラキラ!
「メイジーさん、これ買います。」
「え、ちょっと待って、買うって、え?」
「俺が出すから心配しないで。」
「いや、ちょっと待って、買うって、ええと、え?」
「あ、そうか?じゃあもう一着の方もお願い。」
私はメイジ―によって背中を押されて試着室のカーテンは再び閉められ、なんと私はもう一着に着替えるまで出る事が出来なくなった。
どうした?
ハルトが急にお金持ちなお坊ちゃんな振る舞いをしている!
どうしよう?
ボディボードで遊んでいたセンダンのちびの一人が、水着パンツが脱げて海から上がれなくなった事件、ジュールズがくどくどと教えてくれたじゃ無いの。
それで、ボディボードするならこの水着を着なさいと、ジュールズが死んだお婆ちゃんの衣装ケースから水着を持ってきてくれたのじゃない!
あれは本当に(死んだ)お婆ちゃんの水着なのよ!
大丈夫?私?
こんな水着を着て、海でパンツが脱げないかしら?
「ミューゼ!早く!」
「もう!」
そして今に至る。
二着目を見せてすぐに服に着替え、さあ、もう少し他のを見ようと言ったのだが、ハルトは私が最初に持ってきた水着にご執心なのである。
「ねえ、あの、二着も買ってもらうの悪いし、あの、他のも見てみたいなって。」
ハルトは私ににっこりと笑い、選んでおいでと優しく言った。
「この二着は俺が買っとく。君はまだ欲しいのあるなら探しておいで。それもいいよ、俺が払う。」
「いいえ!いいです。これで充分です!」
「ではメイジーさん包んでください。いやあ、このお店は本当に趣味が良いですね。父が母とスーハーバーに来たら絶対に寄るように言いますよ!」
「まあ!王子様に気に入って頂けるなんて!ケーキはいかが?リンダに向かいの店からチェリーパイでも持って来させるわよ!」
いや、すでにソファ脇のテーブルは、今日の売り上げ分くらいに、ハルトが食い散らかした皿やグラスで溢れているじゃないですか!
私はハルトの王子としての真髄を見たと慄いていると、彼は私に対して軽く片方の眉を上げて見せた。
昨日の仕返しだよ、そう言っている気がした。
でもね、ほんとーに何もなかったし、買ってもらったあの下着、多分一生着ることは無いと思うわよ?
怖すぎて捨てる事も出来ないけど。
ミュゼの背中とハルトの胸に出来たアストルフォの手形
思い通りにならない二人への焼き印
アストルフォはミュゼとハルトに印をつけた事で、イレギュラーな事を起こした時にその印で二人の殺害も考えていた。
しかし、ニッケの抗議によりエルヴァイラがアンナが産んだ赤ん坊のエルヴァイラの肉体でないことを知り、ミュゼに付けた焼き印に急遽作った新たな呪いを被せた。
現在その焼き印は、呪いごとミュゼがエルヴァイラに持って行ったので、二人の体には残っていないが、後遺症として時々アストルフォに操られることもある。
彼の姿が見えたり見えなかったり、みたいな。




