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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第二十五章 モブだろうと君がいればそこが楽園
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さあ、死体洗いは誰にする?

 アンナたちが乗ってきた車が次々とスーハーバーの高校を去っていったが、校庭の祭り騒ぎは終わってはおらず、遠くで起こる人々の嬌声が時々聞こえた。

 どのくらい時間がたったのか。

 それとも時間は少しも経っていないのか。

 再び大きな車のエンジン音が近くで聞こえた。


「ダレン、ハルトを車に誘導してくれ。うさぎちゃんは抱いたままでいいと言えばちゃんと動くだろ。」


 俺はミュゼの遺骸を抱きかかえ直した。

 誰がアストルフォに従うか!


「ハルト、大丈夫じゃよ。わしが舞台下にいたのはアストルフォの指示だ。」


 俺は直ぐ近くに来たニッケを見返し、ニッケがミュゼの死に泣いてもいなかった事に驚いていた。


「お前、顔が変わったから、ミュゼがいらなくなったのか?」


「ミュゼの顔のミュゼじゃ無いと嫌だって、散々喚いたのはお前一人じゃろ?ミュゼが顔に大きな怪我をしたら、お前はミュゼを捨てるのか?」


「そんな訳無いだろ!アリスの顔はアストルフォが作ったから嫌だったんだよ。……でも、やっぱり、俺はミュゼの顔じゃ無いと嫌だ。この顔に惚れたんだ。」


「男って奴はぁ。とにかく、ダレンの手を煩わせるな。車に乗るぞ。わしがついているから大丈夫だ。なあ。」


 俺は裏切り者のニッケを見返し、それからダレンに目線を動かした。

 彼は額に手を当てて酷く落ち込んだ顔を見せていた。


「ダレン?」


「すまない。ハルト。俺もこの結末には落ち込んでいるけど、たった今、俺のインカム担当で魔法ガードしてくれたおっさんがネタバレしてくれた。畜生。何が敵を騙すには味方から、だ。」


「え?ネタバレ?何がだ?」


「それな。」


「ダレン。ここでは黙れ。それはあとで、だ。」


 アストルフォの言葉にダレンはきゅっと唇を噛んだ。

 俺は一体何の話なのかとぼんやりするしかなかったが、ダレンはそんな俺の方へ近寄り、そして、ニッケと二人してミュゼを抱く俺を立ちあがらせた。


 俺はこのやり取りに希望を抱いた。

 それでミュゼを抱き直した時に彼女の頬に頬ずりをしたが、俺の腕の中の事態はほんの少しも変わっていなかった。


 ミュゼは死んでいる。


「ほーら、早く。魔法省の誰かに見咎められたら大変だ。とにかく撤収。」


 俺達はアストルフォの誘導で、窓ガラスがスモークになっている大きなボックスカーに乗せられた。

 運転手はダレンがおっさんと呼んではばからないバーンズワースで、今日も美形の癖に適当なジャージ姿だったので、俺も彼をおっさん認識することにした。


 アストルフォは車の助手席に座ったので、後部座席は俺とダレンとニッケ、そして、死んでしまったミュゼだけだ。

 後部座席は二列もあったが、ダレンは一人、そして、ニッケは狭くても俺の隣に座り、ミュゼの頭側を受け持った。

 彼女は自分の膝にミュゼの頭を乗せさせたのだ。


 ミュゼの足は座席から降りているが、俺達の膝の上に横寝しているような態勢となり、俺の膝の上がミュゼの丁度腰部分で、俺はミュゼのどこも撫でられなくなったとニッケを少し恨んだ。

 ニッケはミュゼの頭を時々なでたりしているのに。

 涙どころか後追い自殺をする気力も湧かないくせに、この程度の事に嫉妬する感情は残っていたのか?


「わしはなあ、ミュゼにも謝らんとだなあ。ミュゼを取り戻したいからと、ミュゼのもしも以外は手を出さないと悪魔の契約に乗ってしまった。」


「ニッケ?」


「おいニッケ!お前が契約に乗ったって事は全部知らされたんだろ?俺なんかハルトと同じ情報で踊らされたんだよ。俺にはミュゼに言ってやれる事に制限もかかっているだろ?俺は必死にね、魂の移転が起こんないように、もう物凄く悩み通しだったんだよ?そんな俺がお前のフォローもミュゼにしていたというのに。」


 前の座席から振り向いたダレンは、長い両腕を伸ばし、ニッケの両の頬を両手で挟んでむぎゅと潰した。


「しょ、しょうがなかろ。それこそアストルフォの作戦だと言われれば、わしはお主達に黙っているしか出来ん。大体な、わしは召喚士だ。魂には一家言あるのじゃよ。そのくらいお前らは気が付かなかったのか?」


 ダレンはニッケから両手を外し、俺はニッケに先を促した。

 そこでニッケは小さな口から大きなため息を吐きだした。


「わしは抗議しただけじゃ。お主は魂の事を知らなすぎるとな。」


「ニッケ?」


「魂の事を何も知らぬ馬鹿者がと叱ったのじゃ。生きている人間に別人の魂など植え付けられる訳など無いだろうに。そんな事も知らんと、二度もミュゼを無駄に苦しめて殺していたとは何を考えているんだとな。」


「え?」


 俺はミュゼの魂の転移について語ったアストルフォの後頭部を見つめた。

 すると、俺に見つめられていると知った男は大笑いを上げた。


「笑い事かよ?」


「笑いごとだよ。この俺もまだまだ知らないことばかりってね。大体俺はヒーラーであって召喚士じゃないんだ。でも、お姫様に叱られて修正できるところは修正できたから感謝している。俺の思い通りの結末だ。」


「お前がヒーラーってのも悪い冗談だよ。お前は人殺しじゃないか。殺してばかりじゃないか!ミュゼは、ああ、じゃあ、ミュゼは死んだままなのか!」


「ハルト、煩い。それでアストルフォよ。聞くがミュゼは毎回どのくらいで目が覚めた?」


 俺の首の骨が折れたらニッケのせいだ。

 俺は物凄い勢いで横に座るニッケに振り返っていた。

 目が覚める?

 目が覚めると言ったか?


「うーん、毎回丸一日ぐらいはぐっすりって感じ。明日のこの時間には目覚めるんじゃないの。今回はウサギちゃん丸洗いの役は君に頼めそうだけどね。」 


 俺の首の骨は本気で折れそうだ。

 俺は再びアストルフォを見返していた。


「丸洗いって、丸洗いって何だよ!」


「え~普通に全身洗浄。死んじゃうとさ、黒蠅がいつの間にか卵産みつけたりね、生きている時にはつかない菌が繁殖しちゃってたりするの。そんなのついた人をウチのベッドに寝かせたくないなあ。」


「お前のベッド?ミュゼをお前が洗っていた?ぜ、ぜんしん?お、俺がやるから!お前は二度とミュゼに触るな!」


「ハルト、声が裏返っている。気持ちは分かるが、その役はニッケに譲れ。」


「ば、ばか!気持って何だよ!俺の恋人なんだ!俺が!」


「安心しろ、ハルト。風呂ぐらい自分で入るさ。あと二時間ぐらいでミュゼは目覚めるからな。わしがいれば魂の帰還など一日もかからんよ。」


 俺は物凄い勢いでニッケに再び振り返り、助手席の男が素っ頓狂な声を上げた。


「え!どうやったの!」


 アストルフォは本気で驚いたようだ。

 ニッケはそれはもう悪そうな笑みを顔に浮かべた。

 にやり、というやつだ。


「お前の一日って所で魂の探索に範囲を決めたのさ。わしは今世紀最高の召喚士だと言うたじゃろうが。誰が自然に戻るのを待つか。なあ!」


「ニッケ!お前は最高だよ!」


 俺は大声で叫ぶと隣のニッケを抱き寄せた。


「わ、わ、わあ。」


 俺はニッケのほっぺたにキスもしていたかもしれない。

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