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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第二十五章 モブだろうと君がいればそこが楽園
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俺の大事なうさぎちゃん

 アンナは黙っていればいいものを、自分の命令で俺が人を殺したなどと騒いだ。


 まあ、彼女の命令で司法部で不要な殺人があったと自白してもらいたかったのでそれは構わないが、ハハハ、俺を仲間にしないでくれ。

 俺は命令が無くても殺しはする男なんでね。


 いやいや、命令されての殺しこそしたくない天邪鬼さんだ。


「あなたの命令、今あなたはそうおっしゃいましたね。あなたにはそれを命じる権力があった。命じられた部下は嫌でも従うしかないでしょう。あなたがお考えになった、悪の予備を排除する、というシステムでは、無実に思える者の命さえ奪うという恐ろしいものだとお考えになった事はありますか?」


 俺は言いながらおかしくなっていった。

 だってそうだろう。

 あんなにも自分の娘ではないとアンナが嫌うエルヴァイラ。

 そのエルヴァイラによる紺色の呪い。

 悪だと思った者は排除するのが正義という呪いだが、エルヴァイラの母ではないはずのアンナがそれと全く同じことを考えて、権力を使って殺人を実行してもいたのだから。


 本当にあの呪いは邪魔だった。


 俺がいくら一般人の仮面を被ろうと、俺のちょっとした振る舞いにピンと来たらしい一般人が、あの呪いの為に増長して俺を貶めようと動くのだ。


 今はもうないけどね。

 俺のうさぎちゃんのお陰だ。

 彼女は俺の呪いを抱きかかえ、エルヴァイラの肉体に突っ込んでくれたのだ。


 もちろんうさぎは弾かれて自分のおうちに帰ったが、エルヴァイラを魂ごと俺の呪いでしっかりと汚染してくれた。


 青色系にはオレンジ色系が補色となるのは知っているかな。


 つまり、紺色の呪いに俺が作り上げたオレンジ色の呪いが混ざり、全てが透明、つまりクリアとなったのだ。


 ああ、この成功はあのお姫様の助言のお陰もあるね。


 今までのうさぎちゃんの魂は、自分の体から飛び出たらご近所をフワフワするだけで、エルヴァイラの体には一切近寄りもしなかった。


 俺は悩んだ。

 意識を失わせたエルヴァイラの体に入らないからと、二回目はエルヴァイラをうさぎちゃんそっくりに改造もした。

 それでもやっぱりうさぎちゃんはエルヴァイラの体に入らなかった。

 ハルト君の周りでフワフワしていたから、ハルト君をエルヴァイラにキスすように誘導までしたのに、うさぎちゃんは戻って来ちゃった。


 がっかりした俺は、そこで、うさぎちゃんが今の自分の体を捨てたくなるように、ハルト君が一番嫌がりそうな外見に作り替えた。

 まあ、その俺の努力は良かったかもね。

 俺のやろうとしていた事に気が付いたお姫様が、俺に怒鳴り込んできてくれたのだし。


――自分の身体じゃない体に、それもその体本人の魂があるのに、魂の移転が出来ると思っていたのか?このアホンダラが!


 そっか、アンナの亭主が虫の息の中で再生した赤ん坊は、最初から別人の赤ん坊だったんだね、と、俺はようやく気付いたのさ。

 あら、それじゃあ、エルヴァイラの魂とうさぎちゃん魂を交換して、紺色の呪いを消すのは不可能じゃない?

 じゃあ、うさぎちゃんを毒兎にして行ってこいを覚えさせれば良いんだね、と。


 ああ、素晴らしき俺のうさぎちゃん。

 ハルト君が君がミュゼじゃ無いと死んじゃうよって、散々に煽ってあげた甲斐があったというものだ。

 あの子はちゃんと行ってこいが出来たよ!


「で、でも、あなただって賛同して!」


 あ、いけない、お話中だったね。

 俺はこの返しだけは誇りをもって答えられると微笑んだ。


「ええ、賛同して、監視を付けた上で証人保護プログラムで保護しております。」


 大事なうさぎちゃんをお前の命令で殺すかよ、ばあか。

 アンナへの俺の返しに対し、部長室にいる人々から、称賛の溜息やら、尊敬の眼差しが俺に集中した。

 ハハハ、俺の方がここでは正義の味方のようだ。


 ねえ、皮肉だねえ。

 君のお父さんこそさ、この俺をね、サイコパスの危険な兆候があるって進言してくれた人なんだよ。

 その頃にはね、奇跡のヒーラーの親と持て囃される事になった両親は、俺を疑った事を謝り、著名な精神科医のボリス・トレバー大先生の診断結果などゴミ屑扱いをしてくれたけれどね。


「でも、でも、あなたはスーハーバーで。」


「ええ。連続的に起こる死亡事案に関して調べていました。あなたの最新の命令は罪のない少女の命を奪う事。ええ、普通に考えて良心のある人間がそんなことに従うはずは無いじゃないですか!あなたはどうしてそこまであなたの為に誰かが手を汚すと信じておられたのですか?あなたは自分が何を言っているのか分かっていらっしゃいますか?」


 そこでようやくアンナは自分の立ち位置に気が付いた。

 自分が何を喋ってしまったのか、さえ。


 ハハハハ、この衆人環視の中で、お前は何を言っているんだよ?

 美しく若い男である俺に肩を揉ませたりと、セクハラめいたスキンシップを無防備に望むから、あんたはこんなことになったんだよ?


 俺はヒーラーだ。

 いくらだってお前を自分好みの奴隷に作り替える事が出来るんだ。

 俺が望んだ時に、お前が望まなくとも真実を自白する、とかね。

 あるいは、俺が誰かを殺したいときに生贄の名簿を作ってくれるとか、ね。

 俺は検察官に目配せをした。


「私はもういいですか?患者が待っておりますので。」


「はい。ご協力ありがとうございました。ドクターアストルフォ。」


 俺は俺をちゃんと知っている相手に微笑んだ。

 本当に皮肉だよね。

 この俺が医療財団の会長をして、日々人助けをしているというのは。

 これもみんな祖父が俺に託してくれたリリーのお陰だ。


 ああ、リリー、俺は今でも君の骨を大事にしているよ。

 君はとっても美しい標本だ。

 いつか君の隣にお友達を並べてあげる。


 君と同じうさぎちゃんでね、君みたいに可愛がることでね、俺の性癖を隠すことができるって素晴らしい存在なんだよ?

 その上さ、君と同じぐらいに、とってもきれいな骨格をしているんだ。


 ただね、いつも処置ちょうり前に蘇生めざめちゃうって、困ったうさぎさんでもあるんだよ。

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