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前世がモブなら転生しようとモブにしかなりませんよね?  作者: 蔵前
第二十四章 欲望と期待をひとまとめにすれば希望となる
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意識も単なる電子記号

 ぎゅっと目を瞑り、背中の呪いに意識を集中させた。

 アストルフォのラジオからは、世界中の言葉で同じ歌詞を同じメロディで歌うという、九月十四日ならではの音楽が流れている。


 初めてちゃんと聞いたような気がするが、この曲は心地がよい和音どころか、錆びた歯車がゆっくりと回るような音で頭が痛くなってくるものだった。

 こんなものが魔法使いの大事なものなの?


「~フォルカナ様は人に力を与えて~」


 フォルカナという神様を崇めているはずなのに、フォの部分が五つも六つも重なって聞こえてくるという、本当に耳障りな……エフが六つ重なる?


 神様の声を唱えるから音程も上がっているみたいだし?


 楽譜の記号で半音上げるのはシャープ記号だ。

 シャープ記号にエフを六つ書き込んだら、それはカラー表記?

 カラー表記って言えば、十六進法?


 十六進法という言葉で、急に前世で年の離れた従兄に教えられた、コンピューターの不思議な話を連鎖的に思い出してしまっていた。


「昔はさ、十六進法のコードをちまちま入力してね、でもさ、そんな苦労しても電源を落としたら消えてしまうデータだろ、カセットテープにそのデータを保存していたんだよ。でね、ダウンロードする時はカセットを流すだろ?耳障りなFAX音が奏でられて煩かったよ。」


 ああ、音はそのままデータになる。

 何かに気が付いたような気になったそこで、サビらしい部分が錆び付いた音を立てて流れて来た。


「~唱えよ、フォルカナの名を。フォルカナに祈りをささげよ。同じ言葉を見つけ同じ言葉を同時に唱え~」


 耳障りでしかない魔法使いの為の歌。

 同じ言葉を同時に唱えさせることで音を複合化?

 人間の脳波は微力電波。

 脳の活動は電気信号で構築されているものでしかないとしたら?

 この歌が魔法使いを作る歌であるのは、八〇%は使っていない人間の脳に未知のデータを送り込んで脳を活性化するパルスでしかなかったとしたら?


 アストルフォの呪い。

 オレンジ色に輝いた時、それは微かに点滅していなかったか?

 呪いこそ十六進法で表されるプログラミングの様なものだとしたら?


 ああ!私は何を考えているの!

 集中して集中して集中するのよ!

 ハルトが私から奪った呪いを取り返さなければ、ハルトが今にも死んでしまうというのに!


 でも、そこでぽつっと閃いた。

 データ消去ってどうすればいいのかしらって。


 違うでしょう!だめだだめ、どうして呪いに集中できないの?

 それはこの小煩い歌が私の脳みそをざわつかせるから?


 私は小うるさいラジオ音声を消すべく、ダレンの秘密基地の図書館に籠ってはそこで読んでいた、歌のもととなった石碑の碑文を呟き始めていた。


「人と神は同じ地上に住んでいた。神は人の為に雨を降らせ天を輝かせ風をそよがせ、そして、豊かな土から次々と命あるものを生み出していった。」


 どうしてそれを唱えようと思ったのか分からないが、もともと百年前にこの碑文の古代文字を解明して読み上げた事が発端だと聞いていたからだろう。


「長い年月が経つごとに人はそれを当たり前といつしか思い、神へ感謝を捧げる事も忘れ、人に忘れられていった神々はその力を失って、失って。」


 呟く事でラジオの音声は私から遠ざかり、目を瞑っている私の瞼の中で、オレンジ色の光の瞬きが見えた気がした。


「はう!」


 背中に痛みが戻って来た。

 私の手を握るハルトの指がほんの少し動いた気がした。

 集中よ、集中するのよ。

 ハルトが受けた毒を私が全て受け取るの!


「ミュゼ?」


 ダレンが心配そうな声を私に掛けたが、私の意識は自分の背中に痛みが増えることにだけ集中しようとしていた。


「す、姿までも失われていった。神を失った世界は荒れ、雨は降らず天は雲に隠されて世界は温かみをうし、失い、」


「ミュゼ危ない!」


 ダレンが私に大声をあげた。

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