その十 噂と男の意地
ミュゼはアストルフォと隣町のショッピングモールに行き、アストルフォに下着やら何やらを買って貰っていたのだという。
すごいな、田舎。
昨日の事なのに、町中がその噂を知っているよ!
俺は何人もの学生に捕まえられ、その噂を面白おかしく聞かされ、ミュゼの裏切りに心を引き裂かれるよりも、そこでようやく昨日の自分の失言の意味を思い知らされたと言ってもいい。
だよな。
俺の意図したデートとは違うけれど、ヘリなんか目立つものでお迎えしてホテルが目的地なんて知れ渡れば、「ミュゼがフライングやりまくり号に乗ってやりまくりホテルに連れていかれたってよ。」な、恥ずかしい噂の的になるのは想像するまでもない事だ。
だけどね、その失態を思い知らせるためだからって、どうしてアストルフォと隣町のショッピングセンターに行って下着まで買ってもらうのさ!
俺は憤懣やるかたないと再び授業を抜け出して、授業中のミュゼの教室を突撃していた。
教室の奴らは俺がドアを開けて入って来ても誰も騒がず、怖い事に教師も騒がない代わりに目を細めて俺を睨みつけていたが、俺は気にもしないでミュゼのもとへと大股で歩いて突き進んだ。
ミュゼのもとに辿り着いて見下ろせば、彼女は真ん丸に目を見開いて俺を見上げているじゃないか。
俺は自分のHPが一瞬でゼロになった気がした。
どうして今朝の俺は怒りのままミュゼに挨拶に出向かなかったのだ。
朝にちゃんと挨拶していれば良かったじゃないか。
ミュゼは髪型を変えていた。
いつもは肩に降ろしているその髪を、結い上げてうなじを見せていたのだ!
細い首は俺にキスをしてと誘っていて、そして、四角い襟ぐりは彼女の可愛らしい鎖骨を強調していた。
「み、ミュゼ、おはよう!その服はとてもかわいいよ。俺と初めて出掛けた時のワンピースだよね!」
ミュゼは、ぱあああああああんと、音がするぐらいに目を輝かせ、俺に嬉しそうにそうだと元気に答えた。
それから、俺の女神は迷える子羊な俺に進む道を示してくれた。
「でね、今日は一緒に帰ってくれる?水着を選ぶのを手伝って貰いたいの。今度の休みはボディボードして遊ばない?」
俺は勿論だよ!と有頂天になりながら恋人に返事をしたが、そんな俺には教室内の男どもからの揶揄いのヤジが飛んだ。
そして俺は上機嫌のままミュゼの教室を出たのだが、あれ、俺はもしかしてミュゼに上手にあしらわれたのだろうか?
スーハーバー
海と港の常夏な町
漁師町 栄えているので個人店も住人の家々も小奇麗で清潔感溢れる町
センダン一族の長は町長よりも偉い。
八十年代のアメリカや日本の田舎町をモデルにしている。
よって、日本にある喫茶店風のダイナー(チェリーパイは絶対)や、アメリカドラマには必ず出現する雑貨屋もある。
アメリカではソーダ水が頭痛の薬と言われていた事もあり、薬局でソーダ水やアイスも食べられるが、スーハーバーの薬局はクスリ関係しか置いていない。
ソーダ水はクリームソーダとして喫茶店で飲むのだ!




