帰って来た、モブ!
くしゅん!
大きなくしゃみをして、それで目が覚めた。
目覚めた私が見たものは、私を見下ろす親友達と恋人の顔だった。
ハルトは泣きそうで、ダレンはハルトの次に泣きそうで、ニッケは当たり前だという顔をしながらもホッとした笑みをニヤリと浮かべてくれた。
私は愛する皆と再会できた幸せに、全員に抱きつこうと起き上がろうとしたところで、しばらく死んでいたからか背中がとても痛いと身を捩った。
どうしてだ?
少し冷静になってみると、私が横になっているのはアストルフォの家であるのは間違いないが、私専用バスルームのバスタブの中だった。
あれ?いつもはベッドなのにな?
ハルト達はバスタブに転がされている私をバスタブ越しに見下ろしていたのであり、体が痛いながらも身を起こした自分がまだお婆ちゃんの水着姿でもあった事に気が付いた。
「ええと。死んだ私をアストルフォが適当に放ったから、皆が埋葬の為に私を引き取りに来てくれた丁度その時って感じかしら。」
「アストルフォが適当に放ったのは正解じゃ。埋葬は間違っているな。お前の魂はわしが入れ直したからな、わしらはお前の目覚めを待っていたってだけだ。」
「ニッケ、ありがとう。ああ、ニッケ!あなたに会えて本当に嬉しい!ああ!ニッケ、ニッケ!」
私はバスタブ越しになるがニッケに両腕を伸ばして彼女を抱き締めようとしたが、その私の腕をダレンが片腕で弾いた。
両腕が上に跳ね上がったためにバランスが崩れ、私は仰向けに倒れた。
勿論私がバスタブのどこかに頭をぶつけて転がり直すことも無く、私の背中にはハルトの腕が差し入れられて私はハルトの腕に寄りかかっていた。
「バカダレン!ミュゼが怪我をしたらどうするつもりだ!」
「うわ、ごめん。でもお前を差し置いて、ニッケニッケだろ?俺とお前の方がすっごくミュゼの為に奔走していたと思わねぇ?そこは説教しとこうよ?」
「で、でもダレン!私はその感謝の意味も込めて、あなたに散々にお菓子やらなんやら作ってあげたじゃ無いの!真夜中にパンプティングを作らされた恨みだってあるんだからね!」
「うるせえよ!そのパンプティングの半分はニッケに喰わせたんだから良いだろ?俺様の思い付き万歳だろうが!」
「おい、ちょっと待てよ!俺は食ってない!パンプティング食べてない!」
「煩い、ハルト。で、ミュゼは一人でシャワーを浴びれるか?アストルフォがな、いつも洗っているのは死体には黒蠅の卵や緑膿菌とかつくからだって嘯いていたからな。体は洗っておいた方が良かろう。」
毎回おしっこを漏らしていたからと言っていたが、あれは、嘘か?いや、もしかしたら漏らしていた?
私はハルトの腕に寄りかかったままなのに気が付き、ひゃあと言って彼の腕から離れた。
「どうした?」
「いや、ほら、死ぬといろいろ緩くなるってアストルフォが。それで、あの、死体になっちゃったときに、あの、私ったら、おしっことか漏らしていない?」
ハルトは口元に手を当ててぶふっと笑い出した。
目元に涙を滲ませてもいたが、彼が笑ってくれたのは嬉しかった。
おしっこを漏らしていたのを知られていても、うん、恥ずかしいけれど、彼が笑ってくれるならそれも別にいいぐらいだ。
「ああ、俺はミュゼじゃ無いと嫌だ。この可愛い顔して馬鹿な事しか言わないミュゼじゃ無いと嫌だ。調子っぱずれの声でローゼルヒ~って、未だに意味が分からない歌を歌うミュゼじゃ無いと本当に嫌だ。」
「ハルト!」
私はハルトに抱きついていた。
純粋にハルトに抱きつきたかったが、ちょっと黙れと言う気持ちもあった。
ほら、ダレンがローゼルヒとは何だと知りたがりの顔をしているじゃないか!
教えなきゃ何々を作れとか、平気で言うのよ、この男は!
でも、今は、ハルトに抱きつく事が出来て私は幸せだ。
ハルトムート・ロラン様が、九月十四日なのに、生きて、ここにいて、この私を抱き締めているのよ!
私を愛してくれているのよ!
でも、彼が私を好きになったきっかけが、そんな恥ずかしい歌を歌っている時、というのが物凄く残念だった。
ああ、せめて楽園の歌を歌ってる時であったらよかったのに。
ハイビスカスは花弁をシロップに付けたりお茶にしたりできますが、その食べられるハイビスカスはブッソウゲ一種だけです。違うハイビスカスを間違って食べたら大変です。また、お茶などでハイビスカスとして出回っているものは、ハイビスカスと違う種類のローゼルという植物になります。
ミュゼはボディボード遊びのついでに、ローゼルを摘みに自殺岬に行っちゃったのでした。




