その二 ニッケってば!
お昼が終わると私達は外に出た。
九月末でも秋めくどころか南国仕様のスーハーバーだ。
日差しは眩しく照りつける。
「おお、アダムの部屋で昼寝もしておけば良かったかな。」
「アダムと川の字になって?すごく嫌よ。」
「フハハハ確かに!それにしてもお前のところのちびちびは遅いな!せっかくだし、ハルトを呼ぶか!」
私はニッケの両腕を取った。
ここは恥ずかしがったりする場面じゃない。
私はハルト成分を切に求めているのである。
「お願いします!」
ニッケは沢山のウミウシ妖精を使役している。
そのどれかをハルトに付けているのかと私は考えたのだが、ニッケは口元に手を当てて大声を上げた。
「ハルトやーい!」
一陣の風が私達の周囲で巻き起こり、その風が止んだそこに、ハルトがいた。
日々日焼けしているっぽい肌がもっと黒くなってしまうのではと思うくらいに彼は赤く火照っている。そんな彼は何事もない顔をして私に微笑んで、いや、格好良く登場した自分に酔っているようにも見えた。
私はそんな彼の登場にほおっと溜息をついて見せるどころか、自分の恋人の馬鹿さ加減を忘れていたと少々イラつきながら彼の手を引っ張った。
有無を言わさず、だ。
「ミュゼ!」
「もう、お馬鹿!一体どのくらい外にいたの!外から伺わずに一緒にご飯を食べましょうとか、そう言って私達を突撃すればいいじゃない!お弁当を多めに作っているのはそのためよ!後でニッケにマフィンやカップケーキを届けて貰っているのは、いつだってあなたの為のものがあるから来て欲しいってそういう気持ちで、もう!手紙だっていつもつけているのに!」
私はハルトをすぐにでもバーンズワースの部屋に引き込んで、それで水か何かを飲ませなきゃと慌てていたのに、ハルトが急に足を止めた。
「きゃあ。どうしたの?眩暈?」
彼は親友を睨んでいた。
親友はわかりやすいぐらいにそっぽを向いている。
「ハルト、ええと?お手紙も何も届いていないんだ?」
ハルトは私には何も答えなかった。
ハルトに睨まれている後ろ向きのニッケが、わしにも恋心があるからな、とボソッと呟いた。
「ダレンだな。」
「ダレンなのね。」
ダレンは自分は姉に虐げられて育ったと言い張るが、末っ子長男な彼は自分が一番じゃ無いと嫌だというとっても我儘な男である。
また、アストルフォの隠れ家で一緒に生活していた事があるせいか、彼は私を妹認定しており、兄である自分にもハルトと同じもの、いや、ハルト以上のものを寄こしてしかるべきという思い込みが出来ている。
食べ物関係だけだけど。
それは私の責任だろう。
私はアストルフォの監視下にあった時、ダレンが私がハルトやニッケに会えないからと彼らとの橋渡しになってくれていた。ダレンに感謝した私は、ダレンが頼んで来たら彼の言うがままに飯を作ってやっていたのだ。
ねえ、チーズポップ作って。
なんか甘いの食べたい。
お腹空いた。
全部、深夜になってからの頼み事だが、私はハイハイと言って作ってやった。
でも、あのチョコレートが溶けるくらいのホットな笑顔で、寮の飯は不味かったから天国だよ、なんて言われると許して流してしまってもいたな。
ああ、甘やかしすぎた私の馬鹿あ!
私はハルトの腕をグッと握った。
「まずはあなたを冷やさなきゃ。それで、明日からはダレンとお昼を食べに来てくれる?私はあなたが熱中症で倒れたり、日焼けのし過ぎで皮膚がんになったりするのが嫌だから、ええ、あなたを追い払おうとするセンダン家のヒヨコ軍団にはそう言うから。」
ハルトは私に振り向き嬉しそうに微笑み、しかし私の目の前でぐらりとよろめいたまま地面に倒れた。
「うわあ!ニッケ!助けて!」
ニッケ・ドロテア 青い髪に青紫色の瞳 16歳 誕生日10/10
人種が違うためハルト達と比べて彫は浅いが肌は白く、大きな目に小さな鼻と口という妖精の様な雰囲気を持つ可愛い系の美少女。
南国の海に浮かぶ島国、トゥルカン王国のお姫様であり、次期女王様。
本当は苗字はないが、アルカディア連邦合衆国で生まれた際にアルカディアの国籍を得ており、その時の登録が父親の姓となっている。
海系のものなら何でも呼べる召喚士
また、糸を紡いで繭を作れるという特殊技能を持っている。
魔法使いとしては水と土という相反しているが、南の島、小美人とくれば、キャラ的にモ〇ラ的技能を添加したかった。
元は軍人のエリートなのにダメンズとなった父に育てられたためか、ダメンズな男性には弱い。




