その一 アダム・バーンズワースさん??②
「大丈夫だ。アダムは仲間だ、なあ。」
「ああ、勿論だよ。僕は君達の会話を誰にも話さない。僕の心の中にだけ仕舞っておくから安心しなさい。ああ、そんな事は絶対にしないよ。女子高生の会話、それもちょっとエッチな話だったら、ご褒美みたいじゃないか、ねえ。」
バーンズワースはうふふと笑ったが、物凄く人好きのする美形なのに、どうしてこうも単なる変態親父で残念な人なんだろうか。能力のせいでコミュニケーションがうまく取れないからだとアストルフォは言っていたが、こんなんでよくも大学とか軍で講師など出来たものだ。
いや、この学校でも人気のある体育教師で悪い噂を聞かない。
もしかしてこの人は、気の置けない人に対するデレがこれなのか?
気を許すと変態になるってだけなのか?
「まあいいじゃないか、ミュゼ。」
「そうだけど、私の恋バナがアダムの夜のおかずにされそうで嫌だわ。」
夜のおかずってところで、ぶっと、ニッケとバーンズワースが軽く咽た。
私も自分の口元を左手で押さえた。
センダン家の男の子達は、ジュールズが野卑にみえるように振舞っていたのとは違って、普通に今どきの口の悪い男の子達だ。
一緒に登下校すれば、沢山会話だってもする。
「ごめんなさい!センダン家ヒヨコ組の際どい話し方が染ってしまったみたい。ええ、きっとそう!気を付けるわ。」
「いや、いいよ。ちょっと真実だし。」
私もニッケも近くに置いてあるお手玉をとって、思い切りバーンズワースに投げつけた。
私達は初めてここを利用する時、もしものバーンズワースへの対処用として、体育倉庫から紅白の玉入れのお手玉を持ち込んで用意していたのだ。
しかし玉をぶつけられる彼がそれを倉庫に片付けるどころか、毎日私達が座る席の隣にちゃんと綺麗に山盛りにしておくのである。彼は私達に玉をぶつけられたい変態でしか無いのかもしれないと私達は考え、今やお手玉は、バーンズワースが失言をした時の教育指導的な突っ込み道具となっている。
「まあったく。お前の恋バナは国の女官達が口にするものよりもぜんぜん助平では無いのにな。ほんとーにアダムは変態だ。大体、耳つぶも壁ドンも可愛い、いや尊いではないか。キスはどうだったか、とか、勝負下着はどうだとか、どうやってベッドに誘うかとか、生々しいことなどミュゼは言わないものな。」
私は大きく溜息をついて、親友にごめんと謝った。
もう少しで私はその生々しい相談をあなたにしそうだったわ、って。
バーンズワースが瞳を輝かせたので、私はもう一つお手玉を彼にぶつけた。
「ヌハハハ!ミュゼらしい。そしてな、お前のその悩みはハルトこそじゃぞ?ダレンが今やあいつのお守りをしているんだぞ。ジュールズがセンダン家の年下の面倒を見ていた気持ちが分かったって毎晩ジュールズに電話をかけてな、自分の親にジューズルを煩わせるなって叱られて実家への電話を禁止されたってさ。」
私は両手で顔を覆った。
ハルトは授業中の私の教室に飛び込んで、私に壁ドンをするどころか私にそれはもう凄いキスをしてくれたのだ。
爪先が丸まるって、私は初めて経験したわ!
彼は三日間の停学処分になっちゃった、けど。
アダム・バーンズワース 年齢は三十代前半 金髪碧眼
精神感応能力で人間の感情や考え方に干渉することができる。
人の内面ばかり覗いて来たので、外見に拘らないどころか服には拘らない。
しかしなぜか「女子高生」という単語には反応し、ブルマーもスクール水着の概念もない世界にいながら「紺色の競泳用水着」が好きだというフェチがある。
能力によってどんな女性も彼に夢中になって来た虚しい過去があるので、本気で怒ったり罵ったりしてくるミュゼとニッケが新鮮で大好きという単なるウザイ親父になっている。




