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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第二十五章 モブだろうと君がいればそこが楽園
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壁ドンは君の為に!

 アストルフォはミュゼとの約束を守った。


 頑張って生き残れば褒美をあげる。

 俺とミュゼを幸せにしてあげよう。


 だったらしいが、俺はそれをしっかりと守ってくれたアストルフォを殴りつけたい気持ちだ。


 ミュゼはスーハーバーに戻って来れた。

 その代わりとして、魔法省の司法部部長が殺人罪で起訴されている。

 アンナ・グリーン。

 自ら呪いの標的になると宣言した国民の尊敬の的でもあった彼女は、呪いの的となることで手放した子供に罪悪感を大きく抱いていたそうだ。


 だからと言って、我が子が気に入らない少女を殺処分しようとしていたなんて、と、連日テレビやラジオで放送されて大騒ぎになっている。

 アンナ・グリーン本人は拘留されて尋問を受ける毎日だと聞いた。


 そして、母親を煽った彼女の子供は未成年だという事で、名前と顔写真どころか性別さえも流れることは無い、という人道的処置を取られている。

 また、被害者のミュゼの名前もマスコミは一切公表してはいない。

 しかし、スーハーバーの人間にはそれがミュゼだと知らない者はいない。

 この部分こそアストルフォの仕掛だろう。


 このニュースにより、ミュゼに嫌がらせをしていたスーハーバー校の学生は、ミュゼを殺そうとしていたアンナの子供ではないか、あるいはアンナから金か何かを貰ってのその行為かと疑われる、という図式になってしまったのである。

 もうミュゼをあからさまに虐める人はいない。

 そして、彼女の安全の為に、スーハーバーが一丸となって彼女を守る。

 そんな流れにもなってしまった。


 いや、彼女を親戚の可愛い子供として愛してやまない、スーハーバーの町を取り仕切るセンダン一族が、だろう。


 あそこの一族は本当に結束が固い。

 漁師を抱えている網元だからか、情に篤いが荒っぽさもかなりある。


 町に戻って来た可愛いチョコレート屋の可愛い娘は、学校への通学には必ずセンダン家の誰かが付きまとい、校内でも、それが休み時間でも変わらない、という俺がミュゼに近寄れない事態を作ってくれているのだ。


 俺は畜生と机を拳で叩き、その机に突っ伏した。


「畜生!隙なしだよ!ミュゼは今日も可愛いのに!」


 また同じ学校に通えることになったのに、俺とミュゼはおはようとさようならの挨拶しか出来ないという間柄に落とされてしまったのだ。


「馬鹿お前。おまえがそんなんだからさ、センダン家は一丸となってミュゼのボディガードをしているんじゃないか。」


 俺は机から顔を上げた。

 ダレンは机に肘をついて頬杖をついている姿で、顔を上げた俺と目が合うと、彼は口元を意地悪そうに引き上げてニヤリと笑った。


「何だよ!」


「だってさ、お前。ミュゼちゃんと一夜を約束してんだろ?それ知った兄さんが怒り狂ってさ、お前とミュゼちゃんを二人きりにするなって、手下に伝令流しちゃったの。よって、センダン家カラーヒヨコ軍団は、ジュールズ兄ぃの命を受け、今日もお姫様の警護に力を入れています!」


 そこでダレンは俺に向かって敬礼をして見せた。

 俺とミュゼの約束を誰がジュールズに流したかと言えば、絶対にこいつだ!

 俺は勢いよく立ち上がった。


「こら、ロラン君。今は授業中だよ?」


 俺は初老のロックリー教授に微笑んだ。

 親父を落とした母ノエミぐらいに魅力的な笑顔で、だ。

 彼は俺の微笑みに胸を押さえ、真っ赤になってよろめいてもくれた。


「先生、すいません。俺の一大事なんです。」


っちゃった?」


 ダレンが揶揄うようにボソッと言った。

 立ったのはそんな理由じゃないよ、と俺は軽くダレンの肩を突くと、教授に深々と頭を下げた。

 そして、教室を飛び出した。


 そう、俺は一大事だ。

 ミュゼとちゃんと話せないどころか、俺が彼女に約束していた事をまだなしていないだろうと、それを言い訳に彼女の授業を邪魔するのだ。


「ああ、畜生!一般学生棟と特待生棟はどうしてこんなに離れているんだよ!」


 俺は適当な窓を開け、そこから外へと飛び出した。

 ああ、風属性の魔法使いで良かった。

 そこからまた地面を蹴って、ミュゼがいるだろう教室の窓にまで飛び上がった。

 教室の窓が全開で良かった。

 俺が窓枠に着地するや、俺の突然の来訪に教室にいた生徒の悲鳴が上がった。


「き、君、今は一体何だと!」


「すいません。授業中だと分かっていますが、俺は大事な忘れ物をミュゼに届けに来たんです。」


 窓枠からぴょんと飛び降りて教室の中に入る。

 外から来たせいで室内がなんだか緑色がかって暗く見えるが、俺の目はほんの一瞬でミュゼの姿を見つけた。

 灰色の髪は俺のせいで出会った頃より短いが、ふんわりとして柔らかそうに彼女の肩に落ちている。

 今朝も会った時に言ったけど、淡いピンクのカーディガンと、そのシンプルで地味な灰色のコクーンワンピースの組み合わせは可愛いよ。


「え、ああ、ありがとう!」


「あ、口にしていたか!まあ、いいや、ミュゼ立って。忘れ物を渡したい。」


 ミュゼは忘れものって何だろうと一瞬だけ小首を傾げたが、すぐに俺の為に立ち上がってくれた。

 俺は立ち上がった彼女の腕を引き、そう、この教室で一番俺達から近い壁、そこに彼女を連れて行った。


「ハルト。」


 ミュゼの瞳は大きく見開いた。


 君の潤んだ漆黒の瞳は真っ黒ゆえに沢山の光を取り込み反射して、普通のカラフルな瞳よりもキラキラ煌いているという事を君は知っているだろうか。

 君の瞳は俺の夢見た宇宙みたいなんだよ。


「は、ハルトったら。」


 俺の口はまた勝手に動いていたようだ。

 だけど、これだけはしっかりした意志のもとで口にしたい。

 俺はその思いを込めて、右腕を壁に強く打ち付けた。


 だん!


 ミュゼは脅えるどころか俺を神様を見るような目で仰ぎ見ている。

 俺は直ぐにミュゼに告白をしたいのに喉が詰まり、そんな俺を見つめるミュゼこそ何か言いたそうに唇をほんの少し開けているのだ。

 その桜色の唇は反則だよ!

 俺はその柔らかい唇をどれだけ求めていたか!


「ハルト!」


「ミュゼ!」


「こらあ!授業中だ!ロラン君!停学になりたくなければ、今すぐに教室を出て行きなさい!」


 俺は教師の怒鳴り声で、自分がミュゼを抱き締めてキスをしていたという事に気が付いた。

 俺の腕の中でミュゼは笑う。

 俺は彼女の肩に頭を乗せ、彼女に囁いた。


「ごめん。腕を打ち付けるところからやり直していい?好きって言う前にキスしちゃった。君の可愛らしさは反則だよ?」


「こらあ!ロラン君!」

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