その三 保健室にはダレンと②
ダレンの外見は出会った頃とはちょっと違う。
軍人カットだった焦げ茶色の短い髪は今や伸び、チョコレートの精だと女の子達に憧れられるような甘い柔らかい雰囲気をさらに際立たせて演出している。
ニッケと私が良いねと言った筋肉はまだあるが、その時よりも少し筋肉が落ちて細くなっているので、実は今の方が良いよね、と私もニッケも思っている。
ダレンの体つきは、暴漢に襲われてからジムで体を鍛えただけらしく、ジュールズが首都にあるダレンの実家に下宿し、夏休みはジュールズと過ごしていた彼は、ジュールズのケンカに強いカッコイイ体に憧れて体を作り直したらしいのだ。
末っ子長男だった彼は、ジュールズに夢中だ。
そして、ジュールズの事を自分の兄の様にして行く先々で褒めるので、恐ろしい事に、センダン家ではダレンを親戚の子と見做して甘やかすようになってしまった。
ジュールズの実家で、どころかセンダンと名がつく家ではどこもよ!
センダン家親戚の我が家だって、ダレンが来ると父がお菓子あげちゃうのよ!
母なんて、私が帰って来てもいないのに、道端でダレンに会えば彼を招いてご飯を食べさせちゃうくらいなんだもの。
ハルトにはママもパパも冷たいくせに!
「おい、ミュゼ。ぼっとしないで保健室のドアぐらい開けてくれ。」
「ああ、ごめん!」
私は急いでドアを開けた。
ダレンはそのまま保健室のベッドに進み、すぐにハルトを横にしていたので、私は保険医を呼びに行こうと踵を返した。
「いいよ。呼びに行かなくて。単なる熱中症だ、この馬鹿は。でもさ、呼びたいならどうぞ。アストルフォが来るぞ。」
私は立ち止まるしかなかった。
立ち止まって、それからアストルフォに助けを求めなくていいようにと、保健室の棚に向かい、体を冷やすものや体を拭くものを取り出すことにした。
どちらにしろ、急いでハルトの介抱をしなければ!
それにしても、全く、あの男も訳が分からない。
大きな財団の会長で軍部の顧問もしている大忙しの人ならば、巣に帰れ!と言ってやりたい。
奴はまだこのスーハーバーに、あの私を監禁した、私が大人になったら住みたかったセンダン家の賃貸に住み着いているのだ。
なぜに!
この町にまだ何かあるのか!
「ミュゼ、後はお前に頼んでいいか?こいつはかなりグロッキーだ。」
え?
ダレンはいつのまにやらタライを氷河の風景みたいにしてくれていて、その氷水を浸したタオルを私に差し出したのである。
「服を脱がして体を拭いてやって。俺はニッケと今日のお菓子を食べてダベりたい。昼休みの時間は有限じゃないか?」
私はニッケを見返した。
ニッケはニヤリと笑った。
私は奪うようにしてダレンからタオルを受け取った。
あなた方は最高のお友達ですわ!!
ジュールズ・センダン 18歳
ハルトが彼をヒヨコと呼ぶのは、彼の髪色が金髪ではなくヒヨコ色をしているから。
瞳は新緑色、あるいはペリドット色。
本来は本を読んで静かな音楽を聴くなどの教養が高い青年だが、家業の為に荒っぽい男性像を演じて進学も諦めていたという苦労人。
ミュゼに関しては親戚唯一の女の子という事で、どう扱っていいのか分からず、また、恋し始めてから兄妹という感覚になったら恋こそ実らないと一歩引いて接していたがために、トンビ(ハルト)に油揚げをさらわれた狐という可哀想な当て馬。
現在彼を気に入ったダレンの実家に強引に下宿させられ、首都の名門大学の医学部に通っている。また、絶世の美女、ダレンの姉ダニエルに恋をされて狙われている。
フォークナー家ではジュールズ(ピアノ弾ける)とピアノ連弾したいと娘が再びピアノに向かったので、娘の恋を応援中。ジュールズに煩くするからとダレンの電話をシャットアウトしたりもしている。




