その十一 ぺかぺかな君の水着姿のために!
助平とか、やることしか考えていない男、俺の背中はそんなヤジを受けていた。
なんとでも言え!
俺は男どもの騒々しい野次を受けながらミュゼの肩を抱き、ミュゼと仲良く校外へと出てスーハーバーの下着屋を目指した。
白く塗られた壁とレトロな装飾がある外観の小さな個人店は、ドアを開ければドアベルが鳴るというどこからどこまでも古き良き、という雰囲気だった。
伯父のフォードは開拓時代の銃撃ドラマを見るのが好きで、幼い頃の俺は彼の膝で一緒にそんな映画をよく見ていたせいか、俺は実はこういう店構えって大好きなのである。
また、首都にいた中等部の頃は、そこで仲の良かった奴らにせがまれて、水着やら下着やら選ばされていたと、店内に一歩入って見えた光景が下着が並ぶ見慣れたディスプレイだったことで思い出しもしたのだ。
ついでに、そいつらと俺は何もなかったとも思い出した事で、俺は物凄くリラックスしていた。
アストルフォのあれは、普通に考えて、こんなにも恥ずかしがっているミュゼへの揶揄いと俺への真っ向からの嫌がらせでしかないだなって。
笑っちゃったのが、俺を下着屋に連れて行ったミュゼの方が物凄く照れていた、という純情可憐な真っ赤な顔を見せてくれた事だ。
「選ぶのは水着でしょう。恥ずかしがらない。」
「で、でも、下着屋さんでしょう。あなたが入るのは恥ずかしく、ない?」
「うーん。首都では色々と頼まれて入ったからなあ。」
「……リア充め。」
「え?」
リラックスしていた俺は、聞いた事もない低いミュゼの声を聞いた事で、心臓が一瞬恐怖で止まりかけた。
ちょっと待って!
君だって大金持ちの有名人に下着買ってもらったらしいじゃ無いの!
俺は友人に下着を選んであげても、その子に下着を買ってやったことは無いよ!
「まあ、いらっしゃい。今日はラルス王子と一緒なのね。王子様と一緒でこんな小さい店でいいのかしら?」
俺達に声を掛けて来た若い女性はにこやかだが、あからさまに彼女から敵意というものをミュゼに送っていると俺は感じられた。
俺がミュゼを守ろうと身を乗り出したそこで、店の奥から柔らかいが太い中年女性の声が響いた。
あからさまに染められていると分かる金髪に太いターバンを巻いた頭、それに俺の横が二倍ありそうなふくよかな体に、バスローブの様な形のワンピースを羽織ってる店主その人だった。
「もう!リンダ、あなたは下がっていらっしゃい。ようこそ、ミュゼ。気にしないでね。ええ、ええ、私達は信じているわ。あなたがそんな浮ついた女の子じゃ無いって事を。」
俺はミュゼをこの嫌味な店からさっさと連れ出そうと思った。
水着?下着?そんなもの首都の有名店に命じればさ、明日にでもミュゼの前まで最新の流行商品をこの店の在庫分ぐらい持って来るだろうさ。
こんな店に置いてあるよりも高級品をね。
ミュゼが選べなかったら俺が全部買ってやってもいいんだ。
「ありがとう!メイジーさん!誤解ばかりだから辛くって。今日はね、愚痴も聞いて欲しくてこのお店に来たの。あと、あとね、ロラン君と、ええと、ゆっくりお話もしたいなって。ねえ、協力してくれるでしょう?」
俺はミュゼの横で全部理解しているという笑顔で微笑んでいたが、そうきたか!と思い切りミュゼに突っ込んでいた。
さすが田舎町十六年のベテラン。
噂には噂返しという手を使うのか!
その上、俺との時間も確保できるという計画的さ!
ミュゼは純粋でぽやんとしているだけでは無かったのか!
巧妙だったミュゼに俺が感心していると、店主はそれはもう期待に溢れんばかりの笑顔で輝き、とりあえずと言って俺を店の奥に連れて行ってそこにあった可愛らしいソファに座らせた。
ままごとの椅子みたいな可愛いピンクのソファに座って正面を見つめれば、あれは、おい、試着室、だろ?
「ほら、リンダ、王子様にお茶を入れてさし上げて。ああ、王子様は何がよろしくて?コーヒー?お紅茶?それとも、冷たいソーダ水がよろしいかしら。」
俺は最高の席を用意してくれた素晴らしき店主の手を掴み、最高に思って欲しい笑顔を作った。
「ご親切に感謝します。マダム。冷たいソーダ水をお願いできますか?」
彼女はきゃあと喜び、リンダに店の向かいにある喫茶店からクリームソーダを買って来いと素晴らしい命令を下した。
よし!
そして、俺はミュゼに微笑み返そうとして、ミュゼに凍らされていた。
ミュゼは可愛らしい水着を二着を手に持ち、俺にどっちがいいのかと掲げて見せつけているのである。
どっちも浜辺で見た水着よりも可愛らしく、ここだけは強調せねばならないだろうが、布地が少ない奴だ!
俺はよしっと心の中でガッツポーズを再び決めた。
シュルマティクス刑務所での課外授業
アストルフォの言う通り、もともとはエルヴァイラとノーマン、そしてハルトを投入しての士官候補生と犬となる能力者のハンドラー演習。その演習中に刑務所内に設置してある怨霊体の反応実験もしている、という軍部恒例の暗部的催し。
今回のアストルフォはこの催しを利用し、ミュゼが「ハルトの危険を助けるためにエルヴァイラに魂を飛ばすか、あるいは「自宅に仕掛けたヒントを元にミュゼが怨霊体を動かしてシュルマティクスにやって来れるか」の実験をしていた。無事にシュルマティクスにミュゼが来ることができ、彼の想定通りに怨霊体を動かす事も出来たと、結果を喜びながら二度目のミュゼの殺害を行った。
ちなみに、ミュゼの魂は結局はエルヴァイラの体に飛ばなかったので、次の方法を思案することになる。




