その四 ハルトくん
親友達は保健室を出て行った。
私は、ああ、何という事だろう!
介抱しなければいけない、本当は病院に運んだ方が良いかもしれない病人がいるのに、保健室の扉の内カギをかけてしまったのだ。
カチャリ。
私とハルトしかいない保健室にその金属音は劇的ぐらいに響き、ベッドに横になったばかりの病人が嬉しそうに喉を震わせた笑い声を立てた。
私の大好きな笑い声だ。
抱きしめられた時に彼が笑うと、ぎゅうっと彼に押し付けられた私がいるからか、喉を震わせる低くて素敵な声となるのだ。
私は濡れタオルを胸に抱き、ってひゃあ、冷たい、ああ急いでハルトのもとに駆け付けなきゃ。
私がベッドの横に立つと、頬を真っ赤に火照らしたハルトが私を嬉しそうに見上げた。
私はタオルをまず真っ赤になった彼の頬に額にとそっと拭っていき、熱を冷ますのに一番良いだろう首筋に当てたそこで、彼の唇に自分の唇を重ねた。
「ああ、もっと熱くなっちゃう。」
「ああ、ごめん。すぐに全身を冷やすから、ね。」
私はタオルを濡らし直し、そして、再び彼の首筋を拭おうとして、まあ!私の手がそこで止まってしまった。
「全身を冷やさないとって君が言った。」
「で、ででででも、シャ、シャツを完全にはだけちゃう、な、なななんんて!」
ハルトの上半身は何て神々しいというか、少女漫画の世界でありがとうと、私は神様に感謝をささげていた。
私、ダンサーとか、時代劇俳優とか、アイドル歌手の裸とか、ええと、少年っぽさが残る様な線の細い男性の体の方が好きなのよ。
だから、ええと、ハルトの腰から上の裸は、尊い、ものだった。
え、まだ拭いてもいないのに、ハルトがボタンを掛け直そうとしている!
「ま、待って!まだ体を拭いていない!」
慌てた様に閉じ切っていないシャツに私は濡れタオルごと右手を突っ込み、その勢いでタオルはぶしゅうと冷たい水を放出した。
「ああ、ごめん!シャツが濡れた!」
「いいよ。熱いから丁度いい。」
「じゃあ、拭かせて、あの、私に見られるのが嫌、なら、目を瞑ったって。」
「……あのさ、貧相だっただろ?ジュールズの上半身を思い出したらね。なんだか急に恥ずかしくなっちゃって。」
私は反射的に自分の体を見下ろしちゃった。
胸も小さく貧相だ。
前世よりもスタイルはいいけれど、重要キャラ、ええと、ダレンのお姉さんのダニエルみたいに胸が大きい訳でもない。
「ハルトはおっぱいが大きい方が好き、かな?」
「急に何を言うのかな、ミュゼは!」
「いや、だって、ハルトの身体は綺麗だったのに、そういう事を言うからって、きゃああ!」
私はハルトに抱きしめられていた。
でもええと、濡れタオルが二人の間に挟み込まれた格好だから、私達の胸元は一気にべちゃっと濡れてしまった。
「ハルト?」
「うん、やっちゃった。少しだけ脱ごうか?干しておけば乾くかも。」
静まれ静まれ、静まれ私の心臓。
ええ、何でも上げるって約束した。
そして、小説世界で言えば学園もの。
学園ものの恋愛物だと、保健室で!ってあるある世界?
でも、前世の常識を持っている私は、学校で、それも保健室で、そんなことはちょっと出来ないでしょう!という感じだ!
「えと、ええと。脱ぐの?ええと、それで。」
私の唇は塞がれた。
抗議するべきなんだろうけれど、ここ一か月近く、いいえ、監禁されたりの数か月を含めれば私にはハルト成分が少なすぎる。
砂漠で見つけた水みたいにして私こそハルトを求めていて、だから、私は彼の身体に両腕をまわしていた。
まあなんと!
いつの間にか彼はシャツを脱ぎ捨てていて裸だった。
私からちっとも唇を離さないのに、なんて器用なんだと笑いが漏れた。
笑ったせいで、ハルトは私に無理難題を平気でふっかけた。
「ミュゼも脱いで。」
「はふ!」
私はワンピースだ。
脱いだら、ええと、ぶ、ブラジャーとパンツだけになる!
つーーーー。
「は、ハルト君?」
「後ホックも外したし、チャックも途中まで下ろしたよ?」
まあ、親切!
でも手慣れていませんか?
あなたはダレンに初めて君だって揶揄われていなかった?
混乱している私をよそに、私のワンピースはチャックを下ろされたせいではだけてずり落ち、私の右肩がかなり露わになった。
「きゃあ!」
ハルトは私の肩にキスをした。
そのキスは私の心臓をひっくり返し、私の腰の辺りに電気ショックみたいな刺激を走らせた。
「いや、だった。」
「嫌じゃない。でも、こんなとこではいけないことだから。」
私の唇は塞がれた。
そして、保健室のベッドにトスンという風に私は背中から転がっていた。
ワンピースがいつの間にか腰まで下がっているぞ!
どどどどど、どうすればいいのかな!!!!
ハルトムート・ロラン 16歳 誕生日3/5
瞳はエメラルドで焦げ茶色の髪に金色のメッシュが入っている。
少年ぽさが残る肢体。ダンサーみたいなしなやかな体つき。
魔法養成特待生クラスの人気者の男子。
小説の主人公の初恋相手という設定で、小説では皮肉的なものの見方と同級生たちから一歩引いているため見識が広く、小説においては主人公を正しい方へと導く存在となっている。
しかし、小説はエルヴァイラ視点によるもので、実際では、本人は飛行機を作ったり乗ったりの人生を望んでいるので魔法養成特待クラスにいなければいけないことにうんざりしているだけ。
風魔法に関しては天才的に次々と魔法を作り出せるが、その他の属性はさっぱり。
小説と違って子供っぽく檄しやすく短慮(その短所全てミュゼ関係のみで発してしまう)で、お坊ちゃまなため、人見知りが強く、気に入らない人間には斜に構える。
気に入った人間にはベタベタに懐く。
物凄く懐く。
かなりの焼き餅焼き。
面倒な自分を解ってくれて押しつけがましくないミュゼが好きだが、全く頼ってくれないのも嫌だと怒る面倒くさい系の一人の男の子。




