私はエルヴァイラ
鏡とは
人間が迷いから目を覚ますようにと、その上で何かある束の間の芝居が演じられるガラス板のこと。
アンブローズ・ビアス 悪魔の辞典(岩波文庫 西川正身編訳より)
これは何巻の話になるのかしら?
私は必死に考えた。
どの話とどの話の隙間になり得る話なのかしらって。
だって、エルヴァイラが矯正院に入所させられる展開なんかどの本にもなかった展開なのだから、そう、本筋から離れてしまったのであるならば、物語を戻さなければこの世界が崩壊してしまうのよ。
愚民どもには判らないでしょうけれど、エルヴァイラはこの世界の根幹であってこの世界を動かす神そのものの存在なのよ。
だから、あたしは必死に今の状況の打破の為に考えているの。
考えれば考える程に、あたしをこんな身に落としたあいつに怒りが湧いてきた。
あたしの魂にダイブしてきたあの女。
結局はあたしが弾いてやったけどね、あの女が世界の歯車を狂わせたのだ。
ハハハハ、だがあの女は今や単なる屍だ。
泣いていたハルト君は可哀想だけどさ、あの女は死体となっていたんだから、あとはウジに纏わりつかれて腐りきるだけだ。
ハハハハ、そう、結局は私が勝ったのだ。
けれども、残念ながら私がエルヴァイラでは無いという事実も、あの女を倒したその時点で受け入れざる得なかった。
いいえ、何から何まであたしがエルヴァイラだったと改めて認識できた、と言った方が良いのかしら?
だってあたしは前世の記憶を取り戻した。
あの女に呪われて、体がエルヴァイラのように細くなることも、社会で活躍するにも大学受験も就職面接も悉く邪魔されてきた前世の人生。
前世の痛々しいあたしを思い返すに哀れで悲しいばかりだが、それがあるからこそ今のあたしがあると言えるわ。
あたしがこの世界でエルヴァイラの体を手に入れられたのは、全て、フォルカナ様のご慈悲と前世のその修行によるものに違いない。
いいえ、あの女のせいで崩れかけたこの世界を立て直すべき戦士としてフォルカナ様はお考えになり、あたしにあんな前世の人生を送らせたのかもしれない。
ええ、やれるわ。
あたしには前世の時にため込んだ、この世界の知識が溢れんばかりにある。
でも、九月十四日のイベントはあの女のせいで台無しになった、と思い当たったそこで、台無しになったからこそのあたしの身の上だったのだと気が付いた。
「そうよ、これは正しい展開かもよ!だって、ハルトは九月十四日に死ぬ予定だったのよ!ハルトが死んであたしは落ち込んで部屋に閉じこもる。正義の執行はその間はお預けということ!ああ、そうよそうよ。ハルトが死ななかったから、その代わりとしてあたしは今こんな所にいるのだわ。」
部屋に閉じこもったきりのエルヴァイラが外に出てくるのは、新たな残虐な事件が起きた事で、あたしが必要だと無理矢理に担ぎ出されるのだ。
あたしは牢番に分かるようにしてドアを叩いた。
ここは矯正院。
刑務所でもなく、それも未成年の為の場所であるから、入所者が電話をしたいと言えば電話を掛ける事を赦して貰える自由もある。
あたしはあたしの部屋のドアを開けた職員に頼んだ。
「お願い。とても大事な話があるの。あたしには親同然のセリーヌに電話をさせてもらえるかしら?」
これから起きる事をあたしは知っている。
セリーヌに教えるのは、エルヴァイラが呼び戻されるきっかけとなる事件。
あたしを神様として担ぎ出したくなる情報だわ。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
本編はこれで終わりとなります。
恋愛物なのにラブ度がいつも少ない恋愛物で申し訳ありません。
いつもそうなってしまうのが悲しい。
王家の紋章が過去に好きだったからでしょうか。
またキャロル誘拐されちゃったよ。
あ、キャロル、現代に戻っちゃった。
面白い漫画でしたね。
前世モブ、皆様に少しでも喜んでいただけたら幸いです。
建物の挿絵や設定やハルトとミュゼのイチャイチャを今後追加できたらと思っています。
2021/5/2 作中で鏡が小道具になっているその理由としてエピローグの前書きに加筆。




